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The Vocodersは“ハヤシ・ルーツ・アザーサイド” POLYSICSと別でこそできる表現を語る

2019年10月11日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

The Vocoders

10月9日、POLYSICSのニューアルバム『In The Sync』と、The Vocodersの1stアルバム『1st V』がリリースされた。2月3日にホームページ上で2019年はPOLYSICS(以下、ポリ)とThe Vocodersの2つのバンドとして活動していくことがアナウンスされ、それぞれのバンドで4月からの半年間に5作の配信シングルをリリース。本稿では、The Vocodersのハヤシ、フミの2名にインタビューし、ヴォコーダーで表現することの可能性や、POLYSICSのアコースティックバンドという位置付けではなく、あえて別名義のThe Vocodersとして表現したいことは何かを聞いた。(編集部)


(関連:The Vocodersとはどんな新バンドなのか? POLYSICSとの違いをライブから考察


■「こんなメロディの曲作ってたんだ」って自分で再発見する感じ(ハヤシ)
一一The Vocodersは、「世界唯一のカフェテクノグループ」ということで。


フミ:はい、世界唯一です。


一一まあ当然いないだろ、って感じもしますけど。


フミ&ハヤシ:あはははははははは!


一一このバンドの成り立ちから教えてもらえますか。


ハヤシ:はい。2018年の10月13日、「トイスの日」って勝手に制定したんだけど、その日に下北沢をサーキットするイベント『TOISU IN JAPAN FASTIVAL in下北』をやって。ポリだけでいっぱいライブハウスを回る地獄のサーキットで、基本はライブハウスなんだけど、一箇所だけカフェでやることになって。じゃあどういう形でやろうかっていうときに生まれたのがこのアイデアだった。


フミ:いつものセッティングではできないし、基本は着席スタイルだから。


一一普通に考えれば、アンプラグド、アコースティックセットの弾き語りになるところだけど、そこには行かなかった。


ハヤシ:や……どう考えても良くないでしょう。


フミ:私がウッドベース弾いて、どうよ? ヤノがカホン叩いてどうよ? みたいなさぁ。


ハヤシ:曲も何やるのよ? 「カジャカジャグー」なんかアコースティックでやっても全然良くないでしょ。


一一はははは。ごもっとも!


ハヤシ:そこで「どうしようねぇ」って考えて、「じゃあヴォコーダーで全部やるのはどうだろう」って。


フミ:足元にモニターがないから、そもそもけっこう歌がキツいわけで。そこから「あ、ヴォコーダーだったらピッチは狂わないね」みたいな。あと、単にハヤシと私が歌うだけじゃつまんないから、コーラスグループみたいに4人で歌うのはどうだろうって。


一一何かお手本はあったんですか。


ハヤシ:お手本……なかったよね?


フミ:やっぱりイメージしたのはKraftwerkだったりしたけど、でもKraftwerkも別に全員で歌ってるわけでもないし。


ハヤシ:そうだね。だから、まずやってみようかってことになって、自分のスタジオで、なんとなく「The Vocodersはこんな感じ?」っていうサウンドを作ってみたんだよね。


一一最初にやった曲は?


ハヤシ:「Smile to Me」だった。なぜか「Smile to Me」。今思えばもうちょっと違う曲でも良かった気はするんだけど(笑)。


一一あと、最初のライブでは「Buggie Technica」から始まってましたよね。あれめちゃくちゃシュールだった。


ハヤシ:そうそう。「Buggie~」をなんとかThe Vocodersでできないか、って。あれほんと大変だった。


フミ:そもそもThe Vocodersはコーラスグループだって言ってるのに、「Buggie~」には歌がないから(笑)。でも「Buggie~」、あれ以来やってないよね(笑)。もうなんか出オチ感もあって。


ハヤシ:2回目やると面白さも薄まっちゃう。


一一それはつまり、遊びとかオチみたいなものは求めてないし、より本気になっていった、ってことですよね。


ハヤシ:そう。自分たちでも楽しくなってきて。最初のライブでやった後、さらにリアレンジの音色とかも全部変えたもんね。アレンジも1から練り直したし。ただBPMを下げるとリミックス風になっちゃって面白くない。もっと何かあるはずだと思って。


