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“大人数グループ”はなぜ韓国で発展を遂げた? SUPER JUNIOR、IZ*ONEら誕生背景から考察

2019年10月17日 15:41  リアルサウンド

リアルサウンド

IZ*ONE『Vampire』

■韓国「大人数グループ」の礎となったSUPER JUNIOR


 アジア特有のアイドル、ダンス&ボーカルグループの形の一つに、大人数の大型グループがある。日本でもAKB48グループや坂道シリーズ、モーニング娘。など10人以上のメンバーを抱える人気アイドルは珍しくない。


 日本と並ぶアイドル大国でもある韓国で最初にブレイク「大人数グループ」は、2005年にデビューしたSMエンターテインメントのSUPER JUNIORだった。デビュー時から12人という大所帯だったSUPER JUNIORは、当初は毎年メンバーの入れ替えがある日本のモーニング娘。のシステムをベンチマークする予定だったため、最初のEPには05’の表記がある。しかし翌年に新しくキュヒョンが加入したところでメンバーの入れ替えを望まないファンからの反発により、13人の固定メンバーで活動することになった。その後脱退等あり現在の正式なメンバーは10人になったが、その後の韓国男子アイドルのシステムに及ぼした影響は大きいと言われている。大人数グループのメリットのひとつとして、グループ内での様々な組み合わせによる「ユニット活動」がしやすいということがあるだろう。韓国のアイドル初のグループ内ユニットはSUPER JUNIORのメインボーカルを集めて結成したSUPER JUNIOR-KRYである。その他にも「ファンを幸せにする」というコンセプトから誕生したSuper Junior-Happy、韓国歌謡のトロットをテーマにしたSuper Junior-T、中華圏での活動を目的としたSuper Junior-M(Mandarin)、人気コンビのドンへとウニョクで結成されたSuper Junior-D&Eなど、多くのユニットが誕生している。


 同じくSMエンターテインメントから2007年にデビューした少女時代も、過去の人気グループ・Fin.K.L.やS.E.Sが3人組であり同時期にデビューしたWonder Girlsが4人組だったことを踏まえると、9人というのは当時としてかなりの大所帯である。韓国ではすべての年齢層にアピールし、海外まで攻略できる汎アジア的女子グループを目標として作られたグループであり、そのために様々な個性を持ったメンバーとダイナミックなパフォーマンスが可能な人数を揃えた結果が9人だったと言えるだろう。2009年にPledisエンターテインメントからデビューしたAFTERSCHOOLは、グループ名の通り学校のように卒業があるのをコンセプトにしていた。デビュー当初は5人組だったがその後加入と脱退を繰り返し、2010年には少女時代と同じ9人組だった。REDやBLUEなどグループ内ユニットが多く、特にナナ・レイナ・リジによるOrange Caramelは曲ごとに変わる大胆なコンセプトチェンジが話題になり人気を博した。


 2012年にSMエンターテインメントからデビューしたEXOは、当初EXO-K(Korea)とEXO-M(Mandarin)という2組のパラレル的な6人ユニットから形成されたグループで、韓国と中国で同時に活動することを目的としていた。しかし中国人メンバーの脱退が相次ぎ当初のコンセプトが不可能になったため、9人組として活動することに。 大人数グループといっても少し変則的な形であるが、やはり大人数がステージ上で激しく入れ替わるパフォーマンスが代名詞でもあり、グループ内ユニットであるEXO-CBXやEXO-CSが誕生している。


■TWICEとSEVENTEEN、プデュシリーズの流行


 2015年以降、さらに大人数グループが増えるきっかけになったと思われる出来事は大きく分けて2つ考えられる。ひとつは女子ではTWICE(9人)、男子ではSEVENTEEN(13人)のデビューとブレイクだろう。TWICEは少女時代、SEVENTEENはSUPER JUNIORを思わせる人数であり、特にSEVENTEENはSUPER JUNIORが変則的に行ってきたユニット活動をボーカル・ラップ・ダンスという担当パート別に分けて固定したという点が進化系で、同時に13人という大所帯をフルに活用したダイナミックで演劇的なパフォーマンスがシグネチャーでもあり、ある意味でパフォーマンス面における「大人数グループシステム」の究極形とも言えるかもしれない。これらの影響を受けてか、2016年から2017年にかけてはSF9(9人)、PENTAGON(10人)、宇宙少女(13人)、LOONA(12人)、Stray Kids(9人)など、小・中堅クラスの事務所からも大所帯グループの企画やデビューが相次いだ。


