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生徒の「胸の大きさ」を話題にし、セクハラは見ぬ振り…教育実習生が見た「職員室の闇」

2019年09月15日 09:51  弁護士ドットコム

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教育実習の現場で、実習中の学生たちが、教員や指導教員による「教育実習セクシャルハラスメント(以下、実習セクハラ)」にさらされる実態を記事の前編で紹介した。立場の弱い者に対して起こしている卑劣な行為は、どうしたらなくすことができるのか。(ルポライター・樋田 敦子)


【関連記事:【実習セクハラ前編】校長が女子大生に「性経験はあるよね?」 教育実習中のセクハラ、教職を断念する学生も】



川村学園女子大学教授の内海﨑貴子さんによれば、実習セクハラは、大きくわけて次のように分類できる。



・身体接触型:「飲み会で手を握られた」
・からかい型・「職員室で卑猥な話題が出ていた」
・プライバシー侵害型:「携帯のカメラで何枚も写真を撮られた」
・ジェンダー型(性差別):「女だから大した職に就かなくても大丈夫」
・その他:「2人きりで授業の指導を受けた」



日本教育学会による調査(2015年度調査)によれば、2015年に教育実習を修了した学生594人(女性501人、男性93人)を対象にしたアンケートで、3.5%にあたる21人がセクハラ被害を受けたと回答し、5.89%がセクハラを見聞きしたと答えた。



これまでに報告されている実習セクハラの事例としては、次のようなものがある。



・「居酒屋で酔わせ、ホテルや車内でわいせつ行為」
・「校内で体を複数回触る」
・「懇親会後、公園のトイレに押し込み、キス」
・「打ち上げの席で、チークダンスを強要される」



加害者は管理職や指導教員で70%を占めているという。



「教育実習は主に実習生の母校で行われています。実習の協力をお願いする手前、弱みがあるため、学生はセクハラなどハラスメントに遭っても『このくらいは当たり前。我慢しなければならない』と受け入れてしまうのです。実際に、『これくらい我慢できなくてどうするのか』と言われた学生もいました。実習セクハラには、こういった構造的な問題があります。



実習生にとって母校での実習は安心感があるにもかかわらず、そこでセクハラ被害に遭ってしまった。その心痛はかなりのものです。母校であるがゆえに被害を公にできずに、ことを荒立てたくないと黙ってしまうのです」(内海﨑さん)



●「職員室で女子生徒の胸の大きさを話題にしていた」

どうしたら実習セクハラの防止ができるのか。



内海﨑教授らが調査を始めたのは、1990年後半から。93年、京都大学での「矢野事件」と呼ばれるキャンパス・セクハラを契機に、幼稚園や小中高でも職員を対象にしたセクハラがあるのではないかと注目が集まった。



そこで、平均して3週間程度実習をする大学生を通して、学校を舞台にしたセクハラの実態を調査しようと考えたのだったがーー。



「はじめは、実習を修了した学生に聞き取りをしたところ、自身が経験したセクハラに加え、生徒など学校内で見聞したセクハラを語り始めました。職員室では、『女子生徒の胸の大きさを話題にしていた』『授業中、特定の女子生徒の体を何度も触っていた』など、毎年どんどんセクハラの実例が出てきました」(同)



●男子学生もセクハラ、パワハラ被害「男らしくない」

実習セクハラ被害に遭うのは、女子学生だけではない。男子学生も「男らしくない」という理由で長髪や服装にダメ出しされるなどして、教員になるのをやめた学生もいたそうだ。



「実習セクハラの背景には、自分の言動がセクハラに当たるという加害者意識の低さ、ジェンダー平等意識の低さなどがあります。



セクハラ防止のためには学校とともに社会全体のセクハラに対する意識を高める必要があります。神奈川県、千葉県、埼玉県などの教育委員会では、スクール・セクハラ防止、不祥事ゼロを呼び掛けていますが、特に教員など学校関係者全員に対する研修が重要なのです。



大学でも学生に対して、ジェンダー平等教育を徹底し、実習前にセクハラ対策の指導を行うところが増えています。さらに今後は大学が連携して実習セクハラの実態分析や教育委員会への働きかけ、第三者機関によるセクハラ相談の窓口設置などをしなければならないと考えています。



大学と実習校は、実習を受け入れてもらっているという意識から、実習校と対等な関係を保つのは困難ですが、学生のためにも責任を持って対処しなければならないでしょう」(同)



●実習生は改正均等法の枠外?

今年5月には、「女性活躍・ハラスメント規制法」(改正均等法)が可決、成立した。パワハラ、セクハラ、マタハラ(妊娠出産をめぐるハラスメント)に対し、「禁止」と明記。国、事業主、労働者に対し注意を払う義務を課しているが、罰則を伴う禁止規定はない。



セクハラの防止措置を講じるのは、雇用関係がある労働者が対象で、就活生へのハラスメントに対しては、指針で対策を検討する、という。しかし現在のところ、実習生に対するハラスメントには、何ら明確な指針はない。



「実習生は指導教員から指導され、評価を受けるという意味において、劣位な立場に置かれます。実習セクハラは、実習生と学校管理職や指導教員という権力を背景にした性的強制の問題です。その点では、一般的なセクハラと同じだと思います。ぜひ実習生も対象にしてほしい」(同)



ここ近年、教員志望者が減っている。教員の働き方やブラック部活問題が知られるようになり、学校がブラック企業であることを学生が知ったことも背景にあるだろう。教員を志し、せっかく教育自習までたどり着いた学生に対して、強い立場に立つ者がハラスメントすることを決して許してはならない。