フミ:そこからは、メロディだけ流用して、あとは新曲を作っていったといっても過言ではない感じ。


一一The Vocodersに、どんな可能性を見出したんでしょうか。


ハヤシ:ポリとはまた違う魅力だと思う。自分のルーツ、ポリとはまた違うテクノポップとかシンセポップをやれるのは楽しそうだなっていう。


フミ:うん。ポリでもメロをしっかり考えた曲はあるけど、そこのみがフィーチャーされることってそんなになくて。でもThe Vocodersでやってみたら「意外といいメロだったね」ってわかる。最初はポリのいいところを違う角度から見せてみよう、って感じだったんだけど、どんどん「あぁ、メロがいい、ちょっと気持ちいい」みたいになっていったかな、私は。


一一確かに、ポリを見て「いいメロだなぁ」ってしみじみすること、今までなかったです。だいたい「いつも元気だなぁ!」が先になる(笑)。


ハヤシ:そりゃそうだよね(笑)。


フミ:違うところに目と耳がいっちゃうから。でもThe Vocodersはメロを変えたわけでも全然ないのに、楽器変えただけでなんか歌が引き立つなぁって。それは自分でも実感したね。


一一そこはハヤシくん、「いや、もともといいメロ作ってたよ」って言いたいのでは?


ハヤシ:いやいやいや(笑)。そういう感じもなくて、自分でも「あ、この曲ってこんないいメロディなんだ」って思う。わりと時間経ってる曲が多いし、「俺こんなメロディの曲作ってたんだ」って自分で再発見する感じ。


一一歌やハーモニーに集中してみると、逆に苦労もありませんか。


ハヤシ:俺とフミは慣れてるけど、ほかの2人は大変かもね。ヤノとナカムラはヴォコーダー自体が初めてだから。そこに慣れるのが大変。最初の頃は全然できなくて。レコーディングもめちゃくちゃ時間かかった。


一一無知で申し訳ないけど、ヴォコーダーって、ただ歌うのと違うんですか。


フミ:いわゆる世間でいうヴォコーダーだったらそんなことないんだけど。ウチらが使ってる機械はもうちょっとエフェクターに近いもので。上手くタイミングを合わせないとロボットボイスが出ない。普通に歌うよりちょっと前から歌い出したり、メロディの通りに歌っても拾わなかったりとか。


一一あぁ、そういう感じなんだ。


フミ:まっすぐ「あー」って発音しないと、綺麗には聴こえない。だから「ちゃんと歌ってるのに!?」みたいな戸惑いはあったかも。ちゃんとオンタイムで歌ってるとダメなの。


ハヤシ:だからレコーディングではけっこういろんな裏技を使ったよね。ヤノはクリックに対してスクエアに合わせて叩くのが普通なんだけど、The Vocodersはクリックに正確に歌うと遅れちゃうから。だからクリックをちょっと前倒しにしてレコーディングしたり。いろんな試行錯誤があった。


一一へぇ……それが「大変でした、苦労して作りました」っていうものに聴こえないのがとてもいいですね(笑)。


フミ:ツルッとやってそうだもんね(笑)。むしろ「いいね、ラクで」みたいな感じがいいなと。


ハヤシ:でも楽しいもんね。リアレンジするのも楽しいし、ライブも楽しいし。そこはポリと同じ感覚でやれてる。


■ポリだと出てこないようなハーモニーもある(フミ)
一一リアレンジから始まって、新曲作りに発展していくのは自然でしたか。


ハヤシ:やっぱ「やるならオリジナル曲も作りたいよね」って話になって。もともとテクノポップみたいな曲はポリのアルバムでもアクセントとして作ってたんだけど、いざ本気で作ろうと思うと正直難しくて。まぁ「Part of Me」がポリでも両方やるナンバーとして最初にできて、そのあと「Mandolin Girl」がThe Vocodersのオリジナルとして生まれて。そこで初めて「The Vocodersってきっとこういうことかな?」って感じが生まれた。自分のルーツとなっているテクノポップみたいなものを意識して作って。で、そのあと「Repeat Repeat Repeat」が生まれたんだけど、これは最初ポリの曲のつもりだったの。でもこの感じはThe Vocodersだなって思って、途中からこっちに移行していった。


一一その線引きって、具体的に説明できます?


