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京アニ放火事件から2か月超。寄付以外に支援する方法は?有識者に聞く

2019年09月28日 11:40  CINRA.NET

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京都アニメーション 第1スタジオ(火災発生前) By Mike Hattsu, CC 表示-継承 4.0
悪夢のような事件から、2か月以上が経過した。7月18日に発生した京都アニメーション第1スタジオの放火事件では、35人が死亡し、34人が負傷した。アニメ史上に類がない、未曾有の惨事となった。

■広がる支援の輪。寄付が最善の支援だが、そのほかにわれわれができることはあるのか? 有識者に聞く
事件の報道を受けて、すぐさま世界各地で追悼や支援の輪が広がった。事件から4日後、7月22日には京アニによる支援金預かり専用口座が開設。9月20日に京都府が設置した義援金の受入専用口座へ移管されるまで、25億円を超える寄付が寄せられたという。義援金は犠牲者の遺族や負傷した社員に対して、義援金配分委員会を介して配分されるという。義援金の受入専用口座は、京都府に加えて、日本赤十字社、京都府共同募金会が開設しており、10月31日まで受け入れるとしている。口座等は京アニのオフィシャルサイトに掲載中だ。

再建や補償には100億円以上かかるのではないかと言われていたから、支援のためにはまだまだ寄付が最善の方法であることは間違いない。筆者も少ないながら、個人的に寄付をさせてもらった。

いっぽうで、できる限りの寄付はしたものの、まだ何かしたいと思っている人は多いはずだ。定期的に寄付をしている人も少なくないようだが、経済的な理由などで寄付ができない人もいるだろう。では、寄付以外にできる支援はないか。事件直後、7月22日にNHK『クローズアップ現代+』で放送された『京都アニメーション 世界に広がる支援の輪』にも出演した、アニメジャーナリストの数土直志氏に聞いた。

<多くのかたが負傷され回復までには時間がかかります。また亡くなられたかたには遺族もおられます。さらにスタジオの再建も考えると、多くの資金が必要となることが予想されます。現時点で支援金はもっとも助かる応援ではないでしょうか。

そこからさらに一歩進めるのは、作品を応援する気持ちを伝えることだと思います。直接被害に合われたスタッフはもちろんですが、悲しい事件が起きたことで他のスタッフの気持も沈んでいることだと思われます。
それでも多くのファンが京アニの作品を楽しみに待っている、そうしたことを伝えることが次につながるはずです。

それは応援の言葉を発信することはもちろんですが、商品の購入でも、作品をもっともっと観ることでもよいのだと思います。>

■ティム・クックやジャスティン・トルドーも追悼。世界中のアニメファンから圧倒的なリスペクトを受ける京アニの「観るべき作品」は?
事件直後は「京アニ作品を目にするのが辛い」といった声も散見されたが、そのいっぽうで、京アニの存在をこの事件で初めて知ったという人もいるだろう。アニメファンの間では世界各地で圧倒的なリスペクトを受けてきた京アニだが(アップルCEOのティム・クックや、カナダ首相のジャスティン・トルドーらが京アニの被害者に哀悼の意を表したことも印象深い)、スタジオジブリに比べるとお茶の間での知名度は高くなかった。

京アニの作品を心から楽しむ体験も、ひとつの支援の形であると私は考えている。この機会に初めて京アニ作品を観る人に向けて、数土氏に案内を依頼した。

<京都アニメーションの作品は、『涼宮ハルヒの憂鬱』や『らき☆すた』『けいおん!』『響け!ユーフォニアム』といった女子学生が活躍する作品が多く言及されています。
これらの作品がアニメの歴史に残る作品であることは間違いありません。ただ幅広い作品を多く手がけてきたことこそが京都アニメーションの総合力であり、個性だと思います。

男子高校生たちが主人公になった『Free!』や『ツルネ -風舞高校弓道部-』は、同じ日常系でも、少し異なった視点がありますし、映画『聲の形』は社会的なテーマに深く取り組んでいます。

