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「内々定です→ごめん間違いでした」は通用するのか?

2019年09月21日 09:31  弁護士ドットコム

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企業から来た内々定のメールが、まさかの「送信ミス」だったーー。ヤフー知恵袋にこんな投稿がありました。


【関連記事:企業からの「お祈りメール」がアリなら、学生の内定辞退もメールだけでOK?】



投稿者は内々定のメールが来たため、就職活動を終えて、内定承諾書が家に送られてくるのを待っていました。



しかし、メールが送られてから一週間後、企業から電話があり「採用部の勘違いで、内々定を間違えて連絡してしまいました。申し訳ありませんが、この度はご縁が無かったとのことでご理解の程お願いします」といったことを言われたそうです。



就活生にとっては間違いでは済まされないミスですが、法的には問題にならないのでしょうか。佐藤正知弁護士に聞きました。



●内定の場合は従業員としての地位を主張できる

ーー内定と内々定では、法的な位置付けが違うのでしょうか。



2020年4月新卒採用までは、日本経団連の「採用選考に関する指針」によって、正式な内定日は、卒業・終了年度の10月1日以降とされているため、それより前は、「内々定」とされていました。ところが、この指針は、2021年4月以降の新卒採用については廃止されることになっているのです。2020年からは、「内々定」が死語となるかもしれません。



正式内定の場合には、企業と労働者との間に労働契約が成立し、学生は企業に対し従業員としての地位を主張できます。企業が正式内定により成立した労働契約を解消するには、民法95条の錯誤を主張するか、解雇をするしかありません。



しかし、民法95条では、勘違いで意思表示をした側に重大な過失があれば、その意思表示は有効とされます。内定のような重要な通知についてチェック体制が不十分であったことからすれば、重大な過失があったというべきであり、内定の意思表示は有効でしょう。



また、解雇をするには、客観的で合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、勘違いでしたというだけでは合理的な理由とはいえないでしょう。



●内々定の場合は?

ーー相談者のように、内々定の連絡ミスの場合はどうでしょうか。



「内々定」の場合には、正式内定に至っていないことから、まだ労働契約は成立していません。このため、「内々定」が取り消されると、企業に対し従業員の地位を主張するのは困難です。



ーー「勘違い」、「送信ミス」は通用するのでしょうか。



「内々定」を得た学生は、問題でも起こさない限りは10月1日に正式内定を得られると期待するでしょう。



これを期待権といい、合理的な理由もなく企業が一方的に「内々定」を取り消した場合には、学生は企業に対し期待権を侵害されたことを根拠に損害賠償を請求することができます。そして「勘違いでした」というだけでは合理的な理由とはいえないでしょう。



ーー相談者は内々定の連絡を受け、就職活動を終えていますが…。



相談者は「内々定」を得たあと就職活動を終えたようですが、これが他の企業の「内々定」や選考を辞退したような場合には、期待権侵害の程度も大きくなります。



しかし、「内々定」から1週間しか経っておらず、他の企業の「内々定」や選考を辞退していなかったのであれば、期待権侵害の程度も少ないでしょう。




【取材協力弁護士】
佐藤 正知(さとう・まさとも)弁護士
神奈川県弁護士会所属。2017年度神奈川県弁護士会副会長。労働者側の労働事件を中心に取り扱う。日本労働弁護団常任幹事。神奈川過労死対策弁護団幹事長。過労死等防止対策推進全国センター幹事。著書「会社で起きている事の7割は法律違反」(共著・朝日新聞出版)等。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/