ハヤシ:んー……やっぱメロディの部分、あとコード進行か。


一一ポリではそんなに出てこない、少しウェットな歌もの要素。


ハヤシ:そう。たとえばDepeche ModeだったりNew Orderだったり。あとはYMOもそうだし、Plasticsも。一般のイメージにないと思うけど、わりと立花ハジメのしっとしりした曲とか、セカンドに多いの。その感覚。


一一今挙がったのは、音に憂いやムードがある、秋が似合いそうなバンドで。


フミ:ふふふ。黄昏、みたいなね。


ハヤシ:うん。あとはOMD(Orchestral Manoeuvres in the Dark)とかね、ああいうおセンチな、切ないシンセの響きみたいなのも、すごく好きだからね。


一一その気持ちよさを、ここでは思い切りやれている。


ハヤシ:そうそう。めちゃくちゃある。


フミ:「ハヤシ・ルーツ・アザーサイド」っていう感じ。かなり出てるよね。


ハヤシ:うん。やっぱ改めて、そっちのテクノポップ/ニューウェイヴっていうのが自分のルーツだなって思う。未だによく聴くしね。


一一ちゃんと歌いたい、切なさやセンチメンタリズムを自分でも味わいたいっていう欲が、実はハヤシくんの中にもあったんですか。


ハヤシ:あー……どうなんだろうなぁ? 歌いたい、って……うーん、あんまないような気がする。


フミ:でも歌ってて気持ちいいよね。あと、ポリだと出てこないようなハーモニーもあるじゃん。それは気持ちいいし、ポリにはない魅力だなぁと思いますけどね。カバーの「Dancing Queen」も、せっかくだから頑張ってハモっていこうって。


一一こういう大ネタ、ポリでカバーするとなったら、ぶっ壊す方向に走るだろうけど。


フミ:確実に(笑)。でもこっちはぶっ壊さない方向のカバー。これ原曲とほとんどBPMも一緒で。


ハヤシ:これはほんと、フミがハーモニーを頑張ってくれた。


フミ:そう。原曲のハモリの積み方を研究して。


一一なんでこの曲だったんでしょう。


フミ:まず大ネタがいいねって。みんなが知ってる曲、あとはやっぱりハーモニーがある曲がいいなっていうところで。この感じなら打ち込みも耳に入るし。


ハヤシ:うん、この曲だとヴォコーダー特有の切なさみたいなもの、あとはハーモニーの美しさが、より出るなぁと思って。


フミ:いい曲だからねぇ。


一一……今「ヴォコーダー特有の切なさ」って言ったよね? ちょっとびっくりしたんだけど。


フミ:はははははははは!


一一そんなこと言う人初めて見た(笑)。


ハヤシ:ふふふ。なんだろうね? 俺にはあるの。なんか勝手な想像なんだけど、ロボットが人間の気持ちをわかりたくて、一生懸命わかろうと思って歌ってる感じ。そういうイメージを思い描くかな。俺ほんとヴォコーダーの音が好きで、初期で覚えてるのは「COMMODOLL」って曲。最初は生声で歌ってたんだけど、なんか物足りなくてヴォコーダーにしてみたら「これだ!」って思って。そっからはもう、この音の虜。一気にハマった。


一一ロボットの切なさ……。つまりハヤシくんはヴォコーダーをガジェット目線で見ていない、むしろエモを感じているわけですよね。


ハヤシ:あぁ……そうだね。そうかもしれない。


フミ:近未来、とかじゃないもんね(笑)。でもハヤシにその感覚があるからなのかな、ポリって切なめの曲はヴォコーダー多いよね。あんまり暴力的なヴォコーダー使いはないかも。


ハヤシ:うん、俺の声だと歌えないけどヴォコーダーなら歌える、っていう感覚はある。これならヴォコーダーで歌ったほうがいいな、みたいなジャッジとか。「Nero」のサビとか、生声でやってたらヤバいもんね。


一一「Nero」も歌詞はシュールなんだけど、メロや音使いはどこか切なくて。


ハヤシ:これはね、一応「グッド・ナイト・ベイビー」(ザ・キングトーンズ)のポリ版みたいなのを意識して。


フミ:〈涙こらえて~〉のアレだ。


一一そんな実直な歌詞は自分で歌えないけど、こういう曲にしてヴォコーダーを使えば言える、という感覚?


