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《GT300決勝あと読み》ドライか、ウエットか。ピットインタイミングと判断が勝敗を分けた大荒れオートポリスのGT300

2019年09月09日 09:31  AUTOSPORT web

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ウエットコンディションをドライタイヤでしのぎ、レース終盤に爆発的な速さをみせたSYNTIUM LMcorsa RC F GT3
終わってみればまさかの大逆転。降り注いだ雨が演出したまさかの展開となったスーパーGT第6戦オートポリスだが、GT300クラスでも戦略が分かれる非常に難しい展開となった。上位陣がどんな戦略を採ったのか、そしてそんななか、見事自身の100戦目を2014年以来の優勝で飾った吉本大樹とLM corsaの戦略をご紹介しておこう。

 前日のこのコーナーでもお届けしていたとおり、スーパーGT第6戦オートポリスの決勝日は前日から雨の予報が出ていた。9月7日の時点では、予報にもよるが雨が降るのは15時前後。8日になり雨が降り出すのはやや遅くなっていた。

 迎えた決勝序盤は、SUBARU BRZ R&D SPORTのトラブルなどもあり、JAF-GT勢をGT3勢が上回っていく展開となった。スタート直後から激しいバトルを展開したHOPPY 86 MCと埼玉トヨペットGB マークX MCという2台のマザーシャシー勢をかわしたグッドスマイル 初音ミク AMGとD’station Vantage GT3がトップ2を占め、7番手から3番手に浮上したARTA NSX GT3が続いていた。

 GT500クラスが20周を過ぎる頃には、1コーナーを中心に雨が降り出すが、コース全域を濡らすわけではなかったので、ここでピットインを行うチームはいなかった。多くのチームが狙っていたのは、雨がしっかり降るまで待って、ルーティンのタイミングでウエットにすることだったが、本格的に降り出したのは、GT500が30周を終えたころだ。

 65周のレースで半分近くに到達しており、スタート時に履いていたタイヤのグリップダウンに悩まされたチームは、この前にピットに入りスリック→スリックで交換。序盤の上位陣では、HOPPY 86 MCが27周、D’station Vantage GT3が30周でピットインしており、結果的にこれらはあまりいいタイミングとはならなかった。

 多くのチームは予定どおり雨が強くなり始めたタイミングでピットに向かうことになるのだが、30周を終えたT-DASHランボルギーニGT3がストップしている映像が映し出されたときがひとつポイントだった。一時、ドアが開くシーンが映ったが、これでセーフティカー導入を予想したチームも多かった。結果的に、上位陣のうち32周でピットインするチームが多かったのだが、ここでウエットを選択した。

 その直後、今度はアールキューズ AMG GT3のクラッシュにより実際にセーフティカーが導入された。32周の後にピットインを予定していたチームはピットインできず、このSC明けのピットインを強いられることになるが、結果的には2回目のSC前=32周に入った組が最も効率が良かったことになる。序盤首位だったグッドスマイル 初音ミク AMGは、本来32周目に入りたかったのだが、そのタイミングでピットを通過してしまっていた。

 なお、上位を争った陣営のピットインタイミングは下記のとおりだ。このなかでModulo KENWOOD NSX GT3は、ライバル同様32周でピットインしウエットに換えたが、ダイブ(ななめ止め)でピットインしたため、アウト時にインパクトレンチがウイングに引っかかってしまい、後にペナルティを喫したのが痛かった。また、ARTA NSX GT3もピットアウト時にWedsSport ADVAN LC500に接触。これでペナルティをとられている。

●GT300 上位陣のスーパーGT第6戦オートポリスのピットインタイミング
HOPPY 86 MC:27周
D’station Vantage GT3:30周
McLaren 720S GT3:32周
マネパ ランボルギーニ GT3:32周
K-tunes RC F GT3:32周
ARTA NSX GT3:32周
GAINER TANAX triple a GT-R:32周
Modulo KENWOOD NSX GT3:32周
UPGARAGE NSX GT3:38周
LEON PYRAMID AMG:39周
リアライズ 日産自動車大学校 GT-R:39周
SYNTIUM LMcorsa RC F GT3:40周
グッドスマイル 初音ミク AMG:40周

