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日向坂46はアイドル界の頂点へ向かう SSA公演で見せた、けやき坂46から現在に至る最強&最高の姿

2019年10月02日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

日向坂46

 意外に思われるかもしれないが、実は日向坂46がワンマンライブをするのはこれが初めてのこと。今年3月5日、6日には横浜アリーナにてメジャーデビューシングル『キュン』のリリースを目前としたデビューカウントダウンライブを行なっているが、このときはけやき坂46(ひらがなけやき)から日向坂46への改名を挟むことにより、「けやき坂46ラストライブ」と「日向坂46お披露目ライブ」という2つの意味合いを持つ特殊なステージとなっていた。なので、日向坂46としてのシングルデビューを境にすると今回のさいたまスーパーアリーナでの3rdシングル『こんなに好きになっちゃっていいの?』発売記念ワンマンライブが、日向坂46として初めてのワンマンライブということになるのだ。


参考:日向坂46にとって東京ドームは遠い目標ではない 表現力の急成長感じたSSA公演レポート


 けやき坂46時代は2017年春に始まった初の全国ツアー以降、ライブで地力を底上げし続けていた印象の強い彼女たち。特に2018年は年初と年末に各3公演にわたる日本武道館単独公演を実現させており、きゃりーぱみゅぱみゅとのツーマンライブを含めると昨年だけで7回も武道館のステージに立ったことになる。これは昨年1月に7DAYSライブを敢行した水樹奈々にも匹敵する数字だ。そんな彼女たちが日向坂46に改名した2019年はツアーなど単独公演をほとんど行わずに、大型フェスやイベントへの出演のみでこの夏を過ごしたことに疑問を感じていたファンも少なくなかったのではないだろうか。もっとも、その理由は本公演の終盤にメンバーの口から明かされるわけだが……。


 そんな疑問を抱える中、このライブに臨んだ筆者だが、ことライブパフォーマンスの実力や熱量に関してはまったく心配していなかった。この3月以降、いくつかのイベントで彼女たちのパフォーマンスを目にしてきたし、8月25日には横浜アリーナで開催されたアイドルフェス『@JAM EXPO 2019』にも足を運び、改めて彼女たちの実力と成長ぶりを目の当たりにしたばかりだったからだ。このステージでは2枚のシングルに収録された楽曲のみならず、けやき坂46時代の「NO WAR in the future」もパフォーマンスされており、改名後も特にけやき坂46時代の楽曲を封印することなく披露していくのだという強い意思を感じ取ることができた。


 しかし、そういった予備知識があったにも関わらず、たまアリワンマンでの1曲目「ドレミソラシド」からその存在感の大きさに圧倒させられた。単独公演の数こそ極端に減ったものの、それ以外の仕事が増えたことによりメンバーに蓄積されていく知識や経験が昨年まで以上のものがあり、そういった要素が彼女たちを日々レベルアップさせ続けている……そんなことを、この1曲から感じ取れた。ステージでの佇まいからは、自らのことを二軍と卑下していた初期のイメージはもはや微塵も感じられない。それは2期生や3期生といった後輩たちの加入もプラスに作用しているはずだし、後輩たちに背中を見せることで責任感を持ち始めた1期生の自覚や覚悟も大きく影響しているのだろう。いやはや、すごいアイドルグループに成長したものだ。


 それともうひとつ、「ドレミソラシド」という楽曲自体についても言及しておきたい。この曲はデビュー曲「キュン」で示したハッピー路線を踏襲した、いわば“ダメ押し”的な楽曲であり、けやき坂46時代の彼女たちが放っていたもうひとつの魅力、“がむしゃら感”や“ひたむきさ”とは異なるものだった。そういった要素を好む筆者のようなリスナーからは、「同じ路線で2枚続けなくても……」という声も挙がったのかもしれない。しかし、先の横アや今回のたまアリのような数万人規模の会場で「ドレミソラシド」が大音量で鳴らされたとき、自宅や携帯プレイヤーで聴いていたときには感じられなかった壮大さと開放感が味わえたのだ。なんだろう、この突き抜ける感覚と何にも代え難い幸福感は……そう、実はこれこそがこの楽曲の醍醐味なのだと、筆者はこの2公演で気づかされた。「ドレミソラシド」は「キュン」の二番煎じなんかじゃない。急激なスピードで成長を続ける日向坂46の“今”にふさわしい、数万人規模の会場で歌われることを最初から想定して制作されたものだったのだ、と。つまり、それくらいの楽曲でないと今の彼女たちを最高の形で、完全に伝えきることができないのかもしれない。


 ライブのオープニングで早くも横綱相撲を見せられ、開いた口が塞がらない状態だったが、続く2曲目「ひらがなで恋したい」のイントロが聞こえてきた瞬間に我を取り戻す。この曲が始まった瞬間、会場内に響き渡った歓声はちょっと鳥肌モノだったことを付け加えておく。まさに“ひらがなけやき”時代を象徴するようなこの曲が再び披露されることを、みんな待っていたのだ。しかも、そういった1曲を大会場でのアイドルライブの定番といえるトロッコに乗って披露するのだから、文句のつけようがない。トップアイドルのアリーナライブとして至極真っ当な、正解以外の何ものでもない演出だった。


