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「このすば」暁なつめ、新作アニメはなぜ“ケモナー×プロレス×異世界転生”? 「旗揚!けものみち」原作者×監督対談

2019年10月02日 07:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『旗揚!けものみち』2019 暁なつめ/まったくモー助/夢唄/KADOKAWA/けものみち製作委員会
異世界×プロレス×ケモナー!?

『この素晴らしい世界に祝福を!』の原作者・暁なつめが手掛けた異世界ファンタジー最新作が、クレイジーなアニメとなって遂に放映される。それが『旗揚!けものみち』だ。


マンガ『けものみち』を原作とする本作は、ケモ耳の生えた獣人から魔獣まで、なんでもイケるケモナー(ケモノ好き)のレスラー、“ケモナーマスク”こと柴田源蔵が主人公。
異世界に召喚された源蔵が、異常な戦闘力とケモノへの愛を活かして、彼にとっての理想郷「ペットショップ開店」のため、奮闘する様が描かれていく。


本記事では、そんな概要だけでカオスな香り漂う本作より原作者・暁なつめと、アニメ版を監督する三浦和也さんへのインタビューを敢行。
裏話も交えつつ、『旗揚!けものみち』の創造の課程を語っていただいた。
[取材・構成=山田幸彦]

■異世界×プロレス×ケモナー…要素てんこ盛りな本作はどう生まれた?
――プロレス、ケモナー、異世界転生と、濃い要素が目白押しの作品ですが、どのような経緯で原作の連載が始まったのでしょうか?

暁:『このすば』アニメ1期の頃にKADOKAWAさんから連載のお話をいただいたのですが、その時点では何も内容は決まっていなかったんですよね。
その後、作画を担当するまったくモー助さんと夢唄さん、編集さんの四人で、内容について話し合う場が設けられたんです。

――どのように現在の形へと固まっていったのでしょうか?

暁:まずは、おふたりにどんな作品をやりたいかを聞いてみました。そうしたら、「重くならないストーリーの中、可愛い女の子が描きたい」と要望が出たんですよね。

さらに、おふたりはペットを飼っており、ケモ耳キャラ、獣人キャラが好きという話も聞いて、話の流れで「 “異世界でペットショップもの”というジャンルはまだないんじゃないか?」と提案されまして。


そこから、「異世界でわざわざペットショップをやる動機付けが難しいな……女キャラ多めでラブコメに進展しない理由も欲しいし……。よし、頭のおかしいレベルのケモナーにするか」ということで、今の形になりました。

――なるほど、そういう経緯があったんですね。

暁:ラブコメ要素を廃したギャグメインの作品にしようと考えていたのですが、柴田源蔵
はすぐ求婚したりするし、ある意味恋愛ものになってしまいましたね……(笑)。

あと、僕がもともと「レスラーが大暴れする異世界もの」を書きたかったので、良い機会だと思い、本作に取り入れてみました。


見切り発車感もありましたが、結果として作画のおふたりと自分を含めて、みんなやりたい事ができてよかったなと。

ただ、まったく映像化を想定せずにはっちゃけていたので、アニメ化のお話をもらったときは「なぜこれをアニメ化をしようと思ったの!?」と(笑)。

――三浦監督は原作を読んでご感想はいかがでしたか?

三浦:本当にキャラクターが面白いな、と感じましたね。全員が自分勝手に生きているから、読んでいて気持ちいいんですよ。

僕は元々、映画『男はつらいよ』の寅さんとか、ある種の迷惑さを持ったキャラクターが回していくお話が好きなんです。
だから、それぞれのキャラクターが自身の欲望に忠実すぎた結果、論点がズレたり、横道に逸れたままお話が進んでいく本作は、まさにツボでした。

自分でも前々からそういったタイプのコメディに携わりたいと思っていたので、演出家としても、一人の読者としても、大いに魅力を感じましたね。


――暁先生と三浦監督が最初にお会いした際、どういったお話をされましたか?