『フルメタル・パニック!』シリーズや『境界の彼方『無彩限のファントム・ワールド』といったアクション満載の作品も、もっと注目されていいはずです。恋愛アドベンチャーゲームを原作とした『AIR』『Kanon』も忘れられない傑作です。

こうした京アニの作品群がきちんと紹介されていければ、それもまた京都アニメーションへの支援につながるのでないでしょうか。>

私が個人的に京アニの存在を初めて意識したのは『フルメタル・パニック? ふもっふ』だった。放送から15年近く経つ作品だが、躍動感あるキャラクター描写は色あせていない。『けいおん!』シリーズや『響け!ユーフォニアム』といった代表作のほか、一般に向けては米澤穂信のミステリ小説を原作とし、実写映画版も作られた『氷菓』、大今良時による漫画を映画化した『聲の形』などは、アニメファンでなくても入り込みやすい作品かもしれない。一世を風靡した『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズは、日本のアニメ史のみならず、SF・ファンタジー史にも残る作品だ。

■『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』は上映期間を延長。完全新作の劇場版も制作中
9月6日からは、映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ―永遠と自動手記人形―』が公開中。3週間限定公開の予定だったが、好評を受けて4週目以降も公開が継続される。エンドクレジットには、事件の被害者全員の名前が記されている。新作となる『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は来年1月10日に世界同時公開を予定していたが、現在制作中とのことで公開延期となった。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はヨーロッパを連想させる世界を舞台に、兵器として扱われ、人間的な感情を理解することなく育った少女が、「手紙」の代筆を通して成長していく姿を描いた作品で、これまで現代を日本を舞台に作品を多く作ってきた「京アニらしさ」の枠を広げようとする意欲的な作品といえる。

■報道によって刺激される恐怖や怒り、悲しみ、無力感。負の感情といかに対するか
大規模な自然災害やテロ事件、交通事故など、大きな暴力に接するとき、テレビやネットなどの報道を通してであっても、見る人の心に深刻な傷を残すことがある。他者の苦痛に共感することによって心身にストレスを抱えてしまう「共感疲労」という現象は、それに近いものだろう。

「悲しい出来事としっかり向き合わねば」「この悲劇を教訓として活かさなければ」といった意見もあるだろう。だが、ショッキングな出来事にずっと向き合っていられるほど誰しもが強いわけではない。どうしてもつらい気持ちになってしまうときはあるし、事件を忘れたいと思うときもある。そういうときはこの記事も含めて、報道やSNSから目をそらし、耳を塞いでほしいと思う。

京アニの事件については、事件後も報道がやむことがない。被害者遺族への配慮を欠いた取材や、被害者の実名公表の是非など、様々な議論が日々交わされている。「京アニの事件を再現する」といった言葉での脅迫事件も発生している。それだけ多くの人にショックを与えた事件であり、再発防止策など議論されるべき点はまだまだ多いが、少なくとも亡くなった方々と遺族への思いやりを欠かさないものであってほしい。

7月18日、Twitterのトレンドに上がってきた「京アニ」「京アニ火災」といった文字を見て、私は「火事か、大変だな」程度に考えていた。被害の状況が徐々に判明するにつれて、信じられない悪夢の中に引き込まれたような心地が強くなった。そのときに感じていた自分の無力さを、私は忘れることができない。

恐怖や怒り、悲しみ、無力感。そういった負の感情を、どのように受け入れ、対処するのか。それは個々人の心のありようの問題であり、「この私」の「この生」をいかに生きるのかという、われわれ1人ひとりの人生の課題でもある。日本のアニメ業界をはじめクリエイティブに携わる人たち、そしてこれから創作を志す若い人たちが、この事件によって萎縮せず、京アニがこれまでにそうしてきたように、丹精を込めた、挑戦的な創作物を生み出していくことを祈りたい。勇気を奮って、「この私」がなしうる表現をしていくこと。それもひとつの支援であると信じている。

最後に、京都アニメーションの火災により亡くなられた方々に、謹んでご冥福をお祈り申上げます。また、ご遺族の皆様には心よりお悔やみ申し上げます。怪我をされた方々に関しましては、一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。