2019年09月29日 10:31 弁護士ドットコム
路線バスの運賃箱にメダルや外貨などを入れる不正が相次いでいることを朝日新聞(9月18日)が報じた。
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自動感知機能をもつ運賃箱を設置すれば不正を防ぐことが期待できるが、高額のため、すべてのバス会社が設置できず、不正が起きているようだ。
報道によると、偽造された回数券もみつかったことがあるという。自宅のコピー機で作った回数券を使った男性が、偽造有価証券行使の疑いで逮捕(その後、処分保留で釈放)された。
ゲームセンターのメダルや外貨、おもちゃのお金などを運賃箱に入れた場合、どんな罪に問われるのか。泉田健司弁護士に聞いた。
ーーメダル、外貨、おもちゃのお金などを運賃箱に入れた場合、どのような犯罪が成立する可能性があるのだろうか
「いずれも、詐欺利得罪(刑法246条2項)が成立すると考えられます。未遂、つまりメダル等を運賃箱に入れたけれども、運転手が気付いた場合も処罰されます(刑法250条)。
詐欺利得罪の法定刑は、詐欺罪(刑法246条1項)と同じく、10年以下の懲役です。『財物の交付を受けたのか』、それとも『財産上の利益を得たか』の違いに過ぎないので、詐欺罪とほとんど同じと考えてよいでしょう。
なお、偽造の乗車券や回数券を用いたり、期限切れの定期券を用いた場合も詐欺利得罪が成立します」
ーー「偽造有価証券行使」の疑いで逮捕された男性は、自宅のコピー機で回数券をカラーコピーしたと思われるものを使ったようだ。偽造、模造した硬貨を使った場合は、詐欺利得罪とは別の罪に問われるのだろうか
「回数券は『有価証券』にあたります。そのため、これを偽造して使用する行為は、有価証券偽造罪(刑法162条1項)および偽造有価証券行使罪(刑法163条1項)にあたります。法定刑は、いずれも3月以上10年以下の懲役です。
ほかにも、公債証書や株券、手形、小切手、勝馬投票券や宝くじ、クーポン券、乗車券なども有価証券とされています。これらの偽造と行使についても同様です。
硬貨を偽造して使用する行為は、通貨偽造罪(刑法148条1項)、偽造通貨行使罪(刑法148条1項・2項)が成立します。法定刑はいずれも無期または3年以上の懲役とされています。
有価証券の偽造よりも通貨の偽造の方が悪影響が大きいことから、罪の重さがかなり違います」
ーーバスの不正乗車を防ぐためには、「自動感知機能」をもつ運賃箱を導入するほかないのだろうか
「有力企業は、多額の費用を投じて、自動感知機能をもつ運賃箱を導入するなどの技術的対策を講じて、犯罪を抑止できます。しかし、そうではない企業は、そういった対策ができないために狙い打ちされ、さらに経営状況を悪くするという悪循環がありそうです。
また、企業が技術的対策を打つことができたとしても、電子マネーの改ざんなどの新たな技術悪用が生まれれば、さらなる技術的対策を打たなければならなくなります。まるでいたちごっこです。
ほかにも、興行チケットの転売問題やセブンペイなどの電子マネーの不正作出、情報漏えいなど、かつては考えられなかった行為が続々と社会問題となっています。 こういった技術の進歩に伴う社会問題に対して、きちんと犯罪として処罰できるようにすることは、人々が技術の進歩の恩恵を安心して享受することにつながります。司法の役割は小さくないと思います」
【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/