2019年10月09日 12:12 弁護士ドットコム
10月1日から順次、最低賃金が上がった。東京、神奈川が初めて1000円を超え、全国平均も前年度比27円アップの901円となった。最賃は上昇傾向にあり、この5年だけで121円上がっている。
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コンビニはスタッフを最賃近い時給で雇っていることが多く、影響が大きい業種の1つだ。
コンビニ大手各社も加盟店支援には力を入れているものの、即効性の高いロイヤルティーの減額は予定していない。
年々上昇する人件費に加盟店の利益が圧迫されており、加盟店オーナーの悲鳴があがっている。
コンビニ大手では、売上高から仕入れ原価を引いた「売上総利益(粗利)」を本部と加盟店で分け合う「粗利分配方式」が取られている。
本部が土地と建物を用意するもっとも多いタイプの契約では、本部が粗利の60%ほどをとり、加盟店は残りの約40%ほどを手にする。
たとえば、セブンイレブン加盟店の1日の売上平均は65.6万円。商品の粗利率を3割で試算すると、月の粗利は約610万円(31日で計算)。加盟店の取り分は、月225万円ほど(36.9%)となる。なお、セブンでは開店5年たつと最大でロイヤルティー3%分(月20万円ほど)の減額がある。
ただし、加盟店はここからさらに人件費や廃棄(売れ残った商品の仕入れ値)、水道光熱費の一部などを払わないといけない。残った利益は「個人」ではなく「家族」の稼ぎであることにも注意が必要だ。
売上が増えていれば、人件費の上昇も吸収できるが、コンビニ業界はここのところ、売上が頭打ちになっている。大雑把に言えば、加盟店に入ってくるお金は変わらないのに、出ていくお金は増えている状態だ。
では、人件費はどの程度かかるのか。セブンが中央労働委員会に提出した資料によると、加盟店8381店舗の平均人件費は月130万円ほど(1カ月31日で計算)。ただし、これは2016年3月を基準にしたもので、人件費はさらにあがっている。
24時間365日のコンビニでは、わずかな時給アップでも大きな人件費増となる。常に従業員2人が働くと仮定すると、時給が5円上がれば人件費は年間9万4000円ほど上昇する。今年度の最賃と同じ27円アップなら約50万円だ。
そこでオーナーたちは自らの業務時間を増やすなどして、人件費を削ってきた。しかし、いずれは肉体的な限界を迎える。
セブンによると、2018年度の人件費は前年比1.9%増だという。月130万円で試算すると、単純計算で月2.5万円、年間30万円ほど負担が増えたことになる。ファミリーマート、ローソンは回答を控えたが事情は大きく変わらないだろう。
政府は最賃1000円を目指しており、今後数年間でさらに100円ほどの最賃アップが見込まれる。つまり、売上を大きく伸ばす画期的な何かが出てこない限り、加盟店の利益は減る一方ということだ。
こうした中で、24時間営業にこだわらない「時短営業」は一時的な延命措置にはなる。
しかし、仮に時短営業できたとしても、深夜の人件費が丸々削れるわけではない。閉店中の売上に加え、本部から出ていた24時間営業の「奨励金」がなくなってしまうためだ。
すでに時短実験をしている加盟店の中には、一時的に利益が増えたという店舗もある。
ただ、奨励金の趣旨からすれば、時短して利益が増えるとしたら、本部が不合理な24時間営業をおしつけていることになる。増益は例外と考えるべきだろう。
各本部も状況の変化は理解しており、レジや商品棚の改良による省力化や廃棄ロス削減の取り組みなどを進め、加盟店を支援している。
ただし、即効性の高いロイヤルティーの減額には消極的だ。
たとえば、セブンは2017年9月から暫定的にロイヤルティーを1%削減しているが、本部の取り分は年間160億円減ったという。容易に判断できる額ではないだろう。
一方、売上の低い加盟店は即効性の高いロイヤルティーの減額を求めており、本部に対する不満がくすぶっている。