2019年10月17日 11:01 弁護士ドットコム
日本列島を直撃、東日本を中心に甚大な被害を出した台風19号。東京都内でも、次々と避難勧告や避難指示が出される中、台東区が避難所を訪れたホームレスの人たちの受け入れを拒否したとして、問題となっている。
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台東区によると、2人のホームレスが区民ではなかったことから、避難所に受け入れできないと説明したという。
台東区の対応は批判を集め、国会でも10月15日、安倍首相が「避難した全ての被災者を適切に受け入れることが望ましい」と発言。同日、台東区の服部征夫区長は「避難所での路上生活者の方に対する対応が不十分であり、避難できなかった方がおられた事につきましては、大変申し訳ありませんでした」と謝罪した。
ホームレスの人たちが受け入れを拒否された10月12日、都内ではJRなどで大規模な計画運休が実施され、交通手段も限られていたほか、商業施設でも臨時休業が相次ぎ、屋内で暴風雨を避けられる場所は少なかった。
台東区の対応は、法的に問題はなかったのだろうか。憲法に詳しい作花知志弁護士に聞いた。
ホームレス2人が10月12日に訪れたのは、台東区池之端にある忍岡小学校。台東区広報課によると、ここは前日から自主避難所として開設されていたという。
12日午後5時には、谷中2丁目、池之端1丁目、2丁目の急傾斜地崩壊危険箇所周辺を対象に、「避難準備・高齢者等避難開始」が発令、自主避難所から避難所へと変更された。谷中や池之端以外の住民も利用できる避難所だった。
台東区によると、避難所では「避難者カード」への記入を求めていた。しかし、そこに訪れたホームレス2人は住所が書けず、担当者が「区民の方以外は受け入れが困難」と告げたという。ホームレスが飲酒していたようだとネットで発言した台東区議がいたが、のちに本人がこれを否定した。
台東区は今後の対策について次のようにコメントしている。
「今回、住所不定の方への避難場所という意識がなく、援助の対象からもれてしまっていた。区民や区外の方から現在、さまざまなご意見をいただいています。他の自治体の事例やご意見を参考にさせていただきながら、災害時に住所不定の方達をどう援助できるのか検討していきたいです」
では、台東区の対応は法的に問題はなかったのだろうか。作花弁護士は、災害救助法や災害対策基本法に違反すると指摘する。
「災害救助法の第2条では、『当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して、これを行う』と規定していまして、『現に救助を必要とする住民に対して行う』とは規定していないわけです。
また、災害対策基本法第3条1項で、国の責務として、『国民の生命、身体及び財産を災害から保護する使命を有する』と明記していますので、『生命、身体を災害から保護する』ことを優先しなかった台東区の対応は非難されるべきだと思います」
また、災害対策基本法49条の7でも、避難させる対象者を居住者だけでなく「滞在者その他の者」も含めて明記している。
さらには、憲法13条についても作花弁護士は言及している。
「憲法13条は『すべて国民は、個人として尊重される。生命・自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』と規定しています。
国民の生命は国家において最も尊重しないといけない権利であり存在である一方で、住民票の有無というのは、憲法よりも下位の効力しかない法律で規定されていることです。
台東区としては憲法上最も尊重しないといけない権利である生命を守ろうとするべきだったわけで、憲法には『国民の生命は住民票により住所を有する者について最も尊重しないといけない』等の区分は規定されていません。
憲法よりも下位の効力しかない法律制度である住民票の有無に固執したことは、非難されるべきだと思います。憲法は、生命をはじめとする国民の基本的人権が守られるために、国家権力に課された命令規範です。そのことをもう一度確認していただきたいと思います」
【取材協力弁護士】
作花 知志(さっか・ともし)弁護士
岡山弁護士会、日弁連国際人権問題委員会、国際人権法学会、日本航空宇宙学会などに所属。
事務所名:作花法律事務所
事務所URL:http://sakka-law-office.jp/