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ROTH BART BARON、“ファン主導”で開催したプラネタリウムライブは宝物のような一夜に

2019年10月02日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

ROTH BART BARON

 都心から1時間あまり電車とバスを乗り継いで着いたのは、多摩六都科学館。夕闇迫る時間帯、巨大な球体の建物に繋がるエントランスは柱が青いLEDで縁取られ、まるで宇宙船の入り口のよう。これから体験するであろう非日常空間に思いを馳せながら、高揚した気分で勇んで入館した。


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 何しろ今夜のライブはすべてが特別。クラウドファンディングによってROTH BART BARON(以下、ロット)のプロデュース権を獲得した24名が、プロジェクトチームを組んで企画・運営する「ファン主導」のライブなのだ。よって、この会場を手配したのも、演奏する曲目を決めたのも、ライブ中に使用する映像を作ったのもチームのメンバー。それどころか、会場の誘導も、ライブの撮影も、物販の売り子も彼ら自身が行なう、まさに“手作り”のイベントなのである。


 バンドのマイルストーンとして今後も語り継がれるであろう夜は、「よだかの星」で始まった。巨大なスクリーンに投影される、東京では決して見ることの出来ない圧巻の星空に、早速心震える。


 三船雅也(Vo)と中原鉄也(Dr)の脇を固めるのは、岡田拓郎(Gt)、竹内悠馬(Tp)、大田垣正信(Tb)、西池達也(Key/Ba)といった、これまでの作品やツアーでもおなじみの面々だ。


 ここのプラネタリウムは直径27.5メートルと世界最大級であるため、天井がとても高い。そのため音の響きがやわらかく、バンドの音も案外遠くに聞こえる。その点は野外ライブの開放感に似ているが、バンドの姿は暗くてよく見えない。今回のメインは頭上の映像ではあるが、ロットの音楽が好きだからライブに来ているのに、演奏している本人たちをほとんど見ないというシチュエーションはなかなかおもしろいものだな、と思った。


 それにしても。“プロデュース”の名に違わず、プロジェクトチームはどうしたらロットの楽曲が最も映えるかということを知り尽くしているのが凄い。どの曲にどんな映像を充てるかというセンスが的確であることは言うに及ばず、曲に内包されているメッセージまでもを汲み取ったような映像の差配は、本当に彼らの音楽が好きでなければなし得ないことだ。


 今夏出たシングル「Skiffle Song」では〈僕らは夜空に花火を打ち上げた/赤い火の粉がチラチラ揺れてて綺麗〉という歌詞のままの光景が眼前に拡がる不思議を体験。灯る炎を見つめていると、その熱が伝わってくるようだった。歌が映像を補完し、映像が歌を補完してできる空間は、さながら遊園地のアトラクションのようなVR感覚を味わわせてくれる。


 「bIg HOPe」の見慣れたMVさえ、ドーム状のスクリーンに映ることによって、これまでとは違った迫力とリアリティを伴って迫ってくるし、雪原をバックに演奏された「氷河期3(Twenty four eyes/alumite)」では、冷えた地表の温度ばかりか湿度までもが伝わってくるようだった。


 そして興奮は終盤の「GREAT ESCAPE」「Innocence」「HEX」「HAL」と繰り出された『HEX』収録曲4連発で頂点に。


 幻想的な星空とロットの紡ぎ出す音楽の相性が良いのはファンならば誰もが“予想の範囲内”のことであるはずで、今回のプロジェクトはそういう意味では始まる前から“間違いのない”ライブであることは疑いようもなかった。ところが実際投影された映像は、星空だけでなく雨、オーロラ、ダイヤモンドダスト、雲海、流星……といったあらゆる天体現象をはじめ、雪原や街の夜の風景、炎、宇宙空間に漂う人工衛星など多様な映像で様々な角度から“自然の偉大さ”と“人間のちっぽけさ”を対比させ、想像以上の余韻と、人生の深淵に迫る深みを感じさせてくれた。 


 「自分が大きな宇宙の一部であることを感じたら、日常の瑣末なことなど取るに足らないこと」ーー大いなるものに触れた多くの人が言うから、自分もそう感じるのだろうと思っていたが、実際は逆だった。宇宙の大きさ、世界の広さを感じれば感じるほど、そこでひしめくように生きる人間と、繰り広げられる様々な営み、心模様が一層愛おしく感じられる。ロットの音楽を聴いていつも思うのは、一瞬、非現実的な世界にトリップしたような感覚をくれるのに、日常に戻った時に、今いる場所は素敵で愛しいところなんだと気づかせてくれる、ということ。そんなロットの世界観とプラネタリウムは、想像以上の親和性と相乗効果があったと思う。


 本編は1時間半ほどで終了。続くアンコールで今日初めてのMCをした三船は、現在制作中のアルバム(11月20日発売予定の『けものたちの名前』)に触れ、順調にレコーディングが進んでいることや、本人たちもかなり手応えを感じている中、新作を聴いた関係者から、前作『HEX』(2018年)を越えたという声も出ていることを報告。『HEX』も“最高傑作”の呼び声が高かっただけに、それを越えるアルバムとは一体どのようなものなのか、俄然期待が膨らむ。


 ラストの曲は1stアルバム収録の「氷河期#2(Monster)」。咆哮にも似た高らかなコーラス部分はまるでアンセムのようにそれぞれの胸に響き、ここに集った人たちが、最後にまた心を一つにした感があった。


 こうして“ファンによるプロデュース”は、このバンドの最良の部分をこの上ない形で引き出すこととなり、大成功に終わった。終演後に三船が「本当にいいファンに恵まれてありがたい」と感慨深げに語っていたが、言うまでもなく、そのファンを作ったのは彼らの音楽の力である。アーティストとファン、互いに抱く敬意が高い次元で結び合って生まれた宝物のような夜だった。


 温かな気持ちに満たされ会場を出ると、空には満月が静かに輝いていた。今、プラネタリウムの中で目にしてきたものと、現実の世界がなめらかに繋がった瞬間だった。 「夜ってこんなに綺麗だったかな」。そんなことを思いながら帰り道を歩いた。(美馬亜貴子)