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DV受けても警察に通報しない日本女性  EUとの比較で浮かび上がった「社会的圧力」

2019年10月13日 10:01  弁護士ドットコム

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東京都目黒区で2018年3月、両親から虐待を受け5歳の女の子が亡くなった。夫からのDVにより、母親は逆らうことができなかったという。2019年9月の裁判では「報復されるのが怖くて、それで私が通報できなかったのです」と話した。


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日本の女性は夫や交際相手などパートナーからの暴力を警察に通報しない傾向があるーー。家庭内暴力の被害が潜在化しやすいことは、2016年に行われた「女性の日常生活の安全に関する調査」でも明らかになっている。調査では同じ手法で行われたEU平均の通報率が14%だったのに対し、日本では被害にあった53人中、通報した人は一人もいなかった。



調査を担当した龍谷大学法学部の浜井浩一教授は「パートナーからの暴力の場合、通報しなかった理由として『自分にも非があるのではないか』という回答もあった。通報することがためらわれる社会的圧力があることも関係しているのではないか」と話す。



●日本の女性の暴力被害、EU平均と比較し半分

調査は近畿圏在住で無作為に選ばれた18~75歳の女性2448人を対象に、2016年10月~12月にかけて、事前研修を受けた女性調査員が自宅に訪問する形で行われ、741人から回答を得た(回収率30.3%)。



この調査は、FRA(欧州基本人権庁)が2012年、女性の暴力被害の実態を把握して、結果を政策に活かすためにEU加盟28カ国で行った‘‘Survey on women’s well-being and safety in Europe‘‘の日本版で、FRAの監修の下、調査票や調査手法はEU調査と同じ形で行われた。



パートナーまたは上司や先生、見知らぬ人など非パートナーから身体・性的暴力を受けた女性の割合は、日本が17%に対しEU平均は33%だった。パートナーに限ると、身体的暴力は日本が9%に対しEU平均が20%、性的暴力は日本が2%に対しEU平均が7%と、いずれも約半分の割合だった。



●パートナーからの暴力被害、警察通報は0人

EU調査と比較し大きな特徴が見られたのが、警察への通報についての項目だった。15歳以降にパートナーから身体的もしくは性的暴力を受けた日本の女性に対して、被害時に警察に通報したかどうか尋ねたところ、53人中0人だった。EUでは女性の14%が警察に通報している。



日本女性の通報しなかった理由としては、「たいしたことではない」、「自分で何とかした」、「自分にも非があるのではないか」、「警察は何もしてくれない」「人に知られたくない」との回答が多かった。



一方、非パートナーからの暴力被害については、日本が12%に対しEUが13%とほとんど差は見られなかった。日本の女性の場合、警察に通報するかどうかは、加害者との関係性が大きく影響しているということだ。



●調査自体が「啓蒙活動」

浜井教授は「欧州基本人権庁は、この調査自体を啓蒙活動と捉えている」と話す。



暴力被害については、「平手打ちをされたことがあるか」、「髪をつかんだり引っ張ったりされたことがあるか」などの身体的暴力から、「家族との連絡を制限しようとしましたか」、「外で働くことを禁じますか」、「あなたが望まないのにポルノを見させられたりしましたか」などモラルハラスメント、「パートナーはあなたが望まないもしくは断ることができないときに、なんらかの形の性的行為に参加させたか」といった性的暴力に至るまで細かな設問があり、EU調査の調査票はA4用紙で75ページにわたる。



「これだけ調査票を細かく作っているのも、調査をする人やされる人、調査結果を読む人全員に『調査票に含まれていることは暴力だということ』と知ってもらうため、キャンペーンの意味を込めた調査です」



●「本当の事は回答しにくい」

調査終了後に行った調査員へのアンケートでは、「DVに関わっていたことのある人がいることに驚きました」、「被害にあわれた方の悲痛な心の叫びを聞いた思い」との声があったという。調査対象の女性から「本当の事は回答しにくい」と言われた調査員もおり、他人に被害を打ち明けることの難しさもうかがえる。



浜井教授は警察通報率の差について「被害者本人を責めるバッシングの傾向もあり、通報した時に周りから否定的に評価されるのではないかと当事者が感じている可能性がある」と指摘。



「被害者だけでなく、児童虐待がそうであったように、周囲の人たちを含めて安心して被害相談や通報ができる社会的風土を醸成していくことで、被害が申告しやすくなり、結果として支援を受けやすくなるのではないか」と話した。



【プロフィール】浜井浩一(はまい・こういち)。1960年生まれ。龍谷大学法学部教授。矯正・保護総合センター長。専門は刑事政策、犯罪学。早稲田大学教育学部卒業後、法務省に入省。刑務所など矯正施設や保護観察所などの現場のほか、法務総合研究所で犯罪白書の編集関わったほか、国連勤務などを経験。編著書に「2円で刑務所、5億で執行猶予(光文社新書)」、「犯罪統計入門ー犯罪を科学する方法(日本評論社)」、「実証的犯罪論(岩波書店)」など。