エイトビット初の元請け作品『IS<インフィニット・ストラトス>』(2011年)(C)2011 Izuru Yumizuru, PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION MEDIA FACTORY/Project IS――それがヒットにつながったわけですね。 葛西:そうだと思います。ただプロデューサーとしては反省も残りました。 ――そうなんですか。 葛西:元請け1本目ということで、作画さんも、演出さんも、3DCGチームもみんなそれぞれの立場で本当に頑張ろうとしてくれていたので、それはとても嬉しかったですし、「ありがとうございます」という感じでした。 ただ自分の中では、作品にとって優先すべきことを、最初の段階で整理して自分から示すことができていたら、もっとその気持ちを叶えてあげられたかもしれないし、もう少しスムーズにできたのかもしれない、と思いました。 今でもなかなかうまくできませんが、良い作品をなるべくスムーズに作りたいです。 ■葛西社長から見た河森監督と赤根監督――河森監督や赤根監督のものづくりの姿勢に影響を受けたというお話がありましたが、葛西さんから見て、お二人はどんな監督なのでしょうか。 葛西:河森さんは、まずアイデアマンで、人を喜ばせるのに貪欲です。だから、いろいろと新しいアイデアを思いつくんです。自分がそのアイデアを実現させるために気を配ったのはスタッフへの伝え方ですね。 せっかく画期的なアイデアでも、作業のタイミングによってはスタッフのモチベーションを下げてしまうかもしれないので、ただ伝えるのではなく、「大変だけど、これをやると、こういういいことがあるはず!どう思われますか?」みたいに一方的にならないように話をして、スタッフが「確かに面白そうだ」「これはやる価値がある」って思って作業してもらえるように努力していました。 ――スタッフに動機づけをして、巻き込んでいくわけですね。赤根監督はどんなタイプの監督なのでしょうか。 葛西:赤根監督は、すごくストイックに突き詰めるタイプですね。スケジュールがなくなってきても、諦めずにチャレンジしようとする方です。 でもそれは頑固ということじゃなくて、柔軟性もあると思います。目標を変えるわけではなく、絶対的な目標に到達するためのルートを柔軟に考えていく、という感じです。だから作っている間はとても大変ですが、すごく鋭い作品ができあがるんです。 (C)赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会葛西:『星合の空』は赤根監督の持ち込み企画で、ソフトテニスが題材です。 日本のソフトテニスは中学生の競技人口がすごく多いんですけど、プロ選手はいなかったスポーツなんです。それがある種の青春の象徴をするような、そんなドラマを描く作品になります。赤根監督の作品は、回を追うごとに、世界に引き込まれていく魅力があるので、そこを楽しみに見てもらえればと思います。 →次のページ:企画を決める時の基準はスタッフィング■企画を決める時の基準はスタッフィング――オリジナル企画はいろいろ苦労があると思いますが、プロデューサーとして気をつけていることはありますか?葛西:原作ものはもうそこに「おもしろさ」があるんですが、オリジナルはそれをゼロから作らなくてはならないのが大変です。制作する時に意識しているのは、なるべく腹の探り合いみたいなのはしないで、お互いに本音で話しにいくことを大事にしています。 最初に本音を隠して始めても、後々絶対いいことがないんですよ。本音で話して、納得してやって、それでうまくいかなかったらそれで仕方ないと思うし(笑)。 それで、うまくいくようにしていくのが自分の仕事なのかなと。 ――原作ものも含めて、いろんな企画の話が持ち込まれると思います。