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『かぐや様は告らせたい』初登場1位 平野紫耀&橋本環奈が実証したヒットの方程式

2019年09月12日 16:32  リアルサウンド

リアルサウンド

『かぐや様は告らせたい ~天才たちの恋愛頭脳戦~』(c)2019 映画「かぐや様は告らせたい」製作委員会 (c)赤坂アカ/集英社

 先週末の動員ランキングは、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』が土日2日間で動員25万5000人、興収3億1500万円をあげて初登場1位に。初日から3日間の累計でも動員36万人、興収4億6000万円と、近年のティーンムービーでは一歩抜きん出る好成績を収めた。今年に入ってから『翔んで埼玉』のサプライズヒットはあったものの、10代の観客から支持されている若手俳優が集まった作品という意味での純然たる「ティーンムービー」が動員ランキングで首位になったのは、1年以上前の『銀魂2 掟は破るためにこそある』以来。同作でもヒロインを務めていた橋本環奈は、今やその世代を代表するコメディエンヌと言っていい。


参考:橋本環奈×浅川梨奈×堀田真由『かぐや様は告らせたい』鼎談 絶賛からダメ出しまでぶっちゃけトーク


 もちろん、2018年3月公開の『honey』、同年11月公開の『ういらぶ。』、そして今作と、作品を重ねるごとに公開の規模が着実に大きくなっていて、その期待に応え続けている主演の平野紫耀(King & Prince)のスター俳優としての成長もヒットの大きな要因だろう。ちなみに、これまでの平野紫耀主演作はすべてコミック原作にして、いわゆるラブコメ作品。今回の『かぐや様は告らせたい』の原作は少年誌に連載中で(現在は週刊ヤングジャンプで連載中)、必ずしも女性向けの作品というわけではなく、彼が演じている主人公も理想化された王子様的キャラクターとは一味違う役なのだが、観客の中心層が10代の女性であることは変わらない。


 約2年前まで、より正確に言うと2017年上半期まで、日本映画界はティーンムービー・ブームと言っていい状況だった。それは、各作品がたくさんの観客を集めていたという意味での「ブーム」ではなく、すべてのメジャー系映画会社がこぞって収益率の高い(製作費が安い)ティーンムービーを乱造していたという、製作数における「ブーム」だった。世代的に観客の母数が限られていたティーンムービーは、ある時期までは原作の選択とキャスティングを間違えず、競合作品の少ないタイミングで公開すれば安定した成績を収めることができたが(つまり、はっきり言って監督や脚本は誰でもよかった)、作品数が増えるにつれて観客が分散して、多くの作品が興行的に苦戦するようになった。


 そんな中でも比較的安定した動員を続けていたのは、シリアスな恋愛ドラマではなく、コメディ要素の強い作品だった。それまでティーンムービーを支えてきたヒロイン役の女優たちが、年齢的に、あるいはキャリア設計的に、路線変更を余儀なくされる中で、『銀魂』シリーズをはじめとする福田雄一監督のコミカルな作品で頭角を現した当時まだ10代だった橋本環奈は、そんな「ティーンムービー冬の時代」のサバイバーと言えるだろう。また、地上波のバラエティ番組などで女優然とすることなく天真爛漫に振るまう彼女は、「共演相手の同性のファンから嫌われない」というティーンムービーのヒロインを演じる上で非常に(もしかしたら最も)重要な特質も備えていた。


 そんな橋本環奈がヒロイン、コメディ要素を前面に出した作風、ティーンムービー・ブーム終焉による競合作品の少なさ、そして現在最も吸引力のあるスターの一人である平野紫耀の主演作。こうして条件を並べてみると、今回の『かぐや様は告らせたい』のヒットが必然であったことがわかる。もっとも、今後も長く役者を続けていくのなら、平野紫耀にとっても橋本環奈にとっても、ティーンムービーを「卒業」するタイミングは重要になってくるだろう。 (文=宇野維正)