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Suspended 4thの演奏はなぜ気持ちを鼓舞するのか 石井恵梨子が『GIANTSTAMP Tour』を観た

2019年10月08日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

Suspended 4th(写真=ヤスカワ ショウマ)

 この夏、<PIZZA OF DEATH>から初の全国流通盤をリリースしたSuspended 4th(以下、サスフォー)。名古屋の栄で路上ライブを繰り返してきた4人組は何者なのか、すぐに各メディアでインタビュー記事がアップされ、CDショップではフライヤーがばら撒かれた。が、レーベルが派手に仕掛けるこの手法は、いまや旧態依然としたものでもある。一曲のMVでバズが起こり、SNSの口コミから火が点くアーティストが珍しくない時代、“有名レーベルが送り出す大型新人”の宣伝文句に、どれくらい効力があるのだろうと思っていた。


 結論からいえば、めちゃくちゃあった。CD『GIANTSTAMP』を引っ提げてのツアーは東名阪があっさりソールドアウト。開演前のフロアには多種多様な客がごった返している。ハタチ前後の若年層、ピザTのライブキッズ、スーツ姿で仕事帰りに駆けつけたサラリーマン、あとは懐かしのハードロックTシャツを着用したオッサンも少々。同じ趣味の同世代が集まりがちなSNSでは見られない光景。このバラつきはむしろ好ましく、サスフォーの可能性がそのまま反映されているようだった。9月27日、ツアー最終日、東京TSUTAYA O-Crestでのライブである。


 予定時間より少し早め、セッティングが終わったタイミングで「もうやっちゃいまーす」とWashiyama(Vo/Gt)が宣言。もったいぶった演出なし、SEさえ不要というのはいかにもストリートのバンドらしい。曲名不明のジャムから始まるところも同じだが、それに対して耳が「?」とならないのが我ながら不思議だった。目の前で繰り広げられるのは、ダンサブルでグルーヴィ、なんの情報がなくても身体が動き出してしまうフィジカルなセッションなのだ。


 4つ打ちの狂騒とは根本が違う。ファンクやソウル、ハードロックにジャズなど、過去から受け継がれてきた音楽の歴史を感じさせるプレイ。ことにDennis(Dr)の叩くリズムのしなやかさは鳥肌モノだ。なめらかに流れ続けるビートの中、それぞれの魅せ場が作られていく。すばらしく演奏技術が高い。一言でいえばそういうことになるが、「ソツなく上手い」「しっかりしている」みたいな優等生感がゼロなのがいい。ガハハと笑いながらギターを高く掲げるWashiyamaの表情から見えるのは、彼らが本能的に人を踊らせるグルーヴの作り方を会得している、ということだった。これはたぶん、J-ROCKと呼ばれるほとんどのバンドが放棄してしまったロックの身体能力だと思う。


 「全員が満足した顔をしたら、ジャムの切り上げ時」とはWashiyamaの弁だが、開始から10分くらいでその時は来る(その間ずっと気持ちよくて、一瞬たりとも「長い」とは思わなかったことに驚いた!)。そこからはアルバム発売記念らしく、ほぼ曲順どおりのセットリストが続く。豪快なユニゾンで突き進むハードな「GIANTSTAMP」、Fukuda(Ba)のスラップが刺さる高速ファンクナンバー「97.9hz」、そこからジャジーなハネが気持ちいい「Vanessa」へ。客のノリはすでに最高潮で、Washiyamaがハンドマイクで中央に出てきて煽ったり、Sawada(Gt)が手拍子を促すなど、いかにもライブハウスらしいパフォーマンスも出てくる。珍しい。普通のことなのに、そう思ってしまう。


 「作品一枚出すのにインタビューとかメディア露出があったり、さらにアルバムのためのツアーもするなんて……こんなに長期的な行事があるのかって驚いてる」とWashiyamaが笑い、「初めてのオフィシャル感。バンドやってることを肯定された感じがありますね」とDennisが補足する。今までゲリラ的にライブを繰り返し、自主制作のCDを路上でばらまくのがサスフォーのやり方だったから、アルバムツアーという形式自体がイレギュラーなのだ。ただ、当然ながらライブハウスには彼らのファンしかいないから、軽くレスポンスを投げれば倍返しの反応が返ってくる。その喜びを知ったうえで、どう自分たちらしさを見せていくか。今回のツアーで明確になったのはこの部分だろう。


