F1第14戦イタリアGP予選、赤旗によってQ1の1回目の計測アタックを完結できなかったマックス・フェルスタッペンが2回目のアタックを開始したときのことだった。1コーナーとなる第1シケインを立ち上がったところで、フェルスタッペンから「パワーを失った」という無線が入った。
その瞬間、ガレージにいた田辺豊治F1テクニカルディレクターは、「ビックリした」という。
もし、エンジンにメカニカルな問題があれば、すぐに走行をやめて、コース脇にマシンを止めるはずだが、「シケインを立ち上がったら、パワーロスを感じたので、アタックを中止することにした」と言うフェルスタッペンは、スローダウンしたものの、そのまま走行を続け、ピットインした。
いったい、何が起きたのか。田辺TDは次のように振り返る。
「シケインの出口で縁石に乗り上げた際に、過大なホイールスピンを起こして、エンジンがオーバーレブしてしまいました。それと同時に、ドライバーがアクセルを踏み続けたために、FIAが監視しているコンピュータのフィルターに引っかかり、(強制的に)パワーロスが発生しました」
どういうことなのか、もう少し詳しく説明してもらった。
「レブリミッターに当たると、エンジン側の制御は回転を下げる方向で指示を出すのですが、そこでアクセルを全開で踏み続けているということは、わかりやすい解釈でいうと、トラクションコントロールがかかった状態となり、それを監視しているFIAのフィルターのひっかかり、(パワーロスさせるという機能が)アクティベート(作動)したということです」
そのような状態になると、タイマーで解除されるまで、アクセルは全開にならない。フェルスタッペンがコーナーを立ち上がってからアクセルを踏み続けても、エンジンの回転がなかなか戻ってこなかったため、フェルスタッペンは「パワーロスした」と感じたというわけだ。
■同じ症状は「レースでは出ない」と楽観する理由
だが、コーナーの出口で縁石に乗った瞬間、マシンが跳ねて、タイヤが空転してオーバーレブするというのは、モンツァに限らず、よくあることだ。さらにそのような状況でドライバーがアクセルを踏み続けることも珍しいことではない。しかし、田辺TDによれば、「今回はその度合いが大きかった」という。
つまり、今回イタリアGPの予選でフェルスタッペンが感じたパワーロスは、パワーユニット(PU/エンジン)に問題があったからではなく、日曜日もすでに搭載しているスペック4のままでレースを行う。フェルスタッペンも「レースではそのような症状は出ない」と心配していない。
それは、満タンでスタートするレースではタイヤも労わりながら走行しなければならないので、予選のようにアグレッシブに攻めることはないからだ。たとえ縁石に乗っても、着地するまでアクセルは踏まないだろうし、着地してからも一気に踏むのではなく、まずパーシャルで踏み、そこからゆっくりとアクセルを踏み込んでいく。
残念なのは、パワーユニットの実力を限りなく100%出すといわれている予選で、フェルスタッペンだけでなく、Q3に進んだアレクサンダー・アルボンも満足なタイムアタックを行うことができず、スペック4の実走行での性能が分かりづらかったことだ。
ただし、田辺TDはスペック4の走りについて、次のように語っている。
「ここまでは目論見どおりの走りで、心強いパフォーマンスを見せています」
日曜日にスペック4を搭載したフェルスタッペンが、どこまで追い上げるのか。予選で出せなかった実力をレースで披露してほしい。