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おかもとえみが語る音楽の“隙間”と“微熱感”、同世代女性や自身と向き合って感じたこと

2019年10月11日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

おかもとえみ(撮影:西村満)

フレンズのボーカリストとしても精力的に活動中の、シンガーソングライター・おかもとえみによる1stアルバム『gappy』がリリースされる。


 前作のミニアルバム『ストライク!』からおよそ4年ぶりとなる本作は、EVISBEATSやillmore、PARKGOLFなど、かねてより親交を深めていた気鋭のトラックメイカーのほか、赤い靴やmabanua、さらには堀込泰行など、彼女が敬愛するプロデューサー、アーティストが多数参加。アルバムタイトルが意味するように、隙間のある音像が聴き手の想像力を自由自在に反映させつつも、濃密なサウンドスケープを全編にわたって展開している。個性あふれるクリエイターらによる多彩なトラックが並んでいるが、不思議と統一感に貫かれているのも印象的だ。


 フレンズで見せる、明るくて清々しい“えみそん”(おかもとえみの愛称)から一転。「諦め」や「絶望」とその先に微かに見える「希望」を歌う彼女の歌詞は、人生最初のターニングポイントに立つ同世代の女性は特に、共感するところが多いのではないだろうか。


 アルバムの制作エピソードや、今年で29歳を迎える彼女の今の心境など、率直に語ってもらった。(黒田隆憲)


(関連:kolme RUUNA×フレンズ おかもとえみ対談 日常から生まれる言葉と音楽「“見たもの”を大事に」


■一人で聴く音楽は音の隙間や間を大切にしているものが多い


ーーソロ名義のアルバムとしては、ミニアルバム『ストライク!』から4年ぶりとなりますよね。その間、フレンズはもちろん、他アーティストとのコラボなど、活動の幅を広げてきた印象があります。


おかもと:はい。THEラブ人間のベーシストを卒業して、最初はソロになろうと思って。もともとエレクトロっぽいサウンドやR&Bが好きだったので、まずは自分でトラックを作ってリリースしたのが『ストライク!』だったんです。その後すぐにフレンズを結成して、「次はいつソロを出そうかな」と考えているうちに気づいたら4年経っていました(笑)。で、今回久しぶりにソロを出すにあたって、「おかもとえみにしか出来ないことって何だろう?」と考えたときに、以前のエレクトロ感やメロウな感じをさらに追求しつつ、私の色をより濃くしてくれるような方たちと一緒に出来たらいいなと思って、今回は様々なトラックメイカーさんにお願いしました。


ーーフレンズは他のメンバーもソロ活動をコンスタントに行なっているし、えみそんさんもアルバムのリリースこそなかったものの、ボーカリストとして多方面でフィーチャーされるなど、フレンズ以外の活動も色々されていましたよね。


おかもと:そうですね。『ストライク!』に収録された曲の中で、EVISBEATSさんにアレンジしていただいた「HIT NUMBER – EVISBEATSとPUNCH REMIX」がいろんな人に聴いていただく機会があったみたいで。それまではTHEラブ人間のベーシストとしてバンド界隈にいたのが、それまであまり関わりのなかったクラブ界隈で曲を流してくださることが増えたんです。そこからオファーを頂くことが多かったみたいですし、実際フィーチャリングしていただいた楽曲はどれもカッコよくて、毎回新鮮な気持ちでやっていましたね。


 ほかにも、例えばillmoreくんとは大分のイベントに遊びに行った時、たまたま出会って意気投合して。そこから「思い出す (feat. おかもとえみ)」(2018年)という曲でコラボすることが決まったりしていました。


ーー今作『gappy』も、そういった中で知り合ったトラックメイカーが多く参加されていますよね。


おかもと:TSUBAMEさん、illmoreくんもそうだし、卓球仲間のパーゴル(PARKGOLF)もそう。それに、私の活動が大きく広がっていくきっかけを作ってくださったEVISBEATSさんには、今回も絶対に参加していただきたいと思っていました。