 中盤の「ストラトキャスター・シーサイド」。最初にMVが注目されたフック満載のナンバーなので、小気味よいテンポに乗って一気に駆け抜ければ普通のハイライトは作れるだろう。しかし彼らは、原曲以上にイントロを引っ張って焦らし、二番のサビが終わった直後、さらりとジャムセッションを開始し、「Venezia」を挟む。これが一発目のジャムぐらい長く心地よく、いつまでも踊っていたいと思える内容だった。2本のギターがハモったり、好き勝手に離れたり、ルート弾きで寄り添っていたベースがふいに暴れ出したり、ドラムが急に音を絞って全体をスローな方向に持っていったり。4人の会話がはっきりと見える。途切れることのない会話の楽しさが伝わってくる。たっぷり5分以上、原曲の倍の時間を費やした後、唐突に「ストラトキャスター・シーサイド」のサビが戻ってくる瞬間もまた、たまらない高揚があった。音楽だけがあるなぁと思う。曲に込められた想いがどうとか、ベタベタした説明が何もない。ここにはアンサンブルの醍醐味だけ、ロックバンドの躍動感だけがあるのだ。


 さらに良かったのは後半の「think」。70年代のソウルバラード風の一曲は、サスフォーの中でも異例、作品の中に一曲置かれてもどう扱っていいのかわからない雰囲気だったが、ライブの現場では見事ハマっていた。WashiyamaはMCで「音楽にもたれかかって聴くのもいい」と言っていたが、勢いとは違う穏やかな陶酔も、すでに4人はしっかりモノにしているようだ。また、こういう曲調になると、少しハスキーなWashiyamaの声質が俄然活きてくる。無数に武器があるのだ。ひとりずつのプレイヤビリティ、塊になったときの豪快なパンチ力、楽曲の中に散らばったさまざまなジャンル、あとはシンプルな歌モノとしての魅力。すべてが未整理なまま、ざらっと袋の中に投げ込まれている感じ。戦略があるようでないのか、もしくは、細々とした雑事をすっ飛ばして頂点だけを狙っているのか。今はまだ断言できないが、こいつらはもっともっと大きな場所に行くぞという予感だけはビシビシ感じられた。


 本編ラストを「INVERSION」で終えた後、アンコールは完全なジャムセッション。お互いに表情を読み合っては、どちらに進むのかわからない会話が続いていく。ジャムと聞いて「火花を散らす即興インプロビゼーション」なんてイメージを思い浮かべる人もいるだろうが、何度も言うように、サスフォーのそれは終始踊れるグルーヴ重視。なぜこんなにわかりやすく気持ちを鼓舞するのか。そのヒントを、終演後のWashiyamaが教えてくれた。


「まず楽器の魅力を感じてもらえたら一番嬉しい。自分たちもそれを感じて始めたわけだから。『このギターの魅力、わからんの?』みたいな、その意味ではみんなキャッチーなフレーズばっかり出してるんでしょうね。ギター、ベース、ドラムっていう楽器がわかるプレイ。それを繰り出しながら、どうなるかわからない瞬間こそ楽しいっていうことを、もっと発信していけたらなと思う」


 おおいに納得。そして確信した。今後、サスフォーがきっかけでギターを買ったという若い子がたくさん出てくるだろう。アンコールでは今回の追加ツアー『GIANTSTAMP TOUR II TURBO』が発表され、再びの東名阪、会場の規模もさらに大きくなることが発表されていた。東京でいえばO-CrestからO-WESTへ。わかりやすい飛躍だが、今後はO-EAST、さらには新木場STUDIO COASTへと続く道筋が容易に見える気がした。これだけ器のデカいロックバンド、なんだってやらかしてくれそうな可能性を持ったプレイヤー集団、ほんとうに久しぶりだ。(文=石井恵梨子)