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やなぎなぎが音楽で表現した“白”の世界 コンセプトライブ『color palette ~2019 White~』レポ

2019年10月03日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

やなぎなぎ

 やなぎなぎのコンセプトライブ『color palette ~2019 White~』が9月23日にヒューリックホール東京で開催された。この『color palette』は、色をテーマに楽曲をセレクトして開催されるシリーズ。今回のテーマは“White”で、曲名や歌詞に白が入った楽曲や、白を彷彿とさせる楽曲をやなぎ自身がセレクト。デビュー当時の懐かしいナンバーも多数披露されたほか、カバー曲やネットで公募したプレイヤーとのコラボなど企画もりだくさんで、集まった観客を喜ばせた。


参考:やなぎなぎがトリオ編成で表現したミニマムで静謐な音 『color palette ~2018 Black~』レポ


 昨年リリースしたアルバム『ナッテ』に収録の「海を込めて」からライブはスタートした。曲の冒頭、透明感溢れる歌声が響くと、会場の空気がピンと張り詰める。ステージを凝視しながら、やなぎの歌声に耳を傾ける観客は、ゆったりと流れるサウンドによって、やさしい世界観へと引き込まれていった。


 続いて2012年にリリースした2ndシングル『Ambivalentidea』のC/W曲「白くやわらかな花」と、3rdシングル『ラテラリティ』のC/W曲「真実の羽根」と、デビュー当時の懐かしい曲が続いた。どちらもアニメ『ヨルムンガンド』シリーズのEDテーマで、主人公・ヨナの真っ白い髪が印象的だ。「白くやわらかな花」は、ピアノやストリングス、コーラスが複雑に構成されたサウンドの中で、やなぎのウィスパーボーカルが穏やかに響いた。「真実の羽根」は、無機的なエレクトリックサウンドに、表現力豊かなやなぎのボーカルが漂うように重なる。音のない部分さえも一つの音であるかのように、空間全体によって彼女の音楽世界が表現されていった。


 一転ポップで可愛らしい雰囲気を持った「モノクローム・サイレントシティ」では、傘を使ったパフォーマンスで魅せてくれた。可愛らしい歌声を聴かせるやなぎは、歌いながらまるで幼い子どものように傘をくるくると回した。「in flight」では、爽やかで広がりのあるボーカルを響かせた。曲中で客席に飛ばした紙ヒコーキが戻ってきてしまうハプニングも、どことなく彼女らしいと感じさせた。


 中盤には、白をテーマに選曲した2曲のカバー曲を披露した。白と言えば、やはり雪。中島美嘉の「雪の華」は、ピアノをバックにしたシンプルな編成で歌い上げた。静かな雰囲気の中に響く歌声は実にエモーショナルで、思わずうなり声をあげたくなるほどの美しさだった。またSPEEDの「White Love」は、「その世代の方にはどんぴしゃだと思う。きっとダンスまで覚えてる方もいるのでは?」とコメント。リズムに乗せて身体を揺らしながら歌い、〈白いため息で〉という歌詞に合わせてため息を吐くように歌うなど、言葉に即した細かな表現で観客を魅了した。


 続けて「ユキトキ」は、ネットで募集した演奏者をステージに迎え入れてライブを繰り広げた。ギター、ベース、ドラム、キーボード、女性コーラスという5人組で、バンド名がまだないことから、やなぎが“All You Can Eat(意味は食べ放題)”と命名。メンバーの好きな食べ物にちなんでつけようと思ったそうで、「全員の好きなものが食べられるようにと考えて付けました」と、さすがのセンスに会場から大きな拍手が贈られた。


 そんなAll You Can Eatのメンバーによる演奏で聴かせた「ユキトキ」は、少し渋谷系を感じさせるポップなアレンジが印象的。最初は緊張していた様子のメンバーだったが、やなぎのリードもあって次第に緊張がほぐれ、ポップな世界観を会場に届けてくれた。


 本編最後に披露したのは3rdシングルの収録曲「link」だ。この曲は、11月13日にリリースするカップリング曲を集めたアルバム『memorandum』にも収録される。さまざまな音がパズルのように組み合わさり、一つの楽曲を紡いでいく「link」。やなぎは「これからもみんなと繋がっていられるように」と、思いを込めて歌った。


 そしてアンコールではアルバム『memorandum』の発売を記念し、12月7日にワンマンライブを開催するという発表があった。最後には、「この曲で終わらなければ締まらない」と、「You can count on me」を披露。アッパーのロックサウンドに乗せて、力強く歌声を響かせたやなぎ。サビでは客席にマイクを向けて英語のコーラスを観客に歌ってもらい、そのままコール&レスポンスのやりとりも楽しんだ。そして最後に歌詞を変えて、〈みんなありがとね、また遊びにきてね〉と歌い、笑顔でライブを締めくくった。


「これからもたくさんの刺激を受けて、color paletteだからできる企画を考え、色を増やしていきたいです」


 艶やかで透明感溢れる歌声。エレクトロとアコースティックが入り交じり、トリップホップにも通じるものを感じさせるオルタナティブなサウンド。そのセンスは数多くのアニメテーマソングで発揮されるだけでなく、アニメの劇伴を手がけた経験も持つ。そんな彼女独自のサウンドセンスが、色というテーマによってより浮き彫りになったライブ。次回はどんな色がパレットに加えられるのか、興味がそそられた。(榑林史章)