2019年09月19日 09:51 弁護士ドットコム
タクシーの乗客が窓から身を乗り出して、並走する車を何度も棒で叩く――。そんな衝撃的な動画が、ツイッターに投稿されて、話題になっている。
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投稿などによると、投稿された動画は、大阪市内で9月14日に撮影されたものだ。タクシーの乗客が、窓から身を乗り出して、杖のような棒で、並走する車の助手席前方あたりを叩く様子が映っている。
報道によると、叩かれた車を運転していた男性は、警察に被害届を提出した。車の左のウインカーの照明が割れて、車体にも傷ができたという。男性は警察に対して「合流時にトラブルになった」と話しているそうだ。
今回のような行為は非常に危険だろう。どのような罪に問われるのだろうか。伊藤諭弁護士に聞いた。
「動画だけでは判断しにくいのですが、タクシーの乗客とタクシーの運転者の間に、『共謀』がまったくないことを前提に解説します。
乗客が、杖で、動画撮影者が運転する車両を叩いて損壊する行為は、『器物損壊罪』にあたります。
また、あえて言うならば、高速道路運転中の車両を叩くという行為が、事故を引き起こしかねないという評価もありえるでしょう。その行為を運転者という人体に対する『有形力の行使』と捉えれば、暴行罪にあたるという余地がないわけではありません。
ほかにも、道路交通法76条4項7号の禁止行為、『進行中の車両等からみだりに身体を出し、又は物を突き出すこと』(大阪府道路交通規則第14条5号)にあたります」
「次に、タクシーの運転者の問題を検討します。タクシーは、乗客が、動画撮影者の車両を叩いて損壊したあと、そのまま立ち去っています。
道交法によると、交通事故があった際、運転者には『直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置』という義務があります(道交法72条1項)。
そして、交通事故は『道路における車両等の交通による人の死傷又は物の損壊』と定義されています(道交法67条2項)。
今回の事件が『交通による』と評価するのは、むずかしいと考えます。したがって、タクシーの運転手が『直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置』をとらなかったとしても、道交法違反にはなりません」
【取材協力弁護士】
伊藤 諭(いとう・さとし)弁護士
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属(川崎支部)。中小企業に関する法律相談、交通事故、倒産事件、離婚・相続等の家事事件、高齢者の財産管理(成年後見など)、刑事事件などを手がける。趣味はマラソン。
事務所名:弁護士法人ASK市役所通り法律事務所
事務所URL:https://www.s-dori-law.com/