2019年09月14日 10:31 リアルサウンド
『日日是好日』『セトウツミ』『さよなら渓谷』などの大森立嗣監督のオリジナル脚本による最新作『タロウのバカ』が公開中だ。
戸籍すらなく、一度も学校に通ったことがない主人公の少年タロウ(YOSHI)と高校生の仲間であるエージ(菅田将暉)、スギオ(仲野太賀)。奔放な日々に自由を感じていた3人が、一丁の拳銃を手に入れたことをきっかけに、それまで目を背けていた過酷な現実に向き合うこととなる。
本作で主演に抜擢され、劇的な役者デビューとなったYOSHIは、13歳にしてルイ・ヴィトンのディレクター・ヴァージル・アブローに独自のファッションセンスを賞賛され、ファッション業界で一躍有名に。その後も有名ブランドのモデルやショーへ出演し、活躍の幅を広げてきた。今回、YOSHIと大森監督にインタビューを行い、YOSHIを主演に抜擢した理由や、菅田将暉と仲野太賀との関係性について話を聞いた。
【写真】YOSHIと菅田将暉と仲野太賀
■YOSHI「たっちゃんにはすごく興味が湧きました」
ーーYOSHIさんは本作で役者デビューとなりますが、大森監督と初めて会った時の印象は?
YOSHI:1回目のオーディションの時に会ったんですけど、僕、誰が監督か分からなくて「どこに監督っているんですか」って聞いたら「俺だよ」と。「あぁ、お前かーい」って言って(笑)。会った時に、「話したいな」というのはすごく感じました。僕、感覚的に話したいか、話したくないかどちらかなんです。たっちゃんにはすごく興味が湧きましたね。
ーー監督と話していて、惹かれる部分はどこですか。
YOSHI:“もっとこうしてほしい”、“こうなってほしい”というお互いのビジョンが合致すると、「あぁ、わかってんな」となります。
大森立嗣(以下、大森):そんな難しい話したっけ?
YOSHI:いや、してない。あなた、あんまり難しい話しないもんね。でも、それがいいんです。50、60歳にもなってさ、枕投げ本気でしてたらかっこよくない?
大森:ハハハ(笑)。
YOSHI:世の中の人たちはそういうエネルギーを忘れちゃいけないんですよ。
ーー監督がYOSHIさんのことをどういう風に探されてたんですか?
大森:Googleで「14歳 有名人」で検索して、下の方に「WWD」(ファッション業界誌のウェブ版)のYOSHIの写真があって。この子いい顔してるなと思って、プロデューサーに相談して繋いでもらって、会わせてもらいました。
YOSHI:最初は俺のお母さんに台本が行って、「こんな過激なのどうなんだ」となったらしいですけど、そのあと俺に渡ってきて。いい機会だと思って会いに行きましたね。
大森:事務所に『光』で使っていたフリーダ・カーロの絵画が飾ってあるんですけど、YOSHIが扉開けて見た瞬間、「やっベー、これカッケー!」って言ったんですよ。そこで、こいつカッケーなと思って。
YOSHI:たっちゃんと俺はお互いのリスペクトがちゃんと取れてるのがいいんですよ。あれ、いつくれんの? あの絵は絶対貰う。
ーー演技未経験で探していたとか、何か最初の条件はあったんですか?
大森:15、14歳くらいを探していましたね。経験と言っても、そんなバリバリな子役も嫌だったから。でもそうすると、あんまりいませんよね。だから、自然と未経験を探すことになっていったと思うし、そういう中で、偶然というか必然というか、YOSHIを見つけました。
YOSHI:出会いがすごく運命的だったんです。
ーー台本が渡って家族に反対された時はどう答えたんですか。
YOSHI:結局家族とか、正直関係ないです。その時は自分がマネーシャーでもあり、自分が第一者でもあったので、セルフプロデュースだったんですよ。その時はずっと、ファッション系の企画書を作って会社にプレゼンをしに行っていました。
ーーなかなか16歳でできることじゃないですよね。
YOSHI:本当ですか? ありがとうございます。13歳でファッション業界に入った時から、本当の自分と第三者の目で見た自分のことを分かってはいたのかなと思っていて。けど、それを自分の言葉で具現化できたのは映画の撮影が終わってからなんです。だから、表の自分はバカ、第三者の目で見た自分はすごく真面目というのが僕のスタイルだと思っています。
■大森「踊るように芝居をする」
ーータロウを演じて、共鳴した部分はありますか?
YOSHI:そもそも、僕自体がすごくアグレッシブな人間で、普段から「ウオー!」、「よっしゃー今日も行くぞ!」みたいな感じなんで。誰にでも内面の気持ちはあると思うんですけど、タロウが世の中に対して「こうなった方がいい」と思う内側の怒りからの勢いは、すごく似てるなって思いました。
ーーYOSHIさんが演じてこそタロウが輝いたなと思った瞬間はありましたか。
大森:YOSHIが演じることになったからと言って内容を変えているわけではないし、「セリフは全部覚えてくれ、あとは好きにしていいよ」と伝えたんです。菅田とか太賀と向き合った時に自分がどういう風に感じるかは、お前に任せるからと。びっくりしたのは、リズム感ですね。
YOSHI:何のリズム感?