ハヤシ:そうそうそう。そういうところも楽しんでる。今回は特に、The Vocodersでそういう切ない感じ、少しウェットな感じが出せたから、ポリではまったくそういうこと考えなくて良かったし。


フミ:2枚同時で出すことが先に決まってたからこそ、はっきり棲み分けがあったのかも。


ハヤシ:あとポリは今回俺がやりたいことだけで一気に作ったけど、The Vocodersにはフミのアイデアがいろいろ入ってる。「Repeat Repeat Repeat」の最後のハモリとかも全部フミ。あのハモリのセンスは俺にはなかったから。


フミ:だから毎回「ハモり、作りにきてー」って呼ばれるんだよね。


一一フミちゃんはハーモニーが好きなんですか?


フミ:いや、そういうわけじゃないな。やってて気持ちはいいんだけど。ハヤシがやんないからやる、みたいなところがあるかもしれない(笑)。だってコーラスグループなのにさ……。


ハヤシ:俺がね、そこ苦手。ハモらず生きてきたんで。


一一……世間や、トレンドにも。


フミ:いろんな意味で!


ハヤシ:ははははは! 今うまいこと言ったねえ(笑)。そうねぇ、音楽シーンともハモらず生きてきた。


一一ふふふ。そんなハヤシくんにも、ヴォコーダーがあれば切なさやウエットな情感が出せるっていうのは、今さらながら意外な発見です。


ハヤシ:そう。「Repeat Repeat Repeat」のハモリとか、ほんとメランコリックな感じがして、好きだな。なんか土曜日の夜って感じがするんだよな。


フミ:日曜の夕方のぐったり感とは違ってね。


ハヤシ:うん、あの最後のハモリがあってこそグッと来る。じっくり聴きたいと自分でも思うし。The Vocodersが座って見るスタイルだっていうのも大きいのかもしれない。「ダンスミュージックとは違いますよ」っていうのも言いたかったところだから。


フミ:いわゆるフロアのテクノじゃない、違う形のテクノポップというか。それがカフェテクノ。


一一踊らせようとか、暴れてもらおうとか、観客への期待っていろいろあると思うけど。The Vocodersの場合は「じっくり聴いてくれ」になりますか。


ハヤシ:そうじゃない? 俺はそうだな。


フミ:あ、ほんと? 私は「好きに楽しんでくれ」って感じかな。もちろんじっくり聴きたければ聴いて欲しいし。


一一そんな気持ちがハヤシくんの中にあったとは。いや、今日はいろいろ意外な面が見えてきますね。


ハヤシ:ははは。そうだねぇ。まぁやってなかったもんね、こういうこと。


フミ:オトナの階段を上ったのかな。以前からあったのかもしれないけど、恥ずかしくて出せないっていうのも、もしかしたらあったのかなと思う。あとは意地とかさ。


ハヤシ:はいはい。あったのかなぁ? ……あったかも。ポリでやるならカウンター的に、Aメロはテクノポップだけどサビではドカンとバンドになる、「Rocket」なんかはそういうアピールだったし。ここまでがっつり趣味でテクノポップをやれること、なかったかもね。


フミ:今だからできるんじゃない? 10年前だったら「……いや?」ってなってた気がする。


一一Depeche Modeの血なんて、ポリには感じられなかったですよ。


フミ:そうだよね。でもハヤシの血には確実に入ってた。


一一そこを思う存分追求できる。いい場所ができましたね。


ハヤシ:うん。それは自分でも思う。


フミ:ね。もっと広げていきたいな。
(石井恵梨子)