その作品を制作しようと決める時の基準はなんでしょうか。 葛西:一応、年間3タイトル程度はコンスタントに手がけたいと思ってます。 企画を決める時の基準は、やっぱりスタッフィングですかね。この人にお願いしたいという人に引き受けてもらえなかったら、その企画はやれないと思います。 たとえば『ヤマノススメ』だったら、山本裕介監督とキャラクターデザインの松尾祐輔さんが引き受けてくれなかったら、エイトビットで作れなかったと思います。 ――どうして山本監督と松尾さんで行こうと思ったのですか。 葛西:『ヤマノススメ』は、ちょうどいろいろな傾向の作品をやりたいと思っていた時期に、コミック アース・スターさんからアニメ化のお話をいただきました。 その時点で、この絵柄なら松尾祐輔さんがはまるだろうと思っていました。山本監督はその直前に『アクエリオンEVOL』でご一緒していましたし、『ケロロ軍曹』などを見てもテンポ感とドラマのバランスがすごく上手なので、お願いしたいなと。 山本監督のその手腕は、実際『ヤマノススメ』第1期で改めて実感しました、第1期は5分枠だったのですが、原作の1話をそのままやるには短くて。 でも5分枠で前後編というのも視聴者の方にとってはみづらいですよね。 そこを山本監督は、主人公あおいの心理描写に絞ることでシンプルにわかりやすくまとめてくださって。 そういうスタッフィングがはまったから『ヤマノススメ』は、短い尺の中でもちゃんとハートフルな作品になったと思います。 ――『ヤマノススメ』も第3期まで続く息の長いタイトルになりました。 葛西:一般の方でも、『ヤマノススメ』をきっかけに登山するようになったという話を結構聞きます。そいう広がりも含めて、いろいろな人に届くような作り方ができたんだなって。 ちゃんと制作して、そこに評価がちゃんとついてくるというのが理想ではあると思ってるので、結果としてすごく理想的な形になった作品です。 『転生したらスライムだった件』(2018)(C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会――海外にもエイトビット作品のファンの方がいると思いますが、人気を実感することはありますか?葛西:うちの作品だけに限ったことではないですが、海外を訪れた時に、日本のアニメのポスターが貼ってあったり、向こうのアニメショップにいろんなグッズが置いてあったりすると、人気の広がりを実感します。うちの作品だと『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』(2017)や『転生したらスライムだった件』(2018)が特に人気がある感じですね。 『転スラ』は日本だと投稿サイト「小説家になろう」から生まれた作品ということで知られていますけれど、向こうでは、王道ファンタジーというか、『ONE PIECE』とか『FAIRY TAIL』といった作品の仲間として見られているらしいです。 『転スラ』は、特に映像として見てておもしろいと思われている印象なので、そこを大事にしながら、追いつけ、追い越せの気持ちで頑張ります。 ――海外のファンに望むことはありますか?葛西:望むこと、というわけではないんですが……。 日本にいると、自分たちの作品が海外でどういうふうに受け止められているのか、本当に気づけないんですよ。それがわかるといいなぁとは思っています。 だからTwitterなりなんなりで、感想を書いてもらえたりするのはすごくありがたいし、そうやって作品が届いたことがわかると、すごくスタッフの活力になるんですよ。そういう情報はどんどんスタッフに伝えていきたいと思いますね。 