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AI×オーケストラで“優しい音楽教育”を体感! 『バーチャルオーケストラ』を指揮してみた

2019年10月04日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

「バーチャルオーケストラを指揮しよう」の様子(画像提供=(C)東京都交響楽団)

 9月14日から16日にかけて、東京芸術劇場にて開催された東京都と東京都交響楽団(以下、都響)が主催するイベント『サラダ音楽祭(TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2019)』。同イベントに、ヤマハ株式会社が手がけるAI技術によって“誰でも指揮者になれる”体験型ワークショップ「バーチャルオーケストラを指揮しよう」が開催された。


(参考:女子高生AI・りんなの開発者から学ぶ、「感情」と「共感」とAIとの未来


 『サラダ音楽祭』は、誰もが音楽の楽しさを体感・表現できる音楽祭として2018年に誕生した音楽イベント。サラダ=SaLaDの由来である「Sing and Listen and Dance~歌う!聴く!踊る!」をコンセプトに、東京都と都響が、東京芸術劇場及び豊島区と連携し、赤ちゃんから大人まで楽しめるオーケストラコンサートやワークショップなど、フレッシュで多彩なプログラムを展開している。今回の「バーチャルオーケストラを指揮しよう」もそのワークショップの一つとして実施されたもので、会場には幅広い年齢層の参加者が詰めかけ、指揮者体験を楽しんだ。


 実際に筆者も体験することになったのだが、その前に他の参加者が指揮している様子をホール内で見学。腕にセンサーを取り付けて指揮棒で2拍子を振ると、それにあわせて巨大スクリーンの向こうにいる“バーチャルオーケストラ”が演奏するというもので、しっかりとテンポをキープをしないと、オーケストラの演奏が早くなったり、遅くなったりしてしまう。後ろから見ている分には、テンポもしっかりと把握できており、後々痛い目を見ることになるとはつゆ知らず「全然大丈夫じゃん」と余裕に感じていた。


 はじめに、「指揮者の役割とは?」といった概念から指揮棒の振り方まで、しっかりと指導を受ける。確かに子どもの視点に立ってみると、指揮者が何をしている人なのか、というのはいまいち分かりづらい。大人でもその役割を全て言い当てられる人はそこまで多くないだろう。教育の観点から見ても、非常に有意義な催しだなと考えながら会場に用意された衣装の燕尾服を羽織り、いよいよ実践へ。


 ホールに入り、縦3mを超える巨大スクリーンを3枚用いたバーチャルオーケストラを目の前にすると、先ほどの余裕はどこへやら。とてつもない没入感で、自分がまるでステージ上に立っているかのような錯覚とプレッシャーに襲われる。そして音が鳴り出した瞬間、立体音響の質の高さが、さらに緊張を高ぶらせた。


 最初は余裕ぶって指揮棒を振っていたものだが、次第に返しの音と動きで頭が混乱してしまい、途中からテンポが乱れてくる。なんとか終盤で持ち直したものの、後ろで見ているのとは大違いであること、本物の指揮者は自分たちが想像していたよりもはるかに大変な役割であることを身をもって実感した。


 終了後、担当者に話を聞いてみると、この立体音響はヤマハが誇る立体音響技術「ViReal™」で録音・編集・再生されているという。64個のアンビソニックマイクを2機使用して録音した音が17個ものスピーカーを使ってダイナミックに再生されたからこそ、このような臨場感が生まれたのだという。動きを感知して音をコントロールする仕組みについては、SwitchScienceの6軸センサーを使用し、Wi-Fiを使って動きをコントロールルームの専用ソフトウェアへ送信。同ソフトウェアを介してAIが指揮の動きからテンポを割り出し、その結果が映像と音に反映されていた。


 また、今回の催しに小学校低学年くらいの子どもも参加しているのを見て、「誰しも2拍子を正確に振れるわけではないが、その動きはどう認識しているのか?」といった質問を担当者へ投げかけたところ、「今回の展示を想定して、指揮未経験者を集め、あらかじめ“素人の指揮がどのような動きか”を学習させたAIを開発した」のだという。子どもたちが楽しく指揮者の仕組みを学べるコンテンツの裏には、このような企業努力があったのだ。


 そのほかにも、楽器の体験コーナーや楽器を実際に“作ってみる”コーナー、0歳から参加できるコンサートなど、普段は敷居が高くてオーケストラコンサートへ足を運べない世代に、優しく楽しい音楽教育の大事さを教えてくれた『サラダ音楽祭』。担当者によると、来年以降の開催も計画しているとのことだ。筆者も0歳の息子がいるので、次回は万全の状態で親子共々楽しんでみたい。


(中村拓海)