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『監察医 朝顔』上野樹里に受け継がれた医師としてのバトン 最終話まで描き続けた“日常”の尊さ

2019年09月24日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『監察医 朝顔』(c)フジテレビ

 上野樹里が主演を務める月9ドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ系)が、9月23日放送の第11話で最終回を迎えた。


 最終回で描かれるのは山梨県で発生した大規模な土砂災害、そして古里・仙ノ浦での灯籠流し。土砂災害の現場で朝顔(上野樹里)や茶子(山口智子)たちが目にするのは、次々と運ばれていく遺体と泣き声、怒号。何もしてあげられない報いから、朝顔、光子(志田未来)、涼介(中尾明慶)がブルーシートに安置された遺体一つひとつに声をかけている姿は、3人の無念と法医学者も心が悲鳴を上げてしまうようなギリギリの場所であることを物語っている。


 土砂災害が産業廃棄物の不法投棄による人災だった疑いがかかり、朝顔は遺体の生きた証を見つけるため、解剖へと乗り出す。ここで朝顔はついにに執刀へのトラウマを乗り越えるのだ。また、朝顔と茶子は災害現場に訪れ、否が応でも2011年の震災を思い出していた。当時、茶子は自信を持って東北に向かったが、あまりの惨状から自分の無力さを痛感していたという。しかし、その代わりに茶子は朝顔や平(時任三郎)に会うことができた。しっかりと医師のリレーは続いている。


 最終回の後半で、朝顔らは母・里子(石田ひかり)の生まれ故郷・仙ノ浦で行われる灯籠流しに参加するため、東北へと向かう。桑原(風間俊介)と娘のつぐみ(加藤柚凪)は、大じいじこと浩之(柄本明)に会うのは初めてだ。前回、仙ノ浦に来た際、朝顔は震災のトラウマから駅から移動することもできなかった。心配そうに見つめる平とじっと朝顔を待つ桑原とつぐみ。思いつめた表情の朝顔が長い間映し出され、ゆっくりと前を向き、一歩ずつ踏み出していく様は、執刀のトラウマからの脱却がそうであるように、医師としての経験が朝顔を強くしていることを表している。


 この最終回で最も印象的だったのが、朝顔たちの久しぶりの帰郷に浩之が里子の幻を見る場面だ。浩之は、これまで一緒に里子を捜し続けていた平にも、あまり感情を剥き出しにすることはなかった。しかし、幻の里子の姿に浩之は「どうして……ここに里子が」と惜別の思いを露わにする。胸に沈んでいた、会いたいという思いが掬い上げられ、一気に溢れ出る。震災から8年。『朝顔』には過激な震災の描写は決して存在しないが、今もあの日と向き合い続ける人々の一つの現実を垣間見たような気がした。


 朝顔と平は里子を弔い、「みんなと一緒にいるから大丈夫だからね」と話しかける。『朝顔』が一貫して伝えてきたのは、なんでもない家族の日常。悩みや葛藤からふと我に返った時、ごはんをしっかり食べること、それが生きていることに繋がるのだと気づかされる。過去を受け入れ、日々に幸せを見つけながら生きていけば、きっと里子も見守ってくれている。お遊戯会に向けたつぐみの演技を絶賛する朝顔たちの姿を見て、日常に転がっている幸せについて改めて考えさせられた。『朝顔』は誰しもに当てはまる家族の物語だ。


 さらに、9月30日には「特別編~夏の終わり、そして~」として2時間スペシャルが放送される。物語の中では、朝顔と桑原が出会うこととなった事件の回想も。朝顔たちの日常は、あと少しだけ続いていく。(渡辺彰浩)