 最初のMCでは影アナを務めた金村美玖、丹生明里、渡邉美穂の埼玉出身組についても触れられる。彼女たちにとっては凱旋公演ともいえるこの日のライブ。しかも、会場には約2万人ものファンが詰め掛けており、日向坂46史上最大規模のワンマンライブとなっているのだから、ステージから見たその景色はなんとも言えないものがあったのではなかろうか。


 最初のMCを終えると、「ときめき草」「期待していない自分」「抱きしめてやる」といったエモーショナルな楽曲が続く。けやき坂46/日向坂46が信条として掲げる“ハッピーオーラ”とは異なるカラーだが、先に挙げたようにこのが“むしゃら感”や“ひたむきさ”も彼女たちにとってなくてはならない要素。また、こういった楽曲をただ全力で歌い踊るだけではない、ちょっとした余裕のようなものもわずかながら感じられた。いろんな感情をコントロールしながら、曲ごとに異なる主人公を表現していく巧みな技術が、今の日向坂46の中では育ち始めているのかもしれない。


 また、その後のユニット曲では……1期生による「My god」、加藤史帆、渡邉美穂、上村ひなのと各期からの代表メンバーが参加した「やさしさが邪魔をする」、東村芽依、金村美玖、河田陽菜、丹生明里といった個性派が揃った「Cage」、そして2期生&3期生による爆発力の大きな「Dash & Rush」と、それぞれ異なる色合いの曲調で、メンバー一人ひとりの個性が際立つパフォーマンスを楽しむことができた。中でもダンスのみならず歌の表現力も求められる「Cage」では、東村をはじめとした4人の一段と成長した姿を目の当たりにし、個々の歌やダンスに目と耳を釘付けにされたことは特筆しておきたい。


 ライブでのパフォーマンスはこの日が初めてだった新曲「こんなに好きになっちゃっていいの?」も、MVで目にしたとき以上のエモーショナルさが伝わってきた。高度なダンスはもちろんのこと、繊細さも求められる歌や憂いなどが求められる表情作りなど、少なくとも「キュン」を発表した当時の彼女たちからは想像もつかなかった進化を遂げていることを、この1曲だけでも十分に感じ取ることができたはずだ。この曲こそけやき坂46時代に放っていた“ひたむきさ”の延長線上のあるものだが、以前と違うのはメンバー一人ひとりが女性として、人間として格段と成長しているということ。つまり、実年齢の成長に合わせた結果がこの曲で歌われている内容や表現しようとしていることにつながっているのではないだろうか。そう思わずにはいられないほどに、この曲のパフォーマンスには胸に迫るものがあった。


 ライブ終盤は、今や彼女たちのステージには欠かせない「キツネ」やデビュー曲「キュン」、そしてグループの象徴ともいえる「ハッピーオーラ」とアゲ曲が続く。さらに極め付けの「NO WAR in the future」へとなだれ込み、会場の熱気がピークに差し掛かったところでピースフルな「JOYFUL LOVE」でライブ本編を締めくくる。けやき坂46時代の楽曲をバランスよく挟むだけではなく、「NO WAR in the future」や「JOYFUL LOVE」にも3期生の上村を加えてパフォーマンスすることで今の日向坂46の鉄壁さをアピールするその姿からは、今の彼女たちがけやき坂46結成から現在までにおいて最高/最強だということが伝わってきた。


 アンコールでは、1期生による「誰よりも高く跳べ!」、2期生による「半分の記憶」というけやき坂46時代からの定番曲もプレゼントされ、これ以上ないほどに満足した……と思いきや、いくつものサプライズ発表が用意されていたのだから、過剰にも程がある。その中には2020年1月からスタートする日向坂46主演ドラマの情報も含まれていた。今年の夏、彼女たちはこのドラマの撮影に全力を注いでいたのだ。しかも、小坂菜緒に関して言えば、このドラマ以外にも初の主演映画『恐怖人形』が11月に公開予定なのだから、シングルデビュー以降のスケジュールを想像するだけで気が遠くなるものがある。


 だが、この事実を知ってようやく理解した。たまアリ公演で見せた表現力の急激な向上は、もしかしたらドラマや映画の撮影から得たものが大きかったからではないか。ここで掴んだきっかけが、大なり小なり今回のワンマンライブに反映されているのではないか……そう考えると、そのスポンジのような吸収力に驚くと同時に、ゾッとすらした。ライブ中のMCひとつ取り上げても、『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)や『HINABINGO!』シリーズ(日本テレビ)といったバラエティ番組での経験がしっかり反映されており、起承転結がしっかりした、堂々としたトークを楽しむことができた。一つひとつの仕事での経験が、最終的にはすべてステージに集約されていく……だとしたら、この先の日向坂46の進化はどこまで続くのだろう。


 ライブ終盤、キャプテンの佐々木久美がこの日の公演を振り返り「今の日向坂46をすべて出し切れたと思います。でも、私たちはここで留まらずに坂を駆け上っていけるように精進し続けます」と発言している。この謙虚さとひたむきさを忘れることなく、観る者にハッピーオーラを届け続けていけば、日向坂46はいずれアイドル界のトップに到達するだろう。そして、その日はそう遠くないはずだ。(西廣智一)