 それと以前、吉澤嘉代子ちゃんのバンドでベースのサポートをやらせてもらった時に、赤い靴の神谷(洵平)さんがメンバーにいて。ドラムがすごい方だなと思ってびっくりしたんですよ。とにかくグルーヴ感が心地よくて。それで今回、神谷さんにはillmoreくんが作った楽曲「remind」のプロデュースをしてもらったんですけど、illmoreくんのエレクトロ調の楽曲に対して生楽器を使ったものすごく面白いアプローチをしてくださいました。


ーー確かに、アルバムの最後に収められこの「remind」は、他の楽曲と比べて異色な仕上がりですよね。


おかもと:私は赤い靴の「Let it die !」という曲が大好きで。おもちゃ箱をひっくり返したようにカラフルで、全ての楽器が粒立って聞こえてくるような、すごく密室的かつキラキラした印象があるんです。そんな雰囲気のアレンジにしてもらいたいなと思ってリクエストを出したら、すぐに理解してくださったんです。おもちゃ箱というより、宝石箱をひっくり返したような、素敵なアレンジにしてもらいました。本当にいろんな音が散りばめられていて、何回聴いても新しい発見があってすごく嬉しかったです。


 神谷さんだけでなく、今回プロデュースしてくださった方たちは、どなたも私自身が思いつかないようなトラックを作ってくださって。自分の中にある新たな面をたくさん引き出してもらったなと思っています。


ーーアルバムを作る上で、何かコンセプトやテーマはありましたか?


おかもと:タイトルの「gappy」には、「隙間が多い」という意味があって。自分が一人で聴く音楽は音の隙間だったり間だったり、そういうものを大切にしていることが多いんですよね。人と人との関係性もそうで、「詰まってない感じ」というか、せわしなくないほうが好きで。今回のアルバムも、そういう隙間や間を大切にした、聴いている人の心の染み入ってくるような作品になったらいいなと思って作りました。曲によって共感してもらったり、泣いたり笑ったりしてもらいたいなと思いつつ、全体的にはメロウでゆったりした時間が流れているというか。


ーーなるほど。


おかもと:今ってスマホをいじったり、SNSなんかをしている時間が多いじゃないですか。もちろん私自身もそうなんですけど、たとえば夜、駅から家まで歩いて帰る間は、そういう情報から一旦離れて何気ない日常の風景を感じられる貴重な時間だと思うんですよね。普段、情報が多いからこそ、自分自身が「休まる場所」になっている。今回のアルバムも、誰かにとってそういう「休まる場所」になったらいいなという気持ちもありましたね。


■堀込泰行、EVISBEATS、mabanua…敬愛するアーティストたちとの曲作り


ーー楽曲は、この4年間で書きためていたものですか?


おかもと:「POOL」、「planet」、そして「ひみつ」の3曲は、3年前の配信限定EP『POOL』に収録されていましたが、それ以外はここ1、2年の間に作った曲がほとんどでした。


ーーちなみにアルバム制作期間中、よく聴いていたのはどんな音楽でした?


おかもと:最近、唾奇くんとフィーチャリングでご一緒させてもらってから、彼の音楽をよく聴くようになって。そこからBASI(韻シスト)さんが唾奇くんをフィーチャリングした「愛のままに」を聴いて、「なんだこのアンセムは!」と思ってBASIさんのアルバム『切愛』をよく聴くようになりました。昨年リリースされたillmoreくんのアルバム『ivy』も、未だに毎日聴いています。帰り道とか、電車の中とか、一人で聴くときにはヒップホップやR&B、エレクトロ系の音楽をよく聴いています。みんなでいる時は、J-POPを聴きまくりですが(笑)。


ーー曲作りはいつも、どんなふうに行なっているのですか?


おかもと:曲によってまちまちなんですけど、今回はパソコンの前に座って最初に押したコードから作っていきました(笑)。メロディもコードも出だしから全て同時に出てくることが多いんですよ。しかもAメロからサビまで、つるっと一気に作ってしまう。そのあと展開を考えたりして。


 そんな中、EVISBEATSさんにお願いした「 (you’re)my crush」という曲に関しては、最初に「レゲエを作りたい」というテーマありきだったので、ちょっと特殊なケースでしたね。何か具体的なモチーフがあって、そこから作るケースはほとんどなかったので新鮮でした。あとは、お風呂に入っているときにふと思いついたメロディを、忘れないように全裸のまま打ち込むこともありましたね(笑)。


ーー(笑)。いずれにせよ、最初はコードとメロディが思いつくわけですね?