■「仮に10周しんどくても……」吉本の判断が勝利に繋がる

 その後、PACIFIC MIRAI AKARI NAC PORSCHEのコースオフによる3回目のセーフティカー明け、トップ争いは小暮卓史駆るマネパ ランボルギーニ GT3、アレックス・パロウ駆るMcLaren 720S GT3、そして新田守男のK-tunes RC F GT3の争いとなっていったが、終盤どんどん路面が乾いていく。ドライアップしていくなかでレインタイヤ勢はどんどん厳しくなっていくが、「スライドコントロールが抜群に上手い(岡澤優監督)」というパロウのMcLaren 720S GT3がトップに浮上。悲願の初優勝を遂げるかと思われた。

 そんな最中、53周目からわずか5周ほどで9台を一気にかわしてきた吉本のSYNTIUM LMcorsa RC F GT3がパロウに近づくと、一気にオーバーテイクをみせトップに浮上。そのまま逃げ切り嬉しい優勝を遂げることになったのだ。

 吉本は40周目にピットインしていたが、その段階でスリックを履いており、水量が多い中でしのぎ切ると、路面が乾くと同時に一気にペースを上げトップに立ったのだった。

「やっとですよ。本当に勝つまで長かったです。もうこのまま勝てる日がこないままなんじゃないかと思っていました」と吉本は、これまでのLM corsaの苦労を振り返りながら語った。まだ公認を得ていない状態からレクサスRC F GT3を育て続けた努力が報われたのだ。

「雨がかなり厳しくなってきたタイミングでしたが、温まっているスリックだったら、ある程度走れるんです。そしてレーダーを観ると、もう雨は来ない。セーフティカーも走っていて、残り35周、日射しも出ていて、映像ではコースから水が蒸発していたんです」

 これを観て、吉本は「仮に10周しんどくても、ラインができたらいいかもしれない」とスリックへの判断を選んだ。飯田章監督は当初からスリックを主張していたというが、映像を観たこと、そして吉本と宮田はFIA-F4のコーチングのために、金曜日にFIA-F4で路面が乾いていく早さをみていたのが決断の決め手となった。また、宮田も全日本F3やスーパー耐久でオートポリスを今年走っていて、ウエットも走っていた。

 ピットアウト後、3回目のセーフティカー中にふたたび雨が降るが、その時点で吉本は「もうダメだ」とは思ったという。ただそこでもう一度ピットインしては、判断が無駄になってしまう。ここでピットインしてウエットに換えたスリック組もいたが、「もう降ってこないと祈っていた。もう後には引けない」と吉本はコースにステイした。もちろん、ピットでは吉本がいつ戻ってもいいように準備はしていた。少しずつドライに転じていくと、吉本は「チャンスだ」とプッシュし、大幅に速いペースで一気にトップに立ったのだった。

 ちなみに、濡れている状況下で走り続けていられたのは、ダンロップのスリックも大きかったのではないか……? と吉本にぶつけてみると、「あると思います」と応じた。

「リアライズ 日産自動車大学校 GT-Rもスリックでしたが、それに比べても速かったですから。それに、こういうコンディションは僕はけっこう好物なんです。なかなかスリリングではありましたけどね(笑)」と吉本。

「チョイ濡れのダンロップはすごくいいと思いますが、タイヤだけではなく、そのタイヤの種類が合っていたこともあります。今回は、何ひとつ欠けていても勝つことはできなかったと思います」

 2015年にレクサスRC F GT3にスイッチしてから、LM corsaは苦労の連続だった。そしてそれを支え続けた吉本は、フィニッシュ後チームへの感謝を述べると同時に涙をみせた。チームスタッフは、それを振り返り「ズルいですよあのセリフは」と笑った。RC F GT3の勝利もライバルに先を越され、もがき続けたLM corsaと吉本大樹にとって、100戦記念の何よりのプレゼントとなっただろう。