今週末に開催されるスーパーGT第6戦オートポリスは、昨年とはちょっと状況が異なる。まずは昨年までは第7戦として開催され、ウエイトハンデ(WH)は獲得ポイント数×1kgだったのにたいし、今年は第6戦のためポイント数×2kgでマシンの重さが大きくことなるのがひとつ。そしてもうひとつはGT500のタイトル争いとしては6号車WAKO'S 4CR LC500が第4戦、第5戦で連勝し、ランキング2位に16ポイント差でウエイトハンデが120kgという、前代未聞のぶっちぎりのトップとなっていること。残り3戦で他のチームの逆転はあるのか。今週末のオートポリス戦のゆくえを探った。
ポイントランキング表から判断すると、今週末の優勝チームを予想するのは簡単だ。12号車カルソニック IMPUL GT-R(WH35kg)、3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(WH32kg)、17号車KEIHIN NSX-GT(WH20kg)、そして19号車WedsSport ADVAN LC500(WH41kg)、39号車DENSO KOBELCO SARD LC500(WH40kg)は、いつ勝ってもおかしくない状況だ。
さらには16号車MOTUL MUGEN NSX-GT(WH16kg)、64号車Modulo Epson NSX-GT(WH9kg)は17号車と合わせて、なんとトップのWAKO'Sと100kg以上重さが違うという軽量ぶり。このNSX3台は当然、上位フィニッシュの可能性が高い。そのなかで64号車のナカジマ・レーシングには先日、元ブリヂストンの浜島裕英氏がチームに加入するとの報道があったが、チームによるとレースの現場に来るのは最終戦になる見込みとのこと。今回のオートポリスに姿はなく、テストやファクトリーですでにチームと作業を進めているという。その効果がどう出るかが楽しみなオートポリス戦でもある。
ただ、今シーズンのこれまでの流れを見ていると、ウエイトの影響ですんなりと順位が決まる展開は少なく、レースでは大きく順位が変動する戦いが繰り返されている。そのなかで今回、フォーカスしたいのがZENT CERUMO LC500だ。
前回の第5戦富士500マイルでは予選4番手から一時トップに立つ走りを見せながら、タイヤ交換後のアウトラップの100Rで速度が乗ったまま右フロントタイヤが外れ、ステアリングを握っていた立川裕路がマシンのコントロールが出来なくなり正面からタイヤバリアにクラッシュ。立川はメディカルセンターに運ばれ、その後、レースのゆくえを見ずにサーキットを離れていた。いつも冷静な立川にしては珍しい行動から、その心情が察せられたが今回のオートポリスへはどのような心境で臨むのか、まずは前回のクラッシュシーンについて聞いた。
「今年はチャンピオンを獲りに行くシーズンと思っていて、あの瞬間までは自分としてはパーフェクトな戦い方ができていて、チャンピオンの可能性も大いにあった。あの富士で上位でフィニッシュできればさらに理想的な展開に持ち込めることもわかっていたので、あの瞬間、一番最初に思ったことは、そのチャンピオン争いのこと。あの瞬間、ノーポイントでレースが終わったことでチャンピオンシップは一気に苦しい状況に追い込まれてしまったことがわかった。そのことに対する残念な気持ち……というよりも、もうショックでしたね。ぶつかったことどうこうとかではなく、クラッシュ自体も去年の(第2戦)富士のフリー走行の時のクラッシュに比べれば屁でもないレベルなので(苦笑)。とにかくチャンピオンシップのショックが大きかった」と立川。
100R進入までは特にクルマのフィーリングに違和感がなかったとのことで、アクセルを緩めることなく100Rに入ったところで突然、右フロントのグリップがなくなったという。マシンを降りた立川は偶然にも、外れた右フロントタイヤのナットを見つけ、原因がわかったのだそうだ。セルモとしてはナットが外れた対策を今回施し、テストでも試して万全の状態でこのオートポリスに臨んでいるという。今回のオートポリスに向けては、立川も並々ならぬ意気込みを見せる。
「チャンピオンシップの点差を考えると、残り3戦で逆転というのは可能性としてはゼロではないけど、かなり厳しい状況。でも、そうなってしまったのはもう仕方ないので、自分たちのミスで失ってしまったものは、自分たちで取り返すしかない。残り3戦で少しでも取り返すようなレースをしたいなと思います」
「もう本当に勝ちたい。勝たないと失ったものは取り返せないし、今回勝てれば、少しは状況が変わるかもしれない。NSXは速そうですけどオートポリスはタイヤに厳しいですし、ピックアップも起きやすいのでレースでは何が起こるかわからない。オートポリスはポールは何度か獲得しているんですけど、まだ勝ったことがないので、なおさら勝ちたいです。もう台風でも雨でも、なんでも来いです。僕らはもう失うものがないので、どんな状況でも行くしかない。勝負のレースです」と、何度も「勝ちたい」を繰り返す立川は今回どのようなレースを見せるのか。
ニューエンジンを搭載するニッサンGT-R陣営と本命に挙げられるホンダNSX陣営の事前情報
また、立川と同じくこのオートポリスで必勝を期すのがニッサンGT-R陣営だ。GT-Rの開発担当であり、MOTUL AUTECH GT-R、ニスモの鈴木豊監