暁:原作だと、序盤で柴田源蔵はペットショップを開いているんですが、アニメではそのペットショップ開店を目標とし、そこに至るまでの話を描きたいというアイデアを最初にお聞きした記憶があります。

三浦:マンガで描かなかった時期をやってみよう、と話が出たんですよね。
もともと、原作通り各話の盛り上がりで見せていく1話完結ものをやる予定だったのですが、最終的な落とし所は欲しいなと。

そこで、ペットショップの開店という明確なゴールを設定すれば、1クール作品としてのまとまりが出ると思いました。

暁:自分は元々、原作は原作、アニメはアニメと分けて考えるタイプでして。ラノベ、マンガ、アニメと、媒体が違うと見せ方も違いますし、好きなように、そして楽しんで作ってください、と。

――アニメのシナリオは、原作からかなり膨らませて描いている形ですか?

暁:ええ。オリジナル脚本を書きまくることになるので、脚本の待田堂子さんも大変だったんじゃないでしょうか?

三浦:いや、僕を筆頭に、みんなで楽しく暁先生の世界で遊ばせてもらいましたよ(笑)。


――そういったアプローチでアニメ化するとなると、原作から膨らんでいったキャラクターもいるのではないですか?

三浦:原作で登場するキャラクターがブレないようにはしていますが、出番が増えたことで膨らんだ人など、アニメならではの見せ場はそれぞれにありますね。

序盤だと、金貸しのエドガーの一味が顕著です。原作ではさらっと出ているだけだったので、アニメ化では良い具合に動かすことができたかなと。

暁:原作では「兄貴、兄貴」とだけ言われていたキャラにも名前が欲しいということで、ヴォルフガングという立派な名前をつけてあげています。


三浦:ヴォルフガングというドイツ由来の名前は、本場だと愛称を「ボン」と言うらしいんですね。じゃあ「ボンちゃん」と呼ばせようと(笑)。

そうやってキャラを膨らますことができたのも、最初に暁先生から「アニメはアニメスタッフにお任せしたほうが面白くなるから」と、作品を託していただいたことが大きかったです。

暁:個人的に、舵取りはその分野の専門家が行うのが理想で、アニメの素人の原作者があまり口出しをしてもしょうがないと思うんです。自分の場合、アニメも話題になったヤツをたまに見る、程度ですし。
『このすば』同様、今回もスタッフのみなさんに委ねたことで、楽しい作品を作っていただけましたね。
→次のページ:『このすば』同様“ひどいセリフ”に注目?

■『このすば』同様“ひどいセリフ”に注目?
――主人公である柴田源蔵に関しても、原作以上に狂気のケモナーとして描かれていた気がします(笑)。

三浦:主人公然としていて欲しかったし、彼が引っ張っていく物語なので、個性は弱めちゃいけないな、と。

――異世界物と言うと、我々が住む世界と異世界の認識のズレがドラマに活かされることが多いですが、源蔵は現実世界でも相当ズレた人ですよね。

三浦:異世界の人たちがツッコミ側に回らざるを得ないところがありますよね。
源蔵は元々会社員だったけれど、そこからプロレスラーへ転向したという裏設定を暁先生に聞いて、良く言えば天才、悪く言えば……社会不適合者なんだな、と(笑)。

暁:普通の会社で働けない人なので、プロレスでしか生きていけなかったんです。魔獣がいっぱいいる世界に転生して、幸せだったんじゃないでしょうか(笑)。


――本編を拝見したところ、ケモナーマスクこと柴田源蔵を演じる小西克幸さんの声が非常にハマっていました。キャストに関してはどのように選ばれたのでしょうか?

三浦: ひとり中心となる人を配置して、キャスト陣を引っ張っていただきたいと思っていたんです。そのため、源蔵役の配役は作品全体にとっても重要なキーでした。
結果として小西さんはバッチリ演じてくださり、見事に作品そのものまで牽引してくださりました。

――暁先生は実際にキャスト陣の演技を聞かれてみていかがでしたか?