長机の中央部には他の社員と隣り合わせで葛西氏の執務スペースがある→次のページ:個人のプラスになることを提供していく組織づくり■個人のプラスになることを提供していく組織づくり――エイトビットは、スタッフの社員化をすすめたり、フリーの人も参加できる勉強会を開いたりしているそうですね。 葛西:そうです。「アニメ業界って、今まで通りやっているだけでは、ちょっと危ないよな」という危機感がありまして。じゃあ、そういう状況の中で日本のアニメ会社にできることってなんだろうって考えると、やっぱり人材育成だと思ったんです。 会社が主催で勉強会を行って、いろいろな技術を身に付けられるようにするとか、個人のプラスになるようなことを提供していかないと、組織としての価値ってどんどんなくなってしまうと思うんです。 アニメ業界は特にフリーの人が多いんですが、フリーの人はどうしても勉強の機会が少なくなりがちで。そこを会社がフォローすることができれば、最終的には産業のプラスになっていくだろうという考えです。 休憩スペースは広い空間でソファがいくつもあり、ゲーム機まで設置してある――人を育てていくのが会社の役目と。 葛西:「技術は見て盗む」みたいなやりかたは、今は難しいと思っています。制作会社に入ったら、センスの差はあっても、まずは安定的な技術を持った人になれる、という体制を作ることが大事だなと。 そうやって技術を持った人が生産性を高めていくことで、ちゃんと休みも取れるような、効率良い作り方を目指していきたいです。今はちょうどその過渡期ですが、日本のアニメに世界中のファンがいるような状態をキープするためには、やり方を変えていかなくちゃいけない時期だと思ってます。 ――アニメ業界に向いている人というのはどんな人でしょうか?葛西:アニメ業界というのは職人的な世界ではあるんですが、頑固な人は意外と難しい気がします。自分の“武器”をちゃんと持っていて、かつ柔軟な人が最終的に結果を残せているので、そういう人が向いていると思いますね。 アニメ制作って集団作業ですから思い通りにならないことも多いんですよ。そういう時に、流されちゃうでもなく、こだわって意固地になるでもなく。「初めは武器をこう使おうと思ってたけど、状況が違うならこういうふうに使おう」って前向きに頭を切り替えられる人が向いているんです。 ――これからのアニメ制作会社はどうなっていくと思いますか?葛西:自分たち制作会社は、映像を作れることが一番の武器だと思います。それが世界に通用しているのもすごいアドバンテージで。だからビジネスのやり方、発信の仕方をうまく工夫できれば、まだ全然勝算はあると思います。 人材がちゃんと育成できて、生産性があがっていけば、そういう目指すところに近づいていけるはずで。柔軟なアプローチで目標に向かっていければ、アニメ業界にも未来はあるんじゃないでしょうか。 ※「小説家になろう」は株式会社ヒナプロジェクトの登録商標です。 ________________________________________◆◆現在、インタビュー記事を読んでくれた「あなたが直接アニメスタジオに応援や感謝のメッセージを送れる」ファン参加型の企画を実施中です!これは、アニメ!アニメ!もパートナーの1社として参画しているコミュニティ通貨「オタクコイン」内の企画で、オタクコイン公式アプリ内でのみ応援が可能となっています。アプリをダウンロードの上、是非応援にご参加ください。 つぶやきを見る " /> spliti 〜 「技術は見て盗め」はもう難しい―エイトビットが実践する、アニメーターが成長し続けられる組織づくり【インタビュー】 | mixiニュース
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「技術は見て盗め」はもう難しい―エイトビットが実践する、アニメーターが成長し続けられる組織づくり【インタビュー】

