9月9日(月)、HONDAが支援するアスリートを招いて対談が行われ、WシリーズとFIA-F4に参戦する小山美姫と、バスケットボール女子日本代表の渡嘉敷来夢選手が出席した。
『#USLETE 対談 世界に挑戦する女性アスリート 小山美姫×渡嘉敷来夢』と題して開催されたこの対談では、その名の通り世界を舞台に戦う小山と渡嘉敷選手がそれぞれの経験や苦労、夢に向かって戦うための考え方などを語った。
表題にもある『USLETE』とは、『us』と『athlete』とかけた造語。モータースポーツや企業スポーツ選手など、ホンダに関わるアスリートたちの挑戦を通じて、誰もが持つチャレンジングスピリットを応援しようというプロジェクトだ。
まず舞台に登場した小山は、2019年シーズンよりスタートした女性のみのフォーミュラカーシリーズ『Wシリーズ』への参戦結果を報告。彼女にとっても海外シリーズに挑戦するのはこれが初めての経験だったが、全6戦を終えてランキング7位という結果を残した。
「(5月から8月までの参戦期間は)2週間に1度レースがあり、想像以上にあっという間でした。日本だとレースは1カ月に1回なので。2018年と2017年も毎週レースがあったようなシーズンでしたが、毎週違うカテゴリーに出ていたので、今年のようにフォーミュラに特化してやるのとはまたちょっと違いました」
ホッケンハイムで行われた開幕戦では、予選で17番手と出遅れたものの、小山は決勝レースで大きく順位を上げて7位に入賞。まずはこのレースを振り返って、次のように話した。
「(開幕戦では)そもそも予選でミスをしてしまったことが失敗でした。追い上げたことがすごいというよりも、失敗したことがよくなかったということがすべてですね。フォーミュラだと順位を上げていくのも難しいですし、予選順位がすごく大事になってくるなかであのように順位を落としてしまったのは、よくないことでした」
「ただ結果的に1年通してやってみると、最初にあのようなことがあってよかったなと思っています。ファステストラップも獲れましたし、予選できちんとした順位をおさえていれば、表彰台に乗ること、優勝することも可能だったと思いますが、可能だったことを不可能にしてしまったことは失敗でした」
「限界に追い込まれた時に、人の強さなどいろいろなものが引っ張り出されると思いますし、そういう開幕戦になったことで力がついたかなと思います」
今シーズンの自己最高位は、第3戦ミサノでの4位。この時はフリー走行1回目にエンジンから火が出てしまうアクシデントに見舞われたが、予選では6番グリッドにつけ、2つポジションを上げて4位に入賞した。
「練習の時に(エンジンが)燃えてしまい、運がなくなったのかと……。(最初の数周は)自分が想像していた通りのファーストインプレッションで、序盤は3番手くらいだったのですが、ピットインしたら『火がついているぞ』と言われて、ここで私の運は尽きるのかと思いました」
「あのセッションではそれ以降走れなかったですし、そういうところで差が出てしまうんです。たかが13ラップかもしれないけど、その13ラップでは同じコーナーを13回走れて13回試せる。そのぶん相手は成長し、理解していくなかで、私はエンジンが燃えているという現実を見て不安しかなかったです」
「自己最高位を獲れましたが、これが自己最高位というのが悔しかったですね。表彰台に乗りたかったです」
上述の通り、小山が海外のシリーズに参戦したのは今回が初めてだ。つまりWシリーズが開催されるサーキットでの走行経験はなく、自信や手応えを感じることができなかったという。
「私の場合は、(シリーズが開催される)すべてのサーキットが初めてでした。すでに走った経験を持っているドライバーもいるから、それほど自信はなかったです。過信はよくないけれど、過信でもいいから少しでも『自分はやれる』と思いたくなるような状況でした」
「(フリー走行でも)その時間の枠内で決められたラップ数しか走れないし、そこで差をつけることができないと(遅れを)取り戻すことができないので不安もありました。『いける!』という根拠や手応えはなかったです」
今シーズンは表彰台獲得が叶わなかったとはいえ、小山はランキング7位という結果を残した。Wシリーズでは、ランキング12位までのドライバーに次の年もシリーズに参戦する権利が与えられることになっており、小山も2020年のWシリーズ参戦権を獲得。来シーズンは、学んだことを活かす年にしたいと意気込みを語った。
「毎年ジェットコースターのようなシーズンですが、そういうのを求めているわけではなくて……。でも、こういうことが多いんです。その度に強くなっているとは思うので、来年も乗れるというのは非常に嬉しいですね」
「今年は“活かす年”にするはずが“学ぶ年”になってしまったので、2020年はその学んだことを活かせる年にしたいです」
■『世界に挑戦する』小山と渡嘉敷選手の共通点とは
続いて行われた対談では、世界に挑戦するという共通点を持つ小山と渡嘉敷選手が初対面。小山は、対面前から「自分に似ている」と言われていた渡嘉敷選手を前に、「思考が似ている」と納得。一方の渡嘉敷選手も、小山を見て「22歳の時の自分はこんな感じでした」と話し、お互いに初対面とは思えないような雰囲気のなかで対談が行われた。
