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『いだてん』が大河に新風か? オリンピックの歴史と嘉納治五郎の功績を令和に知らしめた意欲作

2019年09月30日 15:52  Techinsight Japan

Techinsight Japan

松重豊、星野源、阿部サダヲ(画像は『星野源 Gen Hoshino 2019年9月29日付Twitter「このあと20時からNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に、星野源が外交評論家・ジャーナリストの平沢和重役として出演します。」』のスクリーンショット)
NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の第37回「最後の晩餐」が9月29日に放送された。思えば第1部で日本人初のオリンピック選手となり「日本のマラソンの父」と呼ばれた金栗四三(中村勘九郎)を主人公に描き、第2部が東京オリンピック招致に尽力した田畑政治(阿部サダヲ)を主人公とするなか、常にその土台となって時代を動かす原動力となったのは柔道の創始者として知られる嘉納治五郎(役所広司)だった。その彼が船上で「最後の晩餐」を楽しんだ後、帰らぬ人となる。

嘉納治五郎と言えば、近藤竜太郎氏の原作をテレビドラマ化した『柔道一代』(1962年~1964年)で主人公としてその生涯が描かれ、近年では浦沢直樹氏による漫画・アニメ『YAWARA!』に登場する主人公・猪熊柔に柔道を教え込む柔道家の祖父・猪熊滋悟郎は「嘉納治五郎」をモデルに描いたと言われる。

そのように講道館柔道の創始者で「柔道の父」として知られる嘉納治五郎だが、日本におけるオリンピックやスポーツの発展に関わった人物としてスポットを当てたドラマは『いだてん』が初めてではなかろうか。

金栗四三が幼少の頃、地元熊本に嘉納治五郎が柔道を広めるためやって来た。四三は父親から「嘉納治五郎先生に抱っこしてもらえば元気で強く育つだろう」と連れて行かれて遠くからその姿を見る。その後、成人して東京高等師範学校の学生となった金栗四三が嘉納治五郎と再会。共にオリンピックの夢を追いかける展開はドラマティックだ。

「スポーツなど遊びではないか」、「女性はスポーツなどやるべきではない」といった考えが一般的な時代に日本のオリンピック出場を実現したり、女性選手がスポーツで活躍する道を拓いた嘉納治五郎と金栗四三の功績を『いだてん』で知った人も多いだろう。

第37回本編後の『いだてん紀行』には、熊本県上益城郡出身の柔道家で1984年ロサンゼルスオリンピック金メダリストの山下泰裕氏が登場。「当時の時代的背景から日本にオリンピックを持ってくるというのはとても普通では考えられない。嘉納先生そのものが世界のIOC委員から非常に信頼されており、命を懸けて日本招致を成し遂げられたのだと思う」との趣旨で振り返った。

彼は以前、全日本柔道連盟会長としてインタビューを受けた際に「柔道を通じて学んだことは社会に生きると思っており、嘉納治五郎師範が柔道を創始し、柔道を通して目指したものは何なのか、なぜ柔の道と名付けたのかという原点を大事にしたい」と話している。

『いだてん紀行』では「『柔道ってあの嘉納がつくったんだよな』そういう嘉納先生に対する思いが1964年の柔道の東京開催に…」と涙で言葉を詰まらせながら、「日本オリンピック委員会の会長として、嘉納先生の志を受け継ぐ後継者の1人でありたい」と2020年に向けて決意を見せていた。

ドラマは10月6日放送予定の第38回「長いお別れ」で日中戦争が長期化し1940年東京オリンピック開催への反発が強まるなか、やがて太平洋戦争に突入して事態はさらに悪化していく。

これからは嘉納治五郎の遺志を継ぐ田畑政治をはじめ、嘉納と「最後の晩餐」をともにした外交評論家でジャーナリストの平沢和重(星野源)や東京都知事の東龍太郎(松重豊)、日本オリンピック委員会常任委員の岩田幸彰(松坂桃李)などの活躍にも注目したい。

大河ドラマは戦国時代や江戸幕末期を書いた歴史小説を題材にすることが多い。『いだてん』は『2020年東京オリンピック』の開催を前に日本におけるオリンピックの歴史を題材にしており、脚本を手掛けた宮藤官九郎は明治後期から昭和中期における人々の暮らしを落語をまじえながら表している。題材への視点の当て方や脚本でオリジナリティーを出す手法として、大河ドラマに新しい風を吹き込む意欲作と言えるだろう。

画像は『星野源 Gen Hoshino 2019年9月29日付Twitter「このあと20時からNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」に、星野源が外交評論家・ジャーナリストの平沢和重役として出演します。」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 真紀和泉)