おかもと:いえ、リズムパターンと歌とか、ギターやピアノと歌とか、手と口で出来るもので同時に作っていく感じ(笑)。ベーシストですが、ベースから作ることはあまりないかな。


ーー「僕らtruth」には、堀込泰行さんが作曲で参加しています。


おかもと:「おかもとえみ」名義では、誰かに曲を書いてもらうという発想がこれまでなかったんですけど、今回スタッフから提案があったときに、真っ先に思いついたのが堀込さんだったんですよね。というか他に誰も思いつかなかったし、堀込さんじゃなかったら今回のタイミングでは誰かに作曲を依頼しなくてもいいかなと思うくらいでした。ただ、堀込さんがオファーを受けてくださるなんて、夢のまた夢というか……「明日、火星へ行く」レベルの話だと思っていたので(笑)、決まったときには信じられなかったですね。「嬉しさ」と「ガッツ」と「震え」が同時に来ました。


ーー以前、インタビューさせてもらったときに「(フレンズの)『ショー・チューン』を作っているときは、キリンジさんと西野カナさんの、ちょうど間くらいの歌詞が書けたら最高だなって思っていた」と話していましたよね(参照:CINRA.NET インタビュー「観た者を幸せにできるフレンズ。秘訣は、やりたいことは全てやる」)。


おかもと:そうですね。堀込さんのことはキリンジの頃からずっと好きなんですけど、一番好きな曲がソロ(馬の骨)になってからの「Red light,Blue light,Yellow light」で。それこそ夜道に合うような、心の中に溶け込んでいくような曲だなと思っていたので、そんな雰囲気の堀込さんと今回は一緒にやってみたいなと思っていました。鼻歌のデモ音源を送っていただいたときにはもう、「このまま出したい」っていうくらい感動しましたね(笑)。老若男女全ての人に当てはまるような、教科書に載ってもおかしくないくらいタイムレスな楽曲にしたいと考えながら歌詞を書きました。


ーーこの曲はKan Sanoさんのトラックも印象的ですよね。


おかもと:そうなんです。堀込さんのメロディと、私の歌詞と、Kan Sanoさんのアレンジが混じり合って、とてつもない花火が打ち上がったなというか(笑)。「こんな色になるんだな」と思って感動しましたね。Kan Sanoさんのアレンジじゃなかったら、堀込さんのメロディじゃなかったら、私の歌詞じゃなかったら、全く違うものになっていただろうなと。


ーーこの曲と、mabanuaさんが手がけた「待つ人」のトラックは、やはり低音の作り込みが圧巻でした。


おかもと:mabanuaさんとはずっと一緒にやりたくて、そんな“待つ人”とご一緒できてまずは嬉しかったです(笑)。赤い靴の神谷さんもそうですけど、やっぱりすごいドラマーの方はリズムの作り方も独特で。空間の捉え方がグッとくるんですよね。


 あと、今回はギターが入ることによる「浮遊感」みたいなものも新鮮でした。私自身、ギターが弾けないのでギターからのアプローチってあまりしたことがないんですけど、バンドサウンドではなく打ち込みと混じった時の独特の響きみたいなものを、OpusInnさんやShin(Sakiura)くん、EMCATさん(ENJOY MUSIC CLUB)、TSUBAMEさんのトラックから感じることができましたね。


ーー「planet」は唯一、えみそんさんがトラックプロデュースをしている楽曲です。


おかもと:もともとは、Moratorium Pantsという劇団の、『ヒットナンバー』という公演のテーマ曲を書いて欲しいと言われて作った曲です。前作『ストライク!』の時は全てが手探りだったし「自分で全部やらなきゃ」という気負いもあったんですけど、この頃は少し余裕が出てきたというか。自分が書いたメロディに、どんな音を乗せたら面白いだろう、とか色々考えながら作った思い出深い曲なんですよね。アルバムに収録する際、誰かにリアレンジしてもらう選択肢もあったんですけど、自分もトラックを作ったんだという「痕跡」も残しておきたくて、そのまま入れました。ちょっとした「箸休め」というか、アルバムの中で休憩ポイントになったらいいなと思っていますね(笑)。


■ふと1人になった時に向き合うような音楽でありたい


ーー歌詞はどのようなところからインスパイアされましたか?