暁:『このすば』同様、今回も1話からひどいセリフが連発されるので、書いた側としてはキャストのみなさんに申し訳ないなと(笑)。

――主役の小西さんの怪演が光る一方で、本作オリジナルキャラであるレスラーのMAO(マカデミアンオーガ)は、大のプロレスファンである稲田徹さんが演じられている時点で、強烈なキャラになっている予感がしますね。


三浦:プロレス色の強い作品なので、「せっかくなら稲田さんをどこかで起用したいね」と話があがっていたんです。音響監督の亀山俊樹さんとも話して「MAOが良いんじゃない?」となったんですよね。

暁:稲田さんは『このすば』のアフレコ後の飲み会でもプロレスについて熱弁されていて、本作を書くうえでヒントを受けた部分もあるんですよ。
「ジャーマンスープレックスを行うときはかかとが浮く」とか、素人にはわからない専門知識がどんどん出てくるんです(笑)。


三浦:アフレコでも、台本に書かれたプロレス用語をみて「こっちのほうが良いんじゃないでしょうか?」とマニア視点ならではのアドバイスをしてくれたり、本作のプロレス面を支えてもらっています。

■暁なつめ先生ファンには嬉しいサプライズも?
――アニメオリジナルキャラとして、プロレスラー・MAOを登場させたのはなぜでしょう?

三浦:アニメならプロレスの面白さを映像でより描けるなと思って、プロレスのウェイトを大きくしてみようかなと。

そこで、原作コミックスではシルエットしか描かれてなかったプロレスラーキャラを、設定を膨らませて召喚させることにしました。
ケモノバカの源蔵に対して、MAOは熱血プロレスバカにしようと思ったんです。ただ、源蔵と同様、好きなものへの執着のレベルがちょっとおかしくて、純粋なバカになっているところはあるかも……(笑)。


――源蔵に対抗するには、そのくらい強烈じゃないと負けてしまうかもしれませんね(笑)。ちなみに、三浦監督はもともとプロレスにお詳しかったのでしょうか?

三浦:子どもの頃流行っていたので観てはいましたが、マニアの方ほどではありません。
なので、今回協力していただいた団体「DDTプロレスリング」さんの試合を見に行かせてもらうなどして、改めて勉強していきました。

――プロレスは実在する競技である以上、描写するうえで嘘をつけない難しさがあったのでは?

三浦:そうですね。よく言われることですが、SFやファンタジーなら自由に演出できる場面でも、プロレスの場合はリアリティを損なうとウソに見えてしまう。バランスをとるのが難しかったです。

とはいえ、本作ははっちゃけた部分も魅力なので、シーンによって、楽しさとリアルさのどちらを重視するか、切り替えつつやっていますね。


暁:マンガでも、画的に映えそうだからという理由で、源蔵の得意技をジャーマンスープレックスにしましたからね。

三浦:そもそも、厳密に考えると、プロレスラーが異世界で魔獣と戦うとしても、プロレス技ではなく普通の格闘技で挑んでしまう可能性があるんですよね。でも、せっかくプロレスが出る作品なんだから、それはもったいないなと。

暁:あと、あえて避けずに技を食らう「受けの美学」はプロレスならではの魅力なので、本作でもきっちり描かれています。プロレスを扱った作品だと、外してはいけない要素ですね。

三浦:そうですね。プロレスについて調べていくなかで、昔読んでいたマンガ『1・2の三四郎』でもそういう描写があったな、と懐かしくなったりして(笑)。
一見真面目ではない作品だからこそ、そういうプロレスの面白さからは逃げずに、正面から描いていくことにしました。


――今後の展開を観るのを楽しみにしております。では最後に本作の見どころを一つずつアピールしていただけると!

三浦:とにかく、ドタバタ劇を軽い気持ちで楽しんでいただきたいですね。その後、プロレスシーンのディテールの部分など、深い部分にも興味を持っていただければ嬉しいです。

暁:アニメオリジナルの展開が多いので、原作を既読の方も、新鮮な感覚で観られるのではないでしょうか。僕自身、打ち合わせ段階から、視聴者目線で楽しみでした(笑)。
ぜひ、動く柴田源蔵をその目で見て、その狂気を記憶に焼き付けていただきたいです!

三浦:そして、詳細は伏せますが……暁先生のファンの方々にはうれしいサプライズも用意してあります。

暁:アフレコ収録を見学させていただいたんですが、キャスト表を見て驚きました(笑)。

三浦:目を皿にして見れば、きっと1回の視聴で気付けるはずです。ぜひ、ディテールの部分まで注目してみてください!