大森:例えばピストルを渡した後に「えー!」って叫びながら一回転するんですよ。誰も求めてないのに。アドリブというか、よく分からないんだけど、踊るように芝居をするんです。あそこまで自由にやれるというのは、やっぱり良かったですよ。
ーー菅田さんと太賀さんとの共演はいかがでしたか。
YOSHI:相当良かったですよ。あと、超スムーズに撮影も進みました。
大森:そうそう(笑)。すごい早いよなぁ。終わったらすぐゲーセン行くからな。
YOSHI:ゲーセン行って、銭湯行って、焼肉食って、KALDI行って2万円分くらいスナックを買って、俺コーラで「カンパーイ!」みたいな(笑)。「ヨッシャ行くぞー!」「朝まで飲むぞー!」って言って、夜の21時に寝てますからね(笑)。
ーーYOSHIさんから見てお二人はどんな存在ですか。
YOSHI:本当に良いお兄ちゃんであり、同級生の親友みたいな感じもありました。単純に親しい仲として、すごい良い人たちだなと思うし、これからも仲良くしていきたいです。
ーー演技の面で、学んだことやアドバイスを受けたりすることはありましたか?
YOSHI:アドバイスとかはないですね。それも監督と一緒で、「ありのままで、型にはまらず、自由にやれば」って。僕、それはできるんです。自分はこの勢いがなくなったら全てが終わりだなと思っていて、タロウともリンクするところなんですが、この素直でポジティブなところがYOSHIなんです。
すごい難しいことなんですけど、今、ネガティブで回っている世の中を、僕は逆にして、ポジティブで回したいなと思っていて。けれど、ポジティブに近づくほど、世の中の闇に触れて、人が死んでいっちゃうんだと思うんです。例えばビートルズのジョン・レノンとか……。それは、この映画参加して改めて強く思いました。
ーー監督から見て、菅田さん、太賀さんが新人のYOSHIさんから良い刺激を受けてるなと思った場面とかはありましたか?
大森:菅田も太賀も先輩だし、今、若手の中では相当力のある2人だけども、一本の映画の中では、フレーム入った瞬間、YOSHIとも対等になるしかないので、それは、彼らの中でもちゃんとしてたんじゃないかなと思う。先輩風を吹かせる訳でもなくてね。
YOSHI:先輩風は一番嫌いだからね。「死ね!」って思いますもん。
大森:(笑)。映画のスタッフなんて特にそういうことやりがちだから、そういうこと一切やらないように、むしろYOSHIに問われているのは俺たちだと思っていました。今みたいに「死ね」って思われないようにやらなくちゃいけないですからね(笑)。
映画は古い業界だから、封建的な部分は残ってたりするんだけど、今回はそういうのは全部なしにして、スタッフはすごい楽しんでましたよ。菅田は、役と同じで、エージがタロウと仲が良いというか、タロウに憧れるんだけど、タロウに指示を出すという係だったので、そういう関係性はプライベートでもやっている感じはしましたね。
YOSHI:相当良いお兄ちゃんでした。(菅田と)古着屋さん行って、家行って、ギター弾いて、踏み場もない家で(笑)。
大森:そこらへんがうまく噛み合ってたんだと思います。
■YOSHI「海外と日本の距離感をもっと縮めたい」
ーーこの作品は、監督のオリジナル作で、20代の頃から構想があったと聞きましたが、2019年の今公開された意義についてはどう考えますか?
大森:皆さんに言われるんですが、たまたま撮れる環境になったから企画が進んでいったんですよね。普通だったら、20年前に書いた本であるし、もういいかなと思うけれど、そうならずに、ずっと撮りたいと思える脚本だったんだなと。この映画の内容が、今の時代にすごくフィットしてると言ってくれる方が多く嬉しいんですけど、あまりそこを強く意図した訳ではなかったんです。ただ、俳優たちの顔って、20年前と違うので、俳優たちの顔とか肉体を素直に撮っていくと、現代にフィットしていく感覚は自然と出てくるんじゃないかと思います。基本的に、彼らがどう思うのかを一番大切にして映画を撮っているので、(YOSHIを見て)こういう少年が20年前になかなかいなかったんじゃないかと。
ーーそうですね(笑)。
大森:うん(笑)。
YOSHI:相当新人類だと思う、俺って。
ーーYOSHIさんは、監督がずっと温めていたこの作品を、自分がやることになったことについて、どんなお気持ちですか。
YOSHI:別にそれと言ってないんですが、僕、監督と一緒で感覚的なんですよね。キャリアとか関係ないし、たっちゃんがどんなにすごい監督で、菅田将暉も太賀もいくら有名であっても、そんなことは自分にとってはどうでもいい話なんです。それは第三者が決めることだと思うし、結局、人と人で何をしてどう過ごして、今回のようにどんなものを作っていくかが大事だと思っています。
ーーこれからのご自身のキャリアについてはどう考えていますか?
YOSHI:僕は海外と日本の距離感をもっと縮めたいですね。ジャスティン・ビーバーとか、マイケル・ジャクソンとか、カート・コバーンとか、それくらいのレベルにいった日本人っていないから、それに僕が初めてなって、後の世代に繋げられたらいいんじゃないのかなって思っています。
ーー最後に読者に向けて、この映画を通して伝えたいことを教えてください。
YOSHI:今の人間の世の中は、完全に欲が失われちゃったと思うんです。当たり前が当たり前の世界になっていて、全てが型にはまってるというか。そういうのはつまらないんですが、この映画って全て「欲」なんです。欲が爆発して、タロウが突き進んで、エージがいて、スギオがいて。そういうのを、今の日本の人たちにフラッシュバックさせられたらいいなと思います。
(大和田茉椰)