渡嘉敷選手は高校総体で3連覇を達成すると、日本最高峰のWリーグではJX-ENEOS サンフラワーズに入団し、現在は史上初となるリーグ11連覇中だ。またWリーグのオフシーズンを利用して2015~17年にはアメリカのWNBAにも挑戦し、2016年のリオデジャネイロ五輪ではチームを20年ぶりにベスト8へ導くなど、日本を代表する選手として活躍している。
そんな渡嘉敷選手は、「2つ年上の兄には絶対に負けたくなかったし、男女関係なく誰にも負けたくない」という根っからの負けず嫌いであることを明かすと、小山は「負けず嫌いではなかった」と意外な一面を見せた。とはいえ『何でも一番、絶対勝つ』というモットーを掲げている小山は、こんなエピソードを明かした。
「父が『何でも一番、絶対勝つ』という感じだったので、“負けない”というよりも”勝ちたい”でした。いつも手やカートのバンパーに『勝つ』と書いていましたね」
「だからレース前には、カツとモツを食べるんです。カツは『勝つ』、モツは『トロフィーを持つ』とかけてゲン担ぎをして、何でも繋げています。『粘り強く』の意味ではネバネバするものを食べたりもします」
ただ渡嘉敷選手も試合の前に同期の選手とカツを食べに行くことがあるようで、験担ぎを大切にするという共通点が見えた。
さらに小山と渡嘉敷選手の共通点は、こんなところでも見えた。14歳の時に一度レースを辞めた小山は、何もすることのない日々を過ごした経験から、高い壁を前にしても前向きな気持ちを持つことができるようになったのだという。
「(レースを辞めたことで)頑張ることがなくなって、こんなにも1秒って長いんだと思う毎日を過ごしていた時が一番退屈でした。だから高い壁が現れたとしても、レースに関わって忙しくできる日々が幸せだなと心から思えるんです。そういうもの(退屈な時期)を味わっていると『いくしかない』と、また一歩成長できるなという気持ちになります。物事の捉え方が変わりました」
渡嘉敷選手も怪我の療養中にプレーができなかった時期を過ごして、“考え方のリハビリ”をすることができたとのこと。両者とも、やりたいことができなかった期間を通して前向きな考え方ができるようになったようだ。
「考え方がポジティブになりましたね。プレーができない期間中に、『プレーできる間は、一瞬一瞬を大切にして楽しもうかな』と考えられるようになりました」
「ミスをしたら落ち込んだり、できなかったらどうしようと考える自分と戦っていましたが、怪我をした時期に『そうやって考えて練習してもなあ……』と開き直ることができました。足の怪我のリハビリが、いい感じに考え方のリハビリにもなりました」
女性アスリートとして世界に挑戦するという大きな経験を積んだ小山と渡嘉敷選手。彼女たちの同世代や、また彼女たちよりも若い世代にも、同じように海外を目指す人は多いだろう。一足先に海外を経験した小山と渡嘉敷選手は、自分の夢に向かう若者に向けて次のように述べた。
「挑戦することによって、新しい自分だったり、今まで味わったことないものを味わうこともできると思います。スポーツだけじゃなくて、勉強や仕事に関しても言えることですし、そういった形でやっていけば様々な感情にもなれる。自分はそういうことを心がげているので、毎日同じことの繰り返しというよりも、刺激的な毎日を送れるのではないかと思います」
「楽しいことも合わないこともありますが、それを自分がどう受け入れるかではないでしょうか。何かをやってみてダメだったらそれを辞めて、新しいことに挑戦していけば、経験になります。日々進化しながらそういったことを大事にして、最強になりたいです」(渡嘉敷)
「挑戦がある限り、成長があると思います。好きなことをやったほうがいいですし、辞めたければ辞めればいい。どんなこともポジティブに受け止められる精神は、愛があるから生まれるものですし、愛がなければ嫌になって、投げ出してしまいます」
「ひとつ投げ出せばふたつ目も3つ目も投げ出すので、まずは何かひとつ最初から最後までやり遂げることが大切です。それを身につけたうえで、やるなら死ぬ気でやったほうがいいし、嫌だったら辞めたほうがいいです」
「夢は必ずF1ドライバーになることなので、そこに向かって成長できるようにしたいです。Wシリーズは7位でしたし、FIA-F4ではトップを獲れていません。クルマの性能が変わるので難しい部分もありますが、それはある意味成長できる部分でもあるので、あと2大会しかないけれど、結果を出して良い報告ができるシリーズにしたいです」(小山)
今回の対談を通して、世界へ挑戦したことに加え、様々な共通点が明らかになった小山と渡嘉敷選手。競技は違えど、「他人の決めた通りに動いてしまうと、失敗した時に人のせいにしてしまう。だから何事も自分の意志で行動している」と同じ考えを持つふたりが、2020年以降にそれぞれどのような活躍を見せてくれるのだろうか。
小山は、今月スポーツランドSUGOで行われる第11、12ラウンドと、11月にもてぎで開催される第13、14ラウンドに参戦する。また渡嘉敷選手も、まずは日本代表として今月下旬よりインドで開催されるFIBA女子アジア杯に出場し、10月からスタートする2019/20年シーズンのWリーグでは、リーグ12連覇を目指して戦う予定だ。