トップへ

居場所のなかったレズビアンの女子高生が女子大生になり、未来に向けて考えたこと

2019年09月21日 09:41  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

同性婚が認められていないのは、婚姻の自由を保障する憲法に違反するなどとして、複数の同性カップルが全国5つの地裁で集団訴訟を起こしている。その一つ、名古屋地裁で7月に開かれた口頭弁論の傍聴席に、ある女性が座っていた。


【関連記事:旅行で「車中泊」、運転席でエンジンかけて酒を飲んだら「飲酒運転」になる?】



大学生4年生のりぃなさん、21歳。3年前に中高生を中心としたLGBT当事者らが集まるコミュニティ「名古屋あおぞら部」を自ら立ち上げた。大人と違い、若い世代のLGBT当事者は悩みを打ち明けたり、語り合えたりする場が少なかったからだ。これまでに、東海地方を中心にのべ700人の若者が参加したという。同性婚訴訟を応援したり、LGBT関連のイベントに関わったりもしている。



りぃなさんに初めて取材( https://www.huffingtonpost.jp/2015/12/17/lgbt-school_n_8826780.html )したのは4年前。まだ高校生だったりぃなさんは、保守的な地方で自身が同性愛者であることで悩みや生きづらさを抱えていた。当時、東京都では渋谷区や世田谷区など、一部の先駆的自治体で同性パートナーシップ制度が導入が始まっていたが、LGBTに対する認知度はまだまだ低く、りぃなさんは家族にも言えなかった。今後、大学に通えるのか、社会で働けるのか、将来に漠然とした不安を持っていた姿が、印象に強く残っている。



しかし、その後、LGBTを取り巻く環境は激変。電通が今年1月に公表した調査結果によると、認知度は約7割となり、2015年の前回調査時(37.6%)から大幅に伸びている。りぃなさんも、来春には就職し、社会人としての人生をスタートさせる。りぃなさんの目に、今の社会はどう映っているのか。未来のためには何が必要なのか。4年ぶりに話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●ディズニーランドより楽しかった東京レインボープライド

高校生だったりぃなさんは、自分が当事者であることを家族に打ち明けられず、深く悩んでいた。しかし、この4年間で家族に変化があったという。



「家族からの理解はまだ得られず、完全に解決はしていないです。ただ、あの頃の親はセクシャルマイノリティに対してすごい拒絶反応を示していました。でも、この4年間でLGBTに関するポジティブな報道が増えたり、全国の自治体が同性パートナーシップ制度を導入したりと、かなりパブリックになってきた感じがあって、親の中でちょっとずつ意識が変わってきたかなと思います。今、親はなんとか理解しようと努力はしているようです」



高校から地元の大学に進学したりぃなさん自身も、大きく変わっていた。大学1年のGWに、渋谷で開催されている東京レインボープライド(TRP)を初めて訪れた。日本最大のLGBTイベントで、当事者や支援者らが集まり、人の目を気にすることなく楽しく過ごしていた。



「本当に夢の世界でした。ディズニーランドよりも楽しかった。渋谷は都会で人混みもすごいですし、一般的には息苦しい場所なのでしょうけど、私には息がしやすかった。それから4年間毎年、レインボープライドに行っているのですが、渋谷に降り立つたびに、普段は閉まっている羽がぶわーっと広がって解放されていく開放感がありました」



●大学では、講義とLGBTサークルで「自分」を切り替え

大学生になったことで、活動の範囲は広がった。ネットメディアのハフポストでブログを書いたり、地元でLGBTのイベントを手伝ったりするようにもなった。一番、大きかったのは大学のLGBTサークルに参加したことだった。



りぃなさんが入学した前年、同級生にゲイであることを暴露された一橋大学のロースクール生が転落死するという事件があった。この事件や、LGBTに関するニュースが増えたことをきっかけに、全国の大学でLGBTのサークルが増えていた時期だった。



