トップへ

裁判の「差し戻し」って何?

2019年09月28日 11:12  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷は9月13日、国の請求を認めた二審・福岡高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。この裁判で、一審は国の請求を退けたが、二審は「漁業権は消滅し、開門を請求する権利は失われた」とし、国が逆転勝訴。漁業者側が上告していた。


【関連記事:お通し代「キャベツ1皿」3000円に驚き・・・お店に「説明義務」はないの?】



第二小法廷は今年6月にも、諫早湾をめぐる別の2件の訴訟で漁業者側の上告を棄却し、「開門しない」司法判断が確定している。



一般に裁判の「差し戻し」とは、どんな制度で、何を意味するのか。杉浦智彦弁護士に聞いた。



●最高裁は「『真実が存在するか』否かは判断しない」

最高裁判所の「(破棄)差戻」とは、これまでの高等裁判所の判決を否定し、もう一度、過去に審理した裁判所で、裁判のやり直しをさせることをいいます。



裁判の中身ではなく手続きに違法性がある場合は、地方裁判所に差し戻すこともありますが、基本的には高等裁判所に差し戻されます。



今回の判決は一見すると、上告した漁業者側の勝訴のように思えます。しかし実はそうとも言い切れません。この点は、最高裁判所の役割が深く関わります。



ーーどういうことでしょうか



「日本は三審制で、上告という最高裁判所で争うチャンスを与えられている」という話は、教科書などで聞いたことがあるかもしれません。



しかし現実には、最高裁判所の裁判官は15名しかおらず、全国から決着のつかない紛争が集まれば、パンクしてしまうでしょう。そのため、日本の最高裁判所は、判断できる範囲を極めて狭くしました。



誤解を恐れずに言えば、金を貸したかどうかなどの「真実が存在するか」は判断せず、「憲法や法律というルールの解釈」しか判断しない機関になっているのです。単なる真実解明のためであれば、最高裁への上告さえ受け付けてもらえません。



ーーつまり最高裁では事実の調査ができないため、下級審に差し戻すことがある、ということでしょうか



そのようにも言えます。最高裁判所は、事実の解明に力を割けない関係で、その解明を下級審にゆだねてしまっているのです。



今回のような「破棄差し戻し」というのは、平たくいえば「これまでの裁判所が前提としたルールは間違ってますよ。このルールで判断してね。わからない事実もあるだろうから、もう一度、原告や被告に資料を出してもらってください」という意味なのです。



この判決でも、「開門を請求する権利がなくなったこと」は本件の請求異議の理由にならないということをルールとして示しつつも、「ほかにも権利濫用などの請求異議の理由が考えられ、その解明をしていないから、改めて高等裁判所で審理してください」といっているにすぎないのです。




【取材協力弁護士】
杉浦 智彦(すぎうら・ともひこ)弁護士
神奈川県弁護士会所属。刑事弁護と中小企業法務を専門的に取り扱う。刑事事件では、特に身柄の早期解放に定評がある。日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事務局員としても活躍。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/