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ラストアイドル「青春トレイン」でブレイク 坂道シリーズ経た秋元康による“列車”モチーフ新名曲に

2019年09月11日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

ラストアイドル

 ラストアイドルの7枚目のシングル『青春トレイン』が9月11日に発売される。それに伴いMVも公開され、バブリーダンスの仕掛け人・akaneが振付した史上最高難度のダンスパフォーマンスにも注目が集まっている。


(関連:ラストアイドル、「青春トレイン」神宮外苑花火大会で初披露 グループ史上最高難度ダンスで魅せる


 ラストアイドルは、AKB48グループや坂道シリーズなどを手掛けてきた秋元康が総合プロデュースを手がける女性アイドルグループ。2019年4月にリリースした6thシングル『大人サバイバー』はオリコン週間シングルランキングやオリコン週間合算シングルランキングのみならず、Billboard JAPAN HOT 100でも1位を達成。今最も勢いのあるアイドルグループのひとつだ。


 今作「青春トレイン」は、広大な大地をバックにメンバーらが力強いダンスを披露しながら突き進んでいく映像とともに、迫力あるブラスセクションや掛け声、タムの連打など、パワフルなサウンドが全編に渡って繰り広げられている。まさに今の彼女たちの勢いを感じ取れるような一曲だ。また、サウンドにおいて重要な役割を担っているのがバンジョーの存在だろう。


 流行りのEDMサウンドや、ロック調で激しさを表すのではなく、バンジョーの朗らかな響きによってカントリー風味のサウンドに仕上げたことで、重さが薄れ、ポップなバランスを保っている。歌詞は、〈発車ベル〉や〈トンネル〉、〈レール〉といった言葉を使って人生や夢、希望といったテーマを歌う。こうした”列車”をモチーフとした歌詞は、秋元康が得意とするところでもある。


 かつて、同じく彼がプロデュースするHKT48に「大人列車」という名曲があった。そこで”列車”は、遠い世界へと連れて行く=大人になる=成長の象徴として描かれている。”列車”には〈君〉だけが乗り、駅のホームに取り残された主人公は〈君〉と離ればなれになってしまう。


〈大人列車 君は一人乗り込み 知らぬ世界へ〉


 と歌われるサビは、全体のサウンド感としてはポップな印象があるものの、下降していくメロディがどこか切なく、胸を打つものがある。”列車”に乗れなかった自分を悔やむニュアンスがあり、できれば〈君〉と一緒に乗っていきたかったという意味合いで歌われるのが特徴だ。また、同じような題材の作品として乃木坂46の「サヨナラの意味」がある。


〈電車が近づく 気配が好きなんだ〉


 という歌い出しには、これから〈君〉が遠くへ行ってしまうことをどこか優しく受け入れるような雰囲気がある。曲には、切なく感傷的だが変化を受け入れる冷静さがあり、別れを単なる別れとしてではなく、そこに何か意味を見出そうというポジティブな姿勢が描かれる。


 いずれも”列車”に乗ってどこかへ行ってしまう〈君〉を思う曲で、ファンの思い入れも強い。こうしたモチーフを持った作品は秋元康の数ある楽曲の中でも長く愛される名曲として親しまれているように思う。


 一方、「青春トレイン」で”列車”は、楽に生きて行く手段の象徴として歌われる。敷かれたレールに沿って進む”列車”に乗るという行為は、主人公にとって希望や自分を捨て、ただ〈歳を取って行く〉ことと同義なのだ。


〈さあ トレイン トレイン そろそろ楽して大人になるか?〉


 こう問いかける相手は”列車”に乗らずに自分の道を信じて進んでいくことを選んでいる。前に挙げた2曲と違い、”列車”はどちらかと言えば乗りたくないもの、乗らずに生きていきたいものとして歌われる。”列車”に乗っているのは〈大人〉たちで、乗っていない者たちをそそのかす存在として登場するのも面白い。


〈見えない列車の発車ベルが鳴り 未来を急かす〉


 とあるように”列車”は急かす存在でもある。近づく気配さえ好意的だった「サヨナラの意味」などとはかなり距離のある描き方だ。


 このように、同じモチーフでもテーマは全く異なり、そこに「周りに惑わされずに自分の信じた道を進め」といったメッセージが組み合わせることで、前へ進む力強さを持った楽曲に仕上げている。


 時代を経るに従って、AKB48グループから坂道シリーズへと人気が移り変わったアイドルシーン。その中で衰えることなくヒットを連発し続けてきた秋元康の書く詞からも、時代ごとの変遷が読み取れる。(荻原 梓)