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『21世紀の女の子』は“男性の描き方”にも注目 山戸結希ら15人の監督たちが紡ぐ巧妙な構成

2019年10月02日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『21世紀の女の子』(c)2019「21世紀の女の子」製作委員会 Produced by U-ki Yamato

 はたしてこの『21世紀の女の子』という映画を語る上で、一体どのポイントにフォーカスを置いて論じるのが望ましいか。考えれば考えるほどに様々な選択肢が生まれてくる。「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間」をテーマに、15人の女性監督たちが、それぞれ8分間という決められた尺の中で物語を紡ぎ出す。それは8分間という時間を意識した起承転結がしっかりと組み込まれたものや、もっと長く存在しているであろう物語から8分間だけを切り取ったものであったり、バッチリと画面がキマったものから荒削りのものまで、仕草で語るものからモノローグを使うものまでと、その性質は15者15様だ。それらをつなぎ合わせたオムニバス映画という形式をとる必然として、それぞれにアクターが存在し、それぞれに音楽や衣装といった総合芸術たる映画を構成するあらゆるカルチャーが混在している。


参考:山戸結希監督×矢田部吉彦『21世紀の女の子』対談 日本における女性監督の現状と未来


 こうした中で、作品全体を司る最大のトピックとして触れなくてはならないのは、誕生から1と4分の1世紀もの間、男性社会と言わざるを得ない歴史を歩み、今もまだその弊害と呼べるものがいたるところで見受けられる映画というカルチャーにおけるジェンダーの部分であろうか。しかしこの文脈で語ろうとしたら、それこそアリス・ギイの時代まで遡らなくてはいけないほど途方もないものであり、また確たる結論はそう簡単に見出されそうにない。ましてや“21世紀の女の子の、女の子による、女の子のための映画”と銘打たれた作品だ。あくまで“女の子”を契機にして、性別というざっくりとした識別を取り払って、人間同士が向き合う。この映画はそういう至極当然な未来に向けた発信であるゆえ、過去を見つめつつも前を向いて捉えなければならない。


 だからこそ、この映画で注目しておきたいのは、各作品における男性の描き方である。男性の登場人物が登場するのは15作品中9作品。劇場公開版で冒頭に配された安川有果監督の『ミューズ』では村上淳演じる作家の男の幻想に抑圧された妻が解放される姿を描き、つづく東佳苗監督の『out of fashion』では先輩・後輩の関係性を利用して蔑視的な講釈を垂れる先輩の姿が描写されていく。これはまるで前近代的な男性像の典型たるものだ。そして枝優花監督の『恋愛乾燥剤』では恋に恋する少女を通して男女の精神年齢差を描き、首藤凜監督の『I wanna be your cat』では自身の立場を守ろうとする男の傲慢さが描かれるわけだが、男の成長しきれない部分ですれ違いが生まれながらも、向き合う者同士でそれを理解し合おうと歩み寄っていく様子が見て取れる。


 そうした流れで迎える映画後半、松本花奈監督の『愛はどこにも消えない』で“人を好きになる”ことに向き合い、井樫彩監督の『君のシーツ』では性行為における男性の優位性を提起しながら相手を“求める”ということを描き、ふくだももこ監督の『セフレとセックスレス』ではそのふたつが“愛情”に変化する瞬間が。そして坂本ユカリ監督の『reborn』でその愛情をトリートしていく中で自身を見つけ出すと、こうした心理的な要因の数々が粘膜レベルという物理的な範疇で結論づけられるかのような加藤綾佳監督の『粘膜』へと到達する。圧倒的に男性を寄せ付けないような“女の子の世界”が展開するイメージを抱かせておいて、一連の流れの中でステレオタイプを拭い去り、性差のない人間としての物語を組み立てていくというその構成は、実に巧妙である。


 とはいえ本作は、昨年の東京国際映画祭でお披露目された際にはタイトルの後に「インターナショナル版」という副題が添えられ、劇場公開版とは異なる配列で映画が展開していた。冒頭から山中瑶子監督のトリッキーな会話劇『回転てん子とどりーむ母ちゃん』で幕を開け、その後静かなトーンの作品の中にポップな作品を織り交ぜながら波形グラフのように進み、終盤で上昇気流に乗り始めると、山戸結希監督の『離ればなれの花々へ』で一気に宇宙の果てまですっ飛んでいく。劇場公開版でもエンドロール前のクライマックスを飾るのはこの『離ればなれの花々へ』で共通しているわけだが、映画への引き込み方や作品のトーンとリズムのバランスといった映画祭で重視されがちな部分に意識した点と、物語の持つ内面的な部分に重きを置いた点で、まったく映画としての見え方が異なっているというのは興味深いところだ。


 この作品に携わった15人の監督たちは、着実にこの映画が目指したであろう21世紀の女の子たちが21世紀の日本映画界や映像業界で輝いていくことへの兆しを見せ始めている。『回転てん子とどりーむ母ちゃん』の山中監督は、先日TOKYO MXで放送された「ニューウェーブアワー」で鳥肌が立つほどの傑作『おやすみ、また向こう岸で』を手がけ、『セフレとセックスレス』のふくだ監督は松本穂香を主演に迎えた家族ドラマ『おいしい家族』で長編監督デビュー。さらに今回唯一、一般公募から参加した『projection』の金子由里奈監督は、先日行われたぴあフィルムフェスティバルの「PFFアワード2019」で入選。そしてもちろん山戸監督も、初夏に公開された『ホットギミック ガールミーツボーイ』でその語り口と映像テクニックに磨きがをかけ、紛れもなく平成生まれの映画監督を牽引する存在へと上りつめたといえよう。もっとも、平成生まれの日本人監督では圧倒的に女性監督の勢いが目立つ。そろそろ古い男性観から解放された“21世紀の男の子”たちも動く時が来たのではないだろうか。(久保田和馬)