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THE ORAL CIGARETTESから9mm、cinema staffまで キャリア総括する作品をピックアップ

2019年09月23日 17:31  リアルサウンド

リアルサウンド

THE ORAL CIGARETTES『Before It's Too Late』

 8~9月にかけて様々なバンドがキャリアを総括するような作品をリリースした。この記事では、バンドのキャリアが総括され、次の指針が見えるような作品を取り上げ、紹介していきたい。


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 まずは、THE ORAL CIGARETTESのデビュー5周年のタイミングでリリースされたベストアルバム『Before It’s Too Late』。インディーズ時代のキラーチューンから、最新のシングルまで網羅した作品だ。このアルバムは2枚組になっており、1枚目ではシングル曲を中心に、2枚目ではバンドのコアな魅力を孕んだ楽曲が収録されている。注目すべきは、2枚目のディスクの後半。「ハロウィンの余韻」から「LOVE」までの6曲が、“Redone Version”として再レコーディングされているのである。しかも、技術を磨いた今のバンドが改めて演奏し直したというだけでなく、ほとんどの楽曲が原曲から大きくアレンジを変えている。ギターロックから離れて、打ち込みの要素に舵を切ったような変化だ。


 元々、ダークな世界観や負の感情を躊躇なく形にして、独特の世界観を作り上げるのがTHE ORAL CIGARETTESの持ち味。今回のアレンジでは、そんなバンドSの個性をより体現している。今後のTHE ORAL CIGARETTESが、打ち込み主体のバンドサウンドに舵を切るのかは定かではないが、また新たな挑戦をしてくれることを期待したい。


 次に紹介したいのが9mm Parabellum Bulletの『DEEP BLUE』。ハードコアやメタルの匂いのあるサウンドに、歌謡曲的なメロディを組み合わせるのがバンドの良さであり、今作もそんなお家芸とも言える音楽性が所狭しと炸裂している。独特のギターリフや、唐突なツーバスの連打などは、そんな要素の1つである。なにより、今作では個々の楽器パートが熟達されて、サウンドそのものに鋭さが宿っている。滝善充(Gt)がライブ活動を休止し、思い通りにバンドを動かせない時期があった。それを乗り越えてきたからこそ、初志貫徹なロックサウンドを爆発させたのかもしれない。アルバム全体の装いだけでみると、今までの9mm Parabellum Bulletのサウンドの延長線上にあるような印象を受けるが、それは単に焼き直しなのではない。15周年というキャリアに相応しい、洗練された演奏力と、様々な出来事を乗り越えてきたからこそのバンドアンサンブルがいかんなく発揮されているのだ。


 最後に紹介したいのが、cinema staffの『BEST OF THE SUPER CINEMA 2008-2011/2012-2019』。この作品は、インディーズ時代の楽曲から最新作までの、cinema staffの10年以上のキャリアを総括するオールタイムベストとなっている。先に触れた9mm Parabellum Bulletとcinema staffのインディーズ時代のレーベルは同じ、残響レコードだ。残響レコードといえば、一時期のバンドシーンに“残響系”なるムーブメントを作ったレコード会社である。今回、9mmはオリジナルアルバム、cinema staffはベストアルバムと二組の作品形態は違うものの、どちらも当時のイズムの継承を感じさせる。さて、cinema staffがリリースするベストアルバムの内2曲、「新世界」と「斜陽」は新曲となっている。どちらもポップなメロディを大事にする今のcinema staffのモードが反映されつつも、空間を塗り潰すような図太い音圧や、フレーズごとにリズムの打ち方を変える、“残響系”という名に相応しいサウンドメイクがそこかしこに垣間見られる。


 ある程度キャリアを積むと、海外シーンなどでのトレンドの一つとも言える隙間のある音作りも踏まえ、大きくサウンドのあり方を変えるバンドが出てくる。THE ORAL CIGARETTESが、“脱ギターロック”に舵を切ったのも、そうしたトレンドと少なからず関係があるはずだ。一方、9mm Parabellum Bulletやcinema staffのように、ほとんど音の足し引きはせず“演奏レベルを上げること”で自身のサウンドを更新して、自分が思う“カッコいいサウンド”にこだわり続けるバンドもいる。そのスタンスは千差万別である。


 始まりはメンバーだけで音を鳴らす、シンプルな“ロック”だったバンドも多いはずだ。しかし、5年や10年のスパンで、バンドが鳴らす音や取り入れる音楽性は変わることもある。一人のリスナーとして、そういう変化こそがある種バンド的だと感じる。人の感情が日々の生活で揺れ動くように、バンドの音楽も日々変化や成長を遂げるのだろう。(ロッキン・ライフの中の人)