「参加したサークルはインカレで、色んな大学の学生が参加していました。そこでは、色々な人たちと友達になって刺激にもなったし、すごく救われました。そこが悩みを吐き出せる場所になりました。普段、大学の講義の時は、これまで通り明かさずに、隠したまま過ごす。大学で話せないことはストレスでしたが、サークルで切り替えることができたので解消されていました。おかげで、大学にも通えたんです」



りぃなさん自身も入学後、すぐコミュニティを立ち上げた。あることに気づいたからだ。大学のインカレサークルは、基本的に大学名は問わないが、大学生でないと参加できない。しかし、自分が一番、困っていたのは高校生の時だった。



「大学生だけでなく、高校生の子たちも気軽に来られるような場所として、『名古屋あおぞら部』を一人で作りました。最初は15人ぐらいしか集まらなかったのが、最高で50人ぐらい。3年ぐらい続けてきましたが、累計で700人が参加がしてくれています」





●「ここに来られてよかった」と号泣する高校生

「名古屋あおぞら部」の参加者は10代から20代が中心で、中学生、高校生や大学生、中には働いている子もいるという。彼らはなぜ、集まってくるのだろうか。



「社会人向けのサークルはたくさんあるのですが、レズビアンはレズビアンだけ、ゲイはゲイだけ、と細分化されています。そうなると、バイセクシャルの人は入りにくいとか、エックスジェンダーは参加しづらいとか、そうしたことに気づきました。



それから、社会人向けのサークルは、会場が飲み屋さんであることが多いです。お酒やタバコが苦手という若い子もいます。そうした人たちが集まることのできる場、居心地のよい場を心がけました。



ずっと守ってるルールは、土日祝日の昼間に開くこと、遅くても夜8時までには解散すること、お酒やタバコの持ち込みはしないことです。始めた時、私自身が19歳の未成年でしたので(笑)。その場で見聞した情報を個人が特定される形でSNSなどで発信してはいけません。アウティングも、もちろん禁止です」



月に1回、公的施設の和室などを借りて集まり、車座になって自由に話す。話すテーマも決めていない。若い世代に多い恋や勉強、進路の悩み。学校の愚痴もあれば、好きなアニメやアイドルの話題で盛り上がる。なんてことのない話をしてだらだら過ごすのだ。しかし、そういう「場」こそ、彼らに必要なものだった。



りぃなさんによると、LGBTの若者の中には、不登校の経験がある人が少なくないという。戸籍の性と自認する性が異なるトランスジェンダーの子は、全日制高校だと異なる性の制服を強いられるため、制服のない通信制や定時制の高校を選ぶケースもある。家庭や学校に居場所がないことも多い。



ある時、初めて参加した高校生がいた。その高校生は、緊張がほぐれてきた時に突然、泣き始めたという。「ここに来られてよかった」と号泣したという。



「来てくれる子のほとんどが、『人生で初めて、ネットやテレビじゃなく、自分以外の当事者がいる場にきました』といいます。最初は本当に緊張している。でも、『初めて自分と同じ悩みを持っている人に出会えて、話し合えた』と泣いて喜んでくれるのがうれしいし、やりがいも感じます。



高校生の時の自分と重なるような子もいます。その子の笑顔を見ると、つらかった自分の高校3年間が昇華されていくような気持ちになります」



●全国転勤がある会社をあきらめた理由

充実した大学生活を送ってきたりぃなさんだが、大学3年生になると就職活動が始まった。



「すごい色々と考えました」とりぃなさんは笑う。日本では、新卒で入る会社はその後の人生を大きく左右する。慎重に学生生活を送ってきたセクシャルマイノリティの人にとっては、さらに慎重にならざるを得ない。一方で、りぃなさんには夢もある。パートナーと子育てをしてみたいという夢だ。



「まず、どういう仕事をしたいか考えて、ある程度会社を絞りました。でも、その会社には全国転勤がありました。説明では転勤はつらくないという話をされるのですが、実際にその会社で働いている人の家族構成を聞くと、圧倒的に専業主婦を妻に持つ方が多かったんです。ただ、1人だけベテランの女性がいらしたので、参考になると思って伺ったら、独身でした」



