子どもが勉強に意欲的になるためにはどうすればいいのでしょう。1000人以上の生徒・保護者と個別指導で向き合った結果、ほぼどのような子どもでも、あるアプローチをすれば勉強に意欲的に取り組むようになることがわかりました。(文:個別指導塾「STORY」取締役 妻鹿潤)
結論から言うと、1つのメソッドがあるというより「その子の強い動機を見つけ出して勉強と繋げる」というものです。動機とは、その子が行動を起こすときのきっかけになっているもののこと。
動機と勉強をつなげ、「頑張れば達成感が生まれる」という認識を持ってもらうと、このあとも勉強に取り組むサイクルができます。これを繰り返せば繰り返すほど、勉強へのやる気が高まりました。
"強い動機"を見つけるために重要なことは、その子をよく見ること、子どもの現在や過去の情報収集をすること、そして"ノウハウを伴った分析"が非常に重要になります。
個別指導でじっくり生徒を見ていくと、本当に人の数だけ個性や価値観があることがわかります。似ていると思った子ども同士でも、全く違った個性や価値観であることも多く、「このボタンを押したらすぐにやる気になる」という簡単なものではありません。
子どもの動機を見つけるには「何に夢中になっているか、夢中になってきたか」が大切
では、どのように動機を探せばいいのか。一番わかりやすいのは「いま勉強を頑張っている」「前に勉強をとても頑張ったことがある」という子どもですが、なかなか少ないと思います。
そのため、勉強以外で「今その子が何に最も夢中になっているか」「なぜ夢中になっているか」を分析することが大切です。現在だけでなく、過去に夢中になってきたものもあわせて見るとわかりやすいです。
例えば、サッカーに熱心な子を思い返しても、ざっと以下のような動機の種類がありました。
「うまくなるのが嬉しい」「将来サッカー選手になるために頑張りたい」といったことや「○○君に勝ちたい」「凄いと言われたい」「親を喜ばせたい」「怒られたくないからうまくなりたい」「皆が頑張っているから」「このまま引き下がる自分を許せない」などさまざまです。
子どもの「楽しかった!」「こんなのありえない!」から動機を探す
それらが子どもの口から出てこないときはどうするか。子どもと会話していると、「本当にムカついた」「本当に楽しかった!」「こんなのありえなくない?」など、特に強い感情が出てくる瞬間があります。
そのとき原因を掘り出すほど、強い動機の共通点が見つかる傾向があります。強い動機は複数ある場合も多いので、そのときは「特にどの動機が強いか」を見るようにしました。
特に強い動機は約1~4つ程度に集約され、その子の行動や感情に一貫性が見えてきます。例えば、「人に承認されたい」という動機が強いと、頑張った時に「自分を見てくれたか、自分を褒めてくれたか」という観点からの発言や要求が多い傾向にあります。
ほかにも、人に「どう思われるか」を過度に意識する、人との関わるときは配慮や敬意を求めるといったことも多いです。今まで色んなことに取り組んでいると思っていたけど、実は1つの強い動機が原因で、その接続先や表れ方が違っただけ、ということはよくあります。
承認欲求が強い場合、「家庭が条件付き承認」「強い人間から危険を感じていた」ことも
強い動機は「後天的」に形成されることがほとんどです。そのため、動機がいつ・どのように形成されたかは、その子どもの過去を遡って分析すれば、仮説を立てることができました。
例えば、上記の「人に承認されたい」という生徒だと、その形成過程は以下の2つが多いです。
例1 家庭環境が"条件付き承認"が強い家庭だった
その子の存在をあるがままに受け入れる(存在承認)というより「こんなことしたら良い、ダメ」と"条件付き"の承認が強い家庭だと、承認されたい気持ちが強くなるケースが多いです(実際、程度の強さより「子どもがどのように受け取っているか」でその強さは決まります)。
特に幼少期に条件付き承認が強いと、「人に認めてもらえるかどうか」が判断基準になります。認めてもらうために悪いことをしないようにし、「良いことをしているのを見てもらえているか」「悪いことをしていないと思われないようにする(必要であれば隠す・嘘をつくなどするケースも)」など、見られ方を気にするようになります。
例2 強くて怖い人間から危機を感じるような環境
強固なスクールカーストが存在する、親やスポーツの鬼監督・コーチや学校の怖い先生など"強くて怖い人間"がいて、ボコボコにされた、またその様子を見てきたような環境だと、身の安全を守るために強くて怖い人間への「承認」を求めることが多くあります。
厳密には「承認」とは違いますが(この背景には安全を求めていることがあるため)、承認されるため=危機を与えられないため、強くて怖い人間からの見られ方を意識する、認められるように行動する傾向が見られました。
それでも動機が見えてこない場合、不安・心配の根源を断つことが重要
どれだけ接しても、どれだけ過去を掘り下げても、それらが見えない子もいます。そのような子は、強いトラウマやコンプレックス、不安や心配事など大きな"負"を抱えている可能性が高いです。
大きな負に意識が巻き取られると、動機が生まれる余力が無く、無気力状態になっていることがあります。また、前向きなものが出てこない、出てきたとしても「どうせ無理だ」と思ってしまい、ポジティブな動機や感情がわかない、取り組んでもうまくいかないことがほとんどでした。
その場合、強い動機や感情を探す前に、不安や心配などの根源を断つことが必要です。一緒に取り組む、成功体験を積むといったことで強い動機や感情が出てくる子もいました。
このようにして見つかった動機が勉強をすることで達成されると自信になり、前向きな気持ちで勉強に取り組めるようになります。「頑張ればこの喜びがまた味わえるんだ」と思うことでサイクルが繰り返されるのです。
今回は"勉強"への強い動機の接続について記載してきましたが、無理に勉強ばかりに動機づけをする必要はないと思います。
ただ、学校やテストは子どもにとって避けられないものです。大人になれば一人で生き抜く力が必要になりますが、これは勉強で培えると言っても過言ではありません。そのため強い動機を持って勉強を頑張ることには意義があると考えています。
【筆者プロフィール】妻鹿 潤(めがじゅん)
株式会社STORY 取締役/SB学び事業部責任者・キャリアコンサルタント
関西学院大学法学部卒。大手学習塾で教室長として、生徒・保護者からの信頼を得る。
1000人近くの小・中・高生と、それ以上の保護者と関わり、培った知識と経験から、その生徒に完全オリジナルのオーダーメイドカリキュラムを確立するに至る。地域で評判となり、10か月で100名以上の生徒が入塾するまでになる。
大手個別指導塾で生徒へ価値提供ことへの限界の痛感や、大学や社会でのミスマッチに絶望する現実を目の当たりにしたことから、理想の教育を形にしているSTORYに参画。現在、SB学び事業部責任者として、子供達に点数アップ・志望校合格に加え「社会で生き抜く力」を提供する。