2019年09月09日 22:41 弁護士ドットコム
大手就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが就活生の「内定辞退率」を予測したデータを企業に販売していた問題を受け、一般財団法人情報法制研究所(JILIS)は9月9日、研究者や弁護士らが登壇するセミナー「第2回JILIS情報法セミナー in 東京」を都内で開催した。
【関連記事:旅行で「車中泊」、運転席でエンジンかけて酒を飲んだら「飲酒運転」になる?】
リクナビ事件では、個人情報保護委員会から同社に対し是正勧告が出されたほか、厚労省からも指導が入るなど多方面で問題となっている。セミナーでも、個人情報保護法以外に、経済法や労働法などさまざまな角度から問題提起がされた。
登壇した京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授は、「今回、リクナビは自分たちの利益や新規ビジネスばかりに目を向けて、就活している大学生がどう思うかという想像力がかけていた」としながらも、リクナビだけ叩くことは、他の企業の萎縮を招くとした。その上で、「スタートの時点で、国民目線で利用者である国民が幸福かどうかを考えれば間違えることはない」と指摘した。
次の個人情報保護法の改正が迫る中、JILIS理事長である新潟大学の鈴木正朝教授は、「個人情報保護は潮目が変わりつつあり、個人情報保護法だけでなく、横断的な取り組みが必要」と語った。
最初のパネルディスカッションでは、リクナビ問題について、個人情報保護法の観点から議論された。司会はJILISの山本一郎上席研究員。JILISの高木浩光理事から、読売新聞(9月6日付)に掲載された学生の事例が紹介された。
この学生は、有名国立大学の女子学生で成績も優秀だったが、なぜか書類選考の段階でことごとく落とされたという。国家公務員志望で、リクナビにも登録して企業の就職活動もしていた。
「もしも、書類で落とされたのがリクナビのせいだったとすると大変な問題です」と高木理事は話し、鈴木教授は「これであなたは落ちました、と立証するのは難しく、うやむやにされてしまうところ。立証できない以上、個人情報の管理のあり方として外形的なところで最低限度規律していかないといけない」と指摘した。
また、JILIS参与の板倉陽一郎弁護士は、内定辞退率について「そもそもこれに同意が取れるわけがない。ということは、同意スキームでやろうとしていたことが全体としてだめ。リクナビは学生に対し大量エントリーを煽ってきた。大量エントリーは必然的に内定辞退率を高める。内定辞退が増えれば人事担当者の評価が下がるので、そこに向けて内定辞退率を売る。武器商人のようなやり方だ」と厳しく批判した。
その後に登壇した依田教授は、経済学の立場から、「まさかこのようなことが起きるとは思わなかった」と話し、次のようにコメントした。
「GAFAは各国で訴えられ、賠償金を支払い、個人情報の取り扱いに慎重になっている。2019年6月、G20の議長国として、日本はデータ流通の国際ルール作りを主導した。こうした流れの中で、対消費者の優越的地位の濫用規制は無用の長物だと思っていた最中に、事件が起きた。
今回の事件は濫用に該当すると考えられる。プラットフォーマー規制はGAFAを念頭に議論されてきたが、そのまま対応の遅れている日本企業へのブーメランとなる。特定企業を批判したくないが、その影響は大きい。再発防止が大切だ」
また、労働法の視点からは、倉重公太朗弁護士が登壇。「そもそもリクナビ問題は、日本型雇用に起因する」と背景を説明。「日本型雇用の三大特徴として言われるのは、終身雇用、年功序列、企業内労組。そして、新卒一括大量採用もある。新卒が価値がある社会だから、内定辞退率の情報に価値があったが、欧米ではこのような事件自体が起きないだろう」と解説した。
まもなく個人情報保護法の改正を迎えるにあたり、高木理事が提言を行なった。提言では、現在の個人情報保護法の限界を指摘した上で、こうした問題は個人情報保護法が制定された当時から議論されており、それを踏まえた改正をすることで解決できるのではないかとした。
具体的には、「データによる人の選別への意識が希薄」「評価情報を作成することが(個人情報の)取得に当たらないという通説」は、「法目的を明確化する」ことで解決すると提案した。また、「プライバシーポリシーが読まれない」という問題については、「利用目的を事業者単位からサービス単位にする」などとした。