男性社員だったら妻は専業主婦、女性社員だったら独身。昭和の体質を引きずった会社だった。りぃなさんは仕事はやりたいが、女性としてここで働きながら子育てできるのか、転勤になった場合、パートナーにも来てほしいと言えるのか。同性愛者としては、同性のパートナーと法律婚できないが、配偶者手当は出るのか、社宅に入れるのか……。



考えれば考えるほど、その会社で働くイメージは描けなかった。りぃなさんは結局、全国転勤のある会社はすべて諦めることにした。ただ、りぃなさんだけでなく、会社説明会では学生側から「転勤はどれくらいありますか?」「転勤は拒否できますか?」といった質問が多く、一方的に社員を転勤させる会社は敬遠される傾向にあったという。



●決め手は「LGBTを隠さなくても良さそうな会社」

次に、りぃなさんは転勤がない別の業界を検討した。その業界には似たような大手が数社あり、説明会に行ったり、積極的にOG訪問をしたりした。



「どこの大手企業も社内が男性中心だと感じました。面接会場には自分以外、男子しかいなかったこともありました」



それでも気になる会社があった。OBOG訪問で信頼できそうな社員にだけ、自分がレズビアンであることを密かに打ち明け、「同性パートナーに手当はもらえますか? ルール上、もらえないことは知っていますが、交渉の余地はありますか?」と尋ねてみた。答えは「絶対にルールは変えない会社ですね」。



一方、TRPやLGBT関連事業にボランティアとして活動実績がある会社も増えてきた。どの企業に入っても、年収や業務内容は似たようなもの。りぃなさんの最後の決め手は、「LGBTを隠さなくて良さそうな会社」だった。その後、狙いを定めて無事、内定を得た。



同性パートナーに対しても結婚祝い金が出る会社だ。「就活でまわった多くの大手企業では無理といわれたものです。お金がほしいわけではありません。ただ、その会社にそういう意識があるかどうかが、気になりました」とりぃなさん。女性社員率や女性管理職率も高く、「自分も頑張れば管理職になれるかもしれない」と希望を持ったという。



●「10年後を目標に、生まれ育った町を変えたい」

りぃなさんは就活中、「会社名 LGBT」と検索して、その会社がLGBTに対してどの程度理解があるか調べた。たとえば、研修を受けているか、研修は管理職だけなのか、新入社員も全員受けたのか。



すると、ここでもLGBTに対する理解は広がっていることを感じたという。



「10歳くらい年上の方から聞いた話だと、面接で『LGBTのイベントでボランティアをしていました』といっても、『LGBTとはなんですか?』と聞かれて終わってしまい、落ちたとか…。



でも、私が受けた会社では、面接で名古屋あおぞら部のことを話しても、きちんと具体的にどんなことをしたのか、内容を聞いてくれました。ちゃんとガクチカ(学生時代に力を入れてきたことの意味)の質問に対応できて、良いタイミングで就活できたと思います」



しかし、就活を通じて、りぃなさんはこれまで考えたことのなかったことにも直面した。会社の福利厚生や税金の控除を調べてみたら、法律婚が可能な異性カップルと、法律婚が許されていない同性カップルとでは、あまりに差があることに衝撃を受けたのだ。



将来、自分は同性のパートナーと一緒に部屋を借りたり、購入して共有したりできるのか。また、今年2月には病気になり、一時は手術を受けるかもしれないという状態になったが、今後、同じような状態に陥った時、同性のパートナーは治療方針の意思決定ができるのか。社会人として新たな人生をスタートさせるにあたり、さまざまな不安が残ったという。



「就活は、人生で大事な命とお金と家を考えるきっかけになりました。同性婚など法制度を整えてもらえたら、もっと安心して生きていけるな、と思い、その必要性をより感じています」



りぃなさんは就活のかたわら、勉強して保育士の資格も得た。「将来の夢は今、里親です」と笑顔を見せる。いつか、パートナーと子育てしたいという夢を持っているため、里親になる際には、少しでも有利にはたらくように、と願っている。夢は他にもある。



「将来的には自分の生まれ育った保守的な町を、LGBTの人たちも住みやすい町にしていきたいです。目標は10年後です」