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愛すべきダメ男は朝ドラの定番? 『スカーレット』北村一輝、“昭和の父”として滲み出る愛情

2019年10月02日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』写真提供=NHK

 NHK連続テレビ小説『スカーレット』の放送が始まった。芯が強くて、情熱的なヒロイン・川原喜美子を演じるのは戸田恵梨香。戦後まもない昭和22年、大阪から滋賀県の信楽にやってきた川原一家が新生活をスタートさせた第1話では、9歳の喜美子を川島夕空が元気に、愛嬌たっぷりに演じて視聴者の心をしっかりとつかんでいた。


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 三人姉妹の長女で妹たちの面倒も見る働き者の喜美子は、父の常治(北村一輝)と母のマツ(富田靖子)の愛情を受けて育っているものの、川原家は米も買えないほど貧しい。常治が事業で失敗し、借金をつくってしまっただけでなく、米が買えないのに、なぜか酒は手に入れている……常治の気質に一家が困窮する原因があるようだ。


 北村一輝演じる常治は、亭主関白で娘の前では強い父親でいたいと見栄を張る典型的な「昭和のお父さん」。情に厚く困った人は見捨てられないのは彼の良いところだが、お人好しすぎて、なかなか貧乏から抜け出せないようだ。


 ちなみに、NHK大阪局制作による朝ドラ101作目の本作は、同じく大阪局制作の99作目『まんぷく』(2018年10月~2019年3月放送)のヒロインの夫・立花萬平(長谷川博己)も、97作目『わろてんか』(2017年10月~2018年3月放送)のヒロインの夫・北村藤吉(松坂桃李)も安定した暮らしとは程遠い波乱万丈な人生を生きるタイプだった。


 『まんぷく』の萬平の場合、誤解とはいえ逮捕されること3回(破産は1回)など、ヒロインの福子(安藤サクラ)の支えがなければ、インスタントラーメンを発明するどころではなかった。『わろてんか』の藤吉もヒロインのてん(葵わかな)を笑わせることに生き甲斐を感じる優しい人ではあったが、頼りにはならなかった。結局、旅芸人として成功したわけでも、実家の老舗米問屋の経済的危機を救ったわけでもない。逆に人を信用して失敗し、寄席興行の世界へ飛び込むことができたのは、てんのおかげ。2人が築いた「風鳥亭」の事業を軌道に乗せたのも、てんに商売の才能があったからだ。


 また、『まんぷく』では福子の母で気位が高く、口うるさい今井鈴(松坂慶子)が福子と萬平との結婚を反対。どうにか2人で説得して了承を得た。一方、『わろてんか』では、てんの父の藤岡儀兵衛(遠藤憲一)の反対を振り切って駆け落ち同然に大阪へ向かった。親が思わず反対したくなるダメ男と運命的な恋に落ちるヒロインは、経済的にも精神的にも愛する人を支える強い女性へと成長するしかない。そんな状況に自分を追い込んでいるようにも見える。


 スタートしたばかりの『スカーレット』では、喜美子の両親も駆け落ち同然で結婚している。第1話でマツの着物を大阪で高く売ってくると言う常治を喜美子が見送っていたが、本来なら高価な着物を着て暮らせていたかもしれないマツが、常治と出会ったことで価値観も一変。それほど激しい恋をしたということかもしれない。


 多くの女性は安定を求めて結婚するが、朝ドラの世界には波乱万丈でちょっと抜けているけど、愛情深い……そんなダメ男たちが多く登場する。欠点もあるし失敗もするが、表面的ではない愛情表現に心を揺さぶられるのだ。子供と一緒にはしゃぎ、子供が喧嘩をして傷つけられれば、ケガをさせた相手の家に怒鳴りこみ、子供が泣けばすぐに抱きしめて恐怖を取り除こうとしてくれる。愛情の豊かさは数値化することも、何かと比較することもできないけれど、北村一輝演じる常治の家族への愛が、第1話の15分の中に凝縮されて詰め込まれていたのが分かった。


 インタビューで喜美子役の戸田恵梨香が「近年の朝ドラは爽やかなイメージですが、『スカーレット』に関しては泥臭いです」と語っていたが、その人にしか出せない色気や味わい、うわべだけではない個性的な表現というものが今はとくに求められているようにも思える。遠くなりかけた昭和を描くこの物語、愛すべきダメ男・常治を演じる北村一輝に心揺さぶられ、笑ったり泣いたり、伝わる情熱から目をそらすわけにはいかない。(池沢奈々見)