おかもと:曲ごとに違うんですけど、「待つ人」は友だちから聞いた悩み事がもとになっています。先日、マツザカタクミくん(ex.Awesome City Club)から「えみそんの歌詞って“微熱感”がいいよね」と言われて。確かに、すごく熱くはなってないけど、なんだか少し絶望していたり、俯瞰していたり、そんな感じの空気が全体的に流れている気がします。


ーーそれはなぜだと思いますか?


おかもと:私、タバコは吸わないんですけど、年に何度か本当にやるせない気持ちの時があって。その時だけ吸ってみるんですよ。別に好きな銘柄とかも全然なくて、なんだか「無」になりたい時に吸ってみる。その時の気持ちって、醒め切っているわけでもないし、興奮しているわけでもない。でもなんかモヤモヤして落ち着かない時の気持ちを歌っていることが、読み返してみると多いなって思いますね。


ーー「チックタックメモリー」の〈流れ流されて 気づけば岸は遥か遠くに〉とか、「僕らtruth」の〈1年前のもどかしさをすり減らし、時を重ねていく〉というラインには、時間が流れていくことへの戸惑いや諦めが感じられます。


おかもと:戸惑いつつも、何か希望を見出している感じはしますね。「チックタックメモリー」では〈変わっていけば良いのかもね〉と、状況を受け入れているし、「TWO LOVE」の最後は〈夢を見させて〉で終わっている。絶望を引き受けつつも、何かその先にあることに対しては希望を持ち続けているというか。全体的に曇っているんだけど、でも晴れ間がもうすぐ差しそう……! みたいな(笑)。そんな心境かもしれないですね。


ーー4年前に出した『ストライク!』の頃と、書きたいことや伝えたい気持ちなどはどう変わりました?


おかもと:『ストライク!』の時は、とにかく曲を作る楽しさや、作ることへの意欲が強かったんですけど、今年で29歳を迎えるにあたり、同世代の女性と話す時に感じたことや、自分自身と向き合った時に生まれてくる感情などがより濃く反映されたと思っています。


 ちょうど私たちくらいの年代って、仕事や結婚について思うことが多くなると思うんですよ。転職を考える人もいるし、「結婚をしたい」と思う人も、逆に「結婚しなくてもいい」という選択肢を選ぶ人もいて。私の周りには、結婚せず海外へ行っちゃう子が多いんですけど、いずれにしても新たな場所へ向かおうとしている人、向かいたいと思っている人が増えているのかなと。そういう同世代の子たちに、「私もこう思っているから大丈夫だよ」と語りかけているような歌詞が、今回は多いのかもしれないですね。


ーーおかもとさんは、自身の年齢やキャリアについてはどんなふうに感じているのですか?


おかもと:私は常に変わっていたい人で、止まれないし止められないタイプなんですけど(笑)、この年齢になって少し考えるようになってきているのかもしれない。今までの私は、どんなことでも1秒でズバッと決めるタイプだったんですけど、今はちょっと俯瞰して考えてみようと思うようになったし、周りの意見も取り入れるようになりました。大人になって、ちょっと視野が広がったのかもしれない。もちろん「全てやってみる」というスタイルは変わらないんですけど、その時に「内容」や「意図」「思惑」を考えるようになったと思います。


ーーフレンズと比べると、やはりソロはおかもとさんのパーソナルな部分が色濃く出ていますよね。


おかもと:フレンズはメンバーが5人いるし、みんなといるときの「自分」が出てきますけど、ソロになるとやっぱり「個」であって、大勢でワイワイ飲み会をやるというよりは、サシでゆっくり飲む夜みたいな(笑)。そういう差があるような気がします。もちろん、大勢で大合唱しながら聴いてもらってもすごく嬉しいんですけど、ふと1人になった時に向き合うような音楽でありたいなって思っていますね。(黒田隆憲)