 もう一つ大人数グループ流行のきっかけになったと考えられるのが、2016年に始まった『PRODUCE 101』シリーズである。シーズン1からデビューした11人組のI.O.Iがブレイクし、続くシーズン2のWanna One(11人)、『PRODUCE 48』のIZ*ONE(12人)が続けて人気を得たこともアイドルシーンのグループ制作に影響を与えたと考えられるだろう。実際、以降のアイドルサバイバル番組からデビューしたグループは10人前後が多い。


 一方、「大人数グループ」の概念を作ったSMエンターテインメントは、2016年から「無限にメンバーが拡張し続けるグループ」という新しい概念のNCTというシステムをスタートさせている。これは、固定のメンバーではなく楽曲やコンセプト毎にメンバーが増えたり入れ替わり、それぞれのユニット活動が前提のシステムである。SUPER JUNIORで頓挫した「メンバーが入れ替わっても継続していくグループ」というコンセプトがベースにあると思われるが、韓国内で男子グループは固定メンバーの集団にファンドムがつきやすいという問題に直面したためか、2018年には18人のメンバーによるNCT2018という固定メンバー内でユニットを組ませるという方向に転換した。2019年現在、曲ごとのユニットであるNCT U、ソウルが活動ベースのNCT 127、未成年メンバーのNCT DREAM、中国活動を目的とした威神Vなどのユニットが存在している。


■大人数グループのメリット/デメリットは?


 大人数グループは、


(1)メンバーのバリエーションや人数が多い分、物理的にファンドム規模も大きくなる(はず)
(2)大人数ならではの迫力のあるパフォーマンスが可能
(3)グループ内ユニットの可能性
(4)人数が多い分、お互いの足りない部分を補い合いやすい
(5)メンバーの休養や脱退があったとしても少人数よりは埋め合わせやすい


 等のメリットが考えられるが、一方で、


(1)メンバーの数が多い分パフォーマンス内での見せ場が減りやすく、個人が埋没しやすい
(2)よって個人メンバー間で格差も出やすい
(3)練習生時代からデビュー後まで、衣食住を事務所が負担する韓国の練習生システムでは人数が多いほど事務所の金銭的負担が大きい


 等のデメリットも考えられる。実際、韓国のアイドルグループはその時々の人気グループのトレンドを反映しやすいため、「101人から1/10の確率で選ばれる」というシステムがベースにある『PRODUCE 101』シリーズ関連以外では、2017年ごろから現在までグループの人数は女子は4人前後、男子は5~7人が最も多い人気グループのパターンに落ち着いてきているようだ。


 しかし、大人数グループには「多様性を見せやすい」という利点もある。2017年にデビューしたNow Unitedは、過去にSpice Girlsなどのプロデュースをしてきた『アメリカン・アイドル』のプロデューサーが作ったグループで、北米~ヨーロッパをベースに活動しているが、14カ国の異なる国籍を持つ14人のメンバーが所属する、「多様性」を体現したようなグループだ。日本でも、母体グループであるEXILEは加入と引退を繰り返して新陳代謝していくように進化したLDHで2014年から活動しているTHE RAMPAGEは16人という大所帯だが、様々なルーツを持つメンバーが在籍しており、特にライブステージにおいてその「大人数ならでは」の特性が発揮されている。


 時流によって変化しやすいのがアイドルのグループシステムではあるが、大人数でしかできないパフォーマンスのダイナミズムや、選択肢の多様化によってファンが「自分だけの推し」を見つけやすいという利点は大きい。また、お互い補い合うことで個人の能力以上のポテンシャルを発揮できるのが「グループアイドル」というものだとしたら、人数は多い方がそのケミストリーを生む確率が高いとも言えるのではないだろうか。(DJ泡沫)