2019年09月20日 19:12  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

エイトビット 葛西励氏インタビュー
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.19 エイトビット

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


エイトビット代表作:『転生したらスライムだった件』『ヤマノススメ』『IS<インフィニット・ストラトス>』『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』『Rewrite』『ナイツ&マジック』など。
2019年10月には赤根和樹監督のオリジナルアニメ『星合の空』の放送をひかえている。

『IS<インフィニット・ストラトス>』に代表される3DCGを駆使したSFアクション路線から、『ヤマノススメ』のような“日常系”まで。幅広い作品を手がけるエイトビット。設立から11年という、まだ若い制作会社の取り組みを、社長の葛西励氏に聞いた。
[取材・構成=藤津亮太]

今回のインタビューでお邪魔したエイトビットの本社スタジオが入居しているビル

見晴らしの良い上層階からの眺め

スタジオの入り口

隣のビルにもスタジオがあり、こちらは天井も高く開放感あふれる空間

スタッフが黙々と作業を続ける制作現場の風景

進行管理のために毎日貼り替えられる納品までのカウントダウンポスター

スタジオ内の棚には必要な素材が整然と管理されている

窓からの眺めも良く、パーテーションのない机で伸び伸びと仕事ができる印象の社内

10月放送開始予定の「星合の空」の社内掲示板

■“ものづくりの真髄”に踏み込んだ『IS<インフィニット・ストラトス>』
エイトビット社長の葛西励氏

――葛西さんは2008年にアニメ制作会社・サテライトから独立してエイトビットを設立しました。

葛西:アニメ業界に入った時に、10年は続けようと思って入ったんです。そして10年目の節目になった時に、新しいチャレンジをしたくなって独立することを決めました。信頼関係があるスタッフとものづくりをしていくなら、独立したほうが、求められる作品をもっと作れるのかな、ということもありました。

――どうしてエイトビットという社名にしたんでしょうか?

葛西:僕がファミコン世代なんですよ。今のゲームもおもしろいですけれど、昔のゲームって、やっぱり、自分にとってすごくおもしろかったなと思っていて。それで、ファミコンのCPUが8ビットだから、「おもしろさの原点」というか、そういう気持ちを込めてつけた感じです。


――現在設立から11年目ですが、やはり2011年に放送された、初の元請け作品『IS<インフィニット・ストラトス>』がヒットしたのは大きかったのではないでしょうか。

葛西:そうですね。独立して実際に会社経営してみると、社員とか、当然守らなくちゃいけないものがいろいろあるんですよ。だから経営は堅くやるべきだと思っていました。
でも『IS<インフィニット・ストラトス>』をやる時はちょっと違っていて。初元請けだし、自分たちの仕事が今まで評価されてきたポイントからすると、この作品はちょっと踏み込んで作らないと意味がないなと考えたんです。

思えばサテライトで河森正治監督と『創聖のアクエリオン』や『マクロスF』でお仕事をご一緒した時に「ここまでやらなくちゃいけない」っていうこだわりとか、ものづくりの真髄みたいなものに触れさせてもらっていたんですよね。
だから、ここは踏み込むところなんだろう、と思い菊地(康仁)監督とがっちりタッグを組んで頑張りました。

』(C)2011 Izuru Yumizuru, PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION MEDIA FACTORY/Project IS" src="https://animeanime.jp/imgs/zoom/259425.jpg" class="inbody-img">エイトビット初の元請け作品『IS<インフィニット・ストラトス>』(2011年)
(C)2011 Izuru Yumizuru, PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION MEDIA FACTORY/Project IS

――それがヒットにつながったわけですね。

葛西:そうだと思います。ただプロデューサーとしては反省も残りました。

――そうなんですか。

葛西:元請け1本目ということで、作画さんも、演出さんも、3DCGチームもみんなそれぞれの立場で本当に頑張ろうとしてくれていたので、それはとても嬉しかったですし、「ありがとうございます」という感じでした。
ただ自分の中では、作品にとって優先すべきことを、最初の段階で整理して自分から示すことができていたら、もっとその気持ちを叶えてあげられたかもしれないし、もう少しスムーズにできたのかもしれない、と思いました。
今でもなかなかうまくできませんが、良い作品をなるべくスムーズに作りたいです。

■葛西社長から見た河森監督と赤根監督

――河森監督や赤根監督のものづくりの姿勢に影響を受けたというお話がありましたが、葛西さんから見て、お二人はどんな監督なのでしょうか。

葛西:河森さんは、まずアイデアマンで、人を喜ばせるのに貪欲です。だから、いろいろと新しいアイデアを思いつくんです。自分がそのアイデアを実現させるために気を配ったのはスタッフへの伝え方ですね。

せっかく画期的なアイデアでも、作業のタイミングによってはスタッフのモチベーションを下げてしまうかもしれないので、ただ伝えるのではなく、「大変だけど、これをやると、こういういいことがあるはず!どう思われますか?」みたいに一方的にならないように話をして、スタッフが「確かに面白そうだ」「これはやる価値がある」って思って作業してもらえるように努力していました。

――スタッフに動機づけをして、巻き込んでいくわけですね。赤根監督はどんなタイプの監督なのでしょうか。

葛西:赤根監督は、すごくストイックに突き詰めるタイプですね。スケジュールがなくなってきても、諦めずにチャレンジしようとする方です。
でもそれは頑固ということじゃなくて、柔軟性もあると思います。目標を変えるわけではなく、絶対的な目標に到達するためのルートを柔軟に考えていく、という感じです。だから作っている間はとても大変ですが、すごく鋭い作品ができあがるんです。

(C)赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会

葛西:『星合の空』は赤根監督の持ち込み企画で、ソフトテニスが題材です。
日本のソフトテニスは中学生の競技人口がすごく多いんですけど、プロ選手はいなかったスポーツなんです。それがある種の青春の象徴をするような、そんなドラマを描く作品になります。赤根監督の作品は、回を追うごとに、世界に引き込まれていく魅力があるので、そこを楽しみに見てもらえればと思います。
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■企画を決める時の基準はスタッフィング

――オリジナル企画はいろいろ苦労があると思いますが、プロデューサーとして気をつけていることはありますか?

葛西:原作ものはもうそこに「おもしろさ」があるんですが、オリジナルはそれをゼロから作らなくてはならないのが大変です。制作する時に意識しているのは、なるべく腹の探り合いみたいなのはしないで、お互いに本音で話しにいくことを大事にしています。

最初に本音を隠して始めても、後々絶対いいことがないんですよ。本音で話して、納得してやって、それでうまくいかなかったらそれで仕方ないと思うし(笑)。
それで、うまくいくようにしていくのが自分の仕事なのかなと。

――原作ものも含めて、いろんな企画の話が持ち込まれると思います。その作品を制作しようと決める時の基準はなんでしょうか。

葛西:一応、年間3タイトル程度はコンスタントに手がけたいと思ってます。
企画を決める時の基準は、やっぱりスタッフィングですかね。この人にお願いしたいという人に引き受けてもらえなかったら、その企画はやれないと思います。
たとえば『ヤマノススメ』だったら、山本裕介監督とキャラクターデザインの松尾祐輔さんが引き受けてくれなかったら、エイトビットで作れなかったと思います。


――どうして山本監督と松尾さんで行こうと思ったのですか。

葛西:『ヤマノススメ』は、ちょうどいろいろな傾向の作品をやりたいと思っていた時期に、コミック アース・スターさんからアニメ化のお話をいただきました。
その時点で、この絵柄なら松尾祐輔さんがはまるだろうと思っていました。山本監督はその直前に『アクエリオンEVOL』でご一緒していましたし、『ケロロ軍曹』などを見てもテンポ感とドラマのバランスがすごく上手なので、お願いしたいなと。

山本監督のその手腕は、実際『ヤマノススメ』第1期で改めて実感しました、第1期は5分枠だったのですが、原作の1話をそのままやるには短くて。
でも5分枠で前後編というのも視聴者の方にとってはみづらいですよね。

そこを山本監督は、主人公あおいの心理描写に絞ることでシンプルにわかりやすくまとめてくださって。
そういうスタッフィングがはまったから『ヤマノススメ』は、短い尺の中でもちゃんとハートフルな作品になったと思います。

――『ヤマノススメ』も第3期まで続く息の長いタイトルになりました。

葛西:一般の方でも、『ヤマノススメ』をきっかけに登山するようになったという話を結構聞きます。そいう広がりも含めて、いろいろな人に届くような作り方ができたんだなって。
ちゃんと制作して、そこに評価がちゃんとついてくるというのが理想ではあると思ってるので、結果としてすごく理想的な形になった作品です。

『転生したらスライムだった件』(2018)
(C)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会
――海外にもエイトビット作品のファンの方がいると思いますが、人気を実感することはありますか?

葛西:うちの作品だけに限ったことではないですが、海外を訪れた時に、日本のアニメのポスターが貼ってあったり、向こうのアニメショップにいろんなグッズが置いてあったりすると、人気の広がりを実感します。うちの作品だと『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』(2017)や『転生したらスライムだった件』(2018)が特に人気がある感じですね。

『転スラ』は日本だと投稿サイト「小説家になろう」から生まれた作品ということで知られていますけれど、向こうでは、王道ファンタジーというか、『ONE PIECE』とか『FAIRY TAIL』といった作品の仲間として見られているらしいです。
『転スラ』は、特に映像として見てておもしろいと思われている印象なので、そこを大事にしながら、追いつけ、追い越せの気持ちで頑張ります。

――海外のファンに望むことはありますか?

葛西:望むこと、というわけではないんですが……。
日本にいると、自分たちの作品が海外でどういうふうに受け止められているのか、本当に気づけないんですよ。それがわかるといいなぁとは思っています。

だからTwitterなりなんなりで、感想を書いてもらえたりするのはすごくありがたいし、そうやって作品が届いたことがわかると、すごくスタッフの活力になるんですよ。そういう情報はどんどんスタッフに伝えていきたいと思いますね。

長机の中央部には他の社員と隣り合わせで葛西氏の執務スペースがある
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■個人のプラスになることを提供していく組織づくり
――エイトビットは、スタッフの社員化をすすめたり、フリーの人も参加できる勉強会を開いたりしているそうですね。

葛西:そうです。「アニメ業界って、今まで通りやっているだけでは、ちょっと危ないよな」という危機感がありまして。じゃあ、そういう状況の中で日本のアニメ会社にできることってなんだろうって考えると、やっぱり人材育成だと思ったんです。
会社が主催で勉強会を行って、いろいろな技術を身に付けられるようにするとか、個人のプラスになるようなことを提供していかないと、組織としての価値ってどんどんなくなってしまうと思うんです。

アニメ業界は特にフリーの人が多いんですが、フリーの人はどうしても勉強の機会が少なくなりがちで。そこを会社がフォローすることができれば、最終的には産業のプラスになっていくだろうという考えです。

休憩スペースは広い空間でソファがいくつもあり、ゲーム機まで設置してある
――人を育てていくのが会社の役目と。

葛西:「技術は見て盗む」みたいなやりかたは、今は難しいと思っています。制作会社に入ったら、センスの差はあっても、まずは安定的な技術を持った人になれる、という体制を作ることが大事だなと。
そうやって技術を持った人が生産性を高めていくことで、ちゃんと休みも取れるような、効率良い作り方を目指していきたいです。今はちょうどその過渡期ですが、日本のアニメに世界中のファンがいるような状態をキープするためには、やり方を変えていかなくちゃいけない時期だと思ってます。

――アニメ業界に向いている人というのはどんな人でしょうか?

葛西:アニメ業界というのは職人的な世界ではあるんですが、頑固な人は意外と難しい気がします。自分の“武器”をちゃんと持っていて、かつ柔軟な人が最終的に結果を残せているので、そういう人が向いていると思いますね。

アニメ制作って集団作業ですから思い通りにならないことも多いんですよ。そういう時に、流されちゃうでもなく、こだわって意固地になるでもなく。「初めは武器をこう使おうと思ってたけど、状況が違うならこういうふうに使おう」って前向きに頭を切り替えられる人が向いているんです。


――これからのアニメ制作会社はどうなっていくと思いますか?

葛西:自分たち制作会社は、映像を作れることが一番の武器だと思います。それが世界に通用しているのもすごいアドバンテージで。だからビジネスのやり方、発信の仕方をうまく工夫できれば、まだ全然勝算はあると思います。
人材がちゃんと育成できて、生産性があがっていけば、そういう目指すところに近づいていけるはずで。柔軟なアプローチで目標に向かっていければ、アニメ業界にも未来はあるんじゃないでしょうか。

※「小説家になろう」は株式会社ヒナプロジェクトの登録商標です。

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