2019年09月11日 11:11 弁護士ドットコム
「2年前から不倫関係にある女性が妊娠しました。子どもの父親は私のようです」。独身の男性から、このような相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
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相談者によると、不倫相手は同じ会社で働く子持ちの既婚女性(40代)。女性は「夫には性欲処理の対象としてしか見られていない。関係は良好ではない」と話しているようです。
「(この女性と)結婚し、子どもたちと生活を送りたい」。そう願っている相談者は、女性とともに、女性の夫にこれまでの不倫関係を打ち明けました。
しかし、夫は「妻とは絶対に離婚しない」の一点張り。また、相談者に1000万円の慰謝料を請求してきたそうです。相談者にこれだけの慰謝料を支払う義務はあるのでしょうか。吉田雄大弁護士に聞きました。
ーー不貞行為の慰謝料はどのように決まるのでしょうか
「算定要素はさまざまですが、裁判例をみると、夫婦の婚姻期間や円満度合い、不貞行為の期間、発覚後も含めた態様の悪質さ、結果の重大性などが総合考慮されています。
不貞行為は、いわゆる共同不法行為(民法719条)として、相談者と不倫相手の法的責任の程度は同じであることが法律の建前となっています。
しかし、具体的な慰謝料額が問題になる場面では、必ずしもそうとは限りません。多くの裁判例が、各々の関与の程度を認定した上で金額をはじき出しています。
一次的に責任を負うべき者は『不貞行為をした配偶者(今回のケースの場合は、不倫相手の女性)』で、相談者の責任は二次的に過ぎない、という点を慰謝料額の算定要素として挙げる裁判例も珍しくありません」
ーー今回のケースでは、不倫相手の女性は妊娠しています。このような場合、慰謝料に影響はあるのでしょうか
「たしかに、このまま女性が出産すれば、女性の夫からみて(『生物学的』な意味において)『実子』ではない子が相続権を持つことになります。ここまで考慮にいれるとすれば、経済的な意味においても被害は甚大だともいえそうです。
他方、慰謝料はあくまで精神的苦痛に対する賠償です。不貞慰謝料で1000万円が認容される事例は、ごく例外的な場合に限られます。
今回のケースでは、不倫相手の女性が出産するかどうか、支払を拒絶することによって裁判になるかどうか、など裁判まで至った場合のさまざまな影響等を慎重に検討しながら、交渉を進めていくことになりそうです」
ーー今回のケースにおいて、不倫相手の女性は夫とうまくいっていなかったようです
「配偶者が不貞行為に至るまでには、さまざまな経過があるのが通常です。
ご相談の中で『夫には性欲処理の対象としてしか見られていない。関係は良好ではない。だから夫に愛想を尽かし、やむなく不貞に至った』との切実な訴えをされる方も決して珍しくありません。また、私の経験上、こうしたケースでは、夫が『妻とは絶対に離婚しない」との立場を貫くことも少なくありません」
ーーこのような場合、女性から夫に対して、離婚請求することは難しいのでしょうか
「裁判離婚が認められる可能性の程度については、一概には言えません。
しかし、そもそも、夫の価値観や態度、夫婦の関係性のいびつさについて、仮にそれが真実だったとしても、裏付けとなる『客観的な』証拠はあるでしょうか。
また、夫婦関係が破たんした原因が不貞行為でなく、その前の関係性悪化にあるということを、果たして立証できるでしょうか。
夫から徹底的に否定された場合、立証は並大抵のことではありません。
既に別居から何年も経っているとか、夫婦間で離婚の話し合いが進み、関係悪化が誰の目からみてもはっきりしている等といった場合であれば、裁判で認められる可能性もあります。
しかし、今回のようなケースでは、『認容判決の可能性は乏しい』として、調停までは進めたとしても、裁判まで打って出ることは少ないと思われます」
【取材協力弁護士】
吉田 雄大(よしだ・たけひろ)弁護士
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。2018年6月から日弁連貧困問題対策本部事務局長。
事務所名:あかね法律事務所
事務所URL:http://www.akanelawoffice.jp/