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完璧な予選日から一転。波乱の決勝でポールから表彰圏外、そして巻き返して2位の強さを見せたKEIHIN《GT500あと読み》

2019年09月09日 09:21  AUTOSPORT web

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ドライでも雨でも、一貫してKEIHIN NSX-GTはトップクラスの速さを見せた
土曜日は午前中のフリー走行、そして予選Q1、Q2とすべてトップタイムをマークしてパーフェクトな流れを作っていたKEIHIN NSX-GT。今回のスーパーGT第6戦オートポリスでの今季初優勝に向けて、視界は良好だったが、日曜日は波瀾万丈の1日となった。

 日曜のレース直前のフリー走行、KEIHINのステアリングを握っていたベルトラン・バゲットがコースサイドにマシンを止めてしまう。マシンの電気系統のトラブルだった。ピットでその状況を見ていたチームメイトの塚越広大がその時の気持ちを振り返る。

「ただでさえ今年、いろいろあったなかで正直『またか』という気持ちがあった」と塚越。

 幸いにもすぐにピットにマシンは運ばれたが、グリッドへ付くためには時間は10分程度しか残っていなかった。原因の特定よりも、まずは走れる状態にすることを優先して電気系統のパーツを新しいものに換えて対応し、エンジンが掛かった。金石勝智監督が振り返る。

「ウォームアップの時は本当にドキドキしました。何でこんなにウチばっかり試練を与えるのかって。そこまで流れは出来ていると思っていたのに。でも、そこもチームみんなが頑張って耐えてくれた」

 無事にマシンをフロントロウに着かせることができたKEIHIN NSX-GTは、スタート直後の1コーナーで8号車ARTA NSX-GTに一旦は並ばれて前に行かれるも、すぐに抜き返しトップを奪取。その後のペースも順調に2番手に6.5秒のギャップを築く走りを見せた。

 だが、ここで雨が降り始め、ルーティンのピットタイミングと合わさってくる。KEIHINはドライのスリックタイヤを選択した。だが、その後、雨は強くなり始め、GT300車両が飛び出したことでセーフティカーが導入。KEIHIN塚越が築いたギャップが帳消しになると共に、ウエットタイヤへ換えたマシンを後方に従えることになってしまった。

 そしてセーフティカーが明けるとともに、ウエットタイヤ勢にオーバーテイクされていく。KEIHINはそこで41周目にウエットタイヤへの交換を決め、ピットイン。金石監督が振り返る。

「僕が最初のピットインでドライを決めてステイアウトして、2回目のセーフティカーの直前はバゲットが『これはもうドライは無理』と判断してピットに入ってきた」

 この時点でKEIHINは4番手に下がり、実質、優勝争いからKEIHIN脱落したかに見えたが、44周目にこのレース3回目のセーフティカー導入。今度はKEIHINにとってラッキーな方向で1回多くなったピットインのロスタイムが帳消しになった。

 だが、今度は再び不運に見舞われる。50周目、ウエット状況のセーフティカー明けのリスタートでトップの39号車DENSO KOBELCO SARD LC500の次に走行していた周回遅れのMOTUL MUGEN NSX-GTがスリックタイヤを装着しており、リスタートでトップのDENSOが1台だけ独走する形になったのだ。

「今の気持ちは、複雑です」と金石監督。クルマは速かっただけに、天候に翻弄されて勝利を逃すことになってしまったKEIHIN NSX-GT

 当然、リスタートのコントロールラインを越えるまでは前のマシンを抜くことはできず、ウエットタイヤを装着した38号車ZENT CERUMO LC500、19号車WedsSport ADVAN LC500、そして4番手走行のKEIHIN NSX-GTは数珠つなぎとなり、コントロールラインを越えてMOTUL MUGEN NSX-GTをオーバーテイクして行ったが、トップのDENSOと4番手KEIHINの間には約16秒のギャップが出来てしまっていた。

「あのギャップが一番、最後に効いたブローでしたね。そこからバゲットは最後は3秒差まで詰めたので、13秒くらいは縮めてくれましたが、あの時は焦りましたね。『あれっ!? 2番手以下が来ない』『(2番手が)ドライタイヤやん!』って」と、その時の心境を語る金石監督。

 だが、そこからKEIHINのバゲットはWedsSport、ZENTをオーバーテイクして2番手まで上がり、トップのDENSOを追い3秒差まで迫ったが、ここでチェッカー。波瀾万丈の決勝レースを2位で終えることになった。塚越広大が今回のレースを振り返る。

「後半、タイヤもどっちに行くのか難しいところで一度はスリックタイヤでコースに出たんですけど、早めに見切りを付けてレインに変えて、ただ、そのあとのセーフティカー明けで前を走るクルマがスリックで、トップの39号車だけ逃げてしまった。あれが僕らにとってはよくなかったですよね」

「ただ、そのトップに最後は3秒差まで追い上げられたというのも、バゲットの頑張りもあるし、クルマのパフォーマンスの良さもあったと思います。そう考えれば、いろいろなことがあったレースでもうれしかったなと思います。もちろん、ペース的にも展開的にも優勝できるレースだったと思いますけど、一時は表彰台圏外まで落ちたところから復活してこれたというところで、今回のレースとしては強いところを見せることができたと思っています」と塚越。

 一方、金石監督は「複雑です」とレース後の感想を述べる。

「今の気持ちは、複雑な心境です。みんな頑張ったし、嬉しいし、自分の反省もあるし、悔しい。あのドタバタのなかで2位を獲れたのはチーム力の証でもあるけど本当、複雑です」

 それでも、ウエイトハンデが比較的軽いとはいえ、ドライでもウエットでもマシンは常にトップクラスの速さを見せた。KEIHINの田坂泰啓エンジニアが手応えを話す。

「クルマはちゃんと走れば自信はあります。タイ戦の決勝日からセットアップを掴みはじめて、富士、SUGOのテストと調子が良くなってきましたので、次回は自信があります」と田坂エンジニア。次戦、第7戦SUGOはNSXの得意なサーキットであることから、今回の速さがあれば十分、連続表彰台獲得も見えてくる。

「ドライバーはふたりとも頑張ってくれたと思いますし、チームのメンバーもここまでよく耐えて、1位になりたかったですけど、今回の2位もステップを踏むための価値ある2位かなと思っています。SUGOの事前テストは2日ともトップタイムでしたし、その流れでこのオートポリスもクルマは調子よかったので、SUGOは勝ちます」と金石監督が話せば、「KEIHINの地元で毎回、たくさんの方が来てくれる。今回のレースを見てSUGO戦も盛り上がると思うので、今回勝てなかった分、SUGOで勝ってみんなの期待に応えるためにも、今回のようないい走りができるように頑張ります」と塚越。

 アクシデント、トラブルで低迷していたKEIHIN NSX-GTだが、今回の決勝日は力強かった。ポイントランキングも6位ARTA、7位RAYBRIG NSX-GT、8位KEIHINと接近しているだけに、次のSUGO戦はホンダ陣営内の戦いが面白い。