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ドラマ『凪のお暇』最終回。黒木華×高橋一生×中村倫也の恋&お暇の行方は

2019年09月20日 18:30  CINRA.NET

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『凪のお暇』ビジュアル
■空気を読みすぎて倒れた凪の変化と母親への宣言

連続ドラマ『凪のお暇』がいよいよ最終回を迎える。

コナリミサトによる同名漫画を映像化し、7月から放送されている本作。物語は、場の空気を読みすぎて無理した結果、職場で過呼吸によって倒れた28歳のOL・凪(黒木華)が、仕事を辞めて住んでいたマンションを解約し、全ての人間関係を絶って人生の再生を図ろうとするところから始まる。凪は引越し先のアパートの人々や元恋人・慎二(高橋一生)らと関わりながら、他人の顔色をうかがって生きてきた自分を変えようともがく。

物語の始め、モラハラ男である慎二に「お前は絶対変われない」と言い放たれた凪は、これまでの全9話のなかで確実に変化し、前を向いている。それは三歩進んで二歩戻るような歩みかもしれないが、少なくとも呼吸の仕方を忘れてしまったOL時代の凪とは違う。先日放送された第9話では長年抑圧されてきた母親に対し、「お母さんのためには生きられない。期待に応えない自分の方が生きてて楽しいんだ」と宣言した。

■実は凪と似た者同士だった慎二、「前の俺」ではなくなったゴン。それぞれのキャラクターが見せる別の顔

物語が進むにつれて凪の変化と共に見えてきたのは、凪を取り巻く個性豊かな面々の色々な顔だ。場の空気に合わせて振る舞うことに長けている人、空気を読みすぎる人、読めない人、不器用な人、器用な人。表に見えている顔と内面が実は真逆だったり、真逆に変わったりしていることがわかる。

その筆頭が慎二だ。凪にとって慎二は要領がよく器用で「空気を読ませる」人物だが、実は凪のことを想い過ぎるあまり感情がコントロールできず、彼女のもとを訪れては悪態をつき、号泣しながら帰り道を歩いていた。また「空気って作るものでしょ。読む側に回ったら負け」と豪語してた慎二だが、実家では必死に空気を読み、崩壊している家族の体裁を保とうと溺れかけていた。

一方、凪の新しいお隣さんであるゴン(中村倫也)は空気を読むということとは無縁の自由人だ。女性に求められるがままに付き合い、いつしか「メンヘラ製造機」と呼ばれていたゴンは、凪との出会いをきっかけに嫉妬という感情を知り、「恋」という初めての感情から「前の俺と今の俺、全然違うやつみたい」と凪に告げる。

「空気」の圧力に抗えない凪と似たもの同士だった慎二は、第9話で凪に「もうやめよう、空気読むの」と言葉をかけられ、1人ではなく凪と2人で涙を流すことができた。凪への溢れる想いに突き動かされるゴンはその気持ちを告白する。また慎二やゴンだけでなく、凪の良き友人となった坂本(市川実日子)はお守りのように大事にしていたブレスレットを手首から外して緑(三田佳子)に渡し、実家から「トンズラ」してきた緑は病気の妹に会いに行くなど、最終回を前に各キャラクターがそれぞれの新たな局面を迎えた。

■凪と慎二、ゴンの三角関係はどうなる? しばしの「お暇」の出口はどこに?

解決していない問題もある。まず第一に凪と慎二、ゴンの三角関係の行方。凪はどちらを選ぶのか、もしくは選ばないのか。

凪にとってはどちらも一度は関係を終わらせた相手である。素直になったからといって慎二のモラハラ的な姿勢が直っているとも限らないし、関係を持ってきた女性たちから大量の合鍵を回収してきて「褒めて」と言わんばかりに凪に見せるゴンもまた然りだ。過去に凪の自己肯定感を徹底的に奪いとった慎二の行ないが、家庭環境や自身の心の弱さを理由に「仕方ない」と受け入れられて良いものなのかという疑問も残る。凪の選択だけでなく、変化を受け入れた男たちの行く末にも注目したい。

また母親に対して長年言えなかった本音を言えた凪は、この先彼女とどう付き合っていくのだろうか。母親が過度に凪に期待をかけるようになった要因として、田舎での閉鎖的な人付き合いやそこから生まれる抑圧が描かれていたが、母親自身は今後その「空気」とどのように対峙し、凪とどう距離をとっていくのか。

そしてなによりも気になるのが物語の主題である凪の「お暇」の行方だ。最終回の予告編を見れば、第1話で凪が「しばしお暇いただきます」と言っていたその時間は終わりを迎えるようだ。仕事を辞め、恋人や会社の人間関係を断ち切ることが「お暇」であったならば、その時間が終わるということは都会での会社勤めに復帰し、恋人を作る、ということなのだろうか。空気を読むことをやめた凪ならば、仮に以前のような職場に復帰したとしても、なにかとマウントをとってくる同僚たちと適当な付き合いができるだろう。

■気づけば人の首を絞めている「空気」の正体。人と人との向き合い方を問う

凪は――凪だけでなく、凪の母、慎二、慎二の母も――「空気」に翻弄され、身動きがとれなくなった。そもそも人々の首をじりじりと絞め、息ができなくさせる「空気」というものの正体はなんなのだろう? 目に見えないそれは意識した途端に質量を持ち始め、自分よりそれを優先し始めた途端に首を絞め始める。

「空気」は人と人の関係、物理的なコンタクトだけでなくメールやSNSなどあらゆるコミュニケーションのなかで生まれる。慎二を演じる高橋一生は番組ウェブサイトのインタビューで「多くの人の悩みや苦しみは、“人がいる” ということで発生しているものだと僕は思っています。この作品に出てくる、凪や慎二、ゴンをはじめとする登場人物たちは、人と向き合っていかざるを得なくなった人たち」と話している。凪と慎二がそうであるように、「空気」を読むということは円滑なコミュニケーションを進めているようでいて、人やその場の状況と正面から向き合っていないということなのかもしれない。

かつて「空気」に飲み込まれてしまった凪は、「お暇」中の様々な出会いや出来事によって自分とも家族や他人とも向き合うことになり、息ができるようになった。現代に生きていて「空気」を意識せずに生活することは難しい。だが「空気」がそこにあるとして自分はどう振る舞うか、ということを本作は問いかける。

高橋一生はこうもコメントしている。「全体を通して恋愛の描写も多くあるのですが、それだけに重きを置いているわけではなく、人と人との関わりが根底にある物語だと思います。必ず共感してもらえるキャラクターがいると思いますので、それぞれに感情移入して見ていただくのもいいですし、『人間ってみんな大差なく滑稽なんだよな』と見ていただくのもいいかと思います」。

「空気」という目に見えないものを読もうとして翻弄される人間は、確かに滑稽かもしれない。凪の「お暇」の出口にはどんな景色があるのか? 「大差なく滑稽」な人間たちはどんな結末を迎えるのか? ドラマ『凪のお暇』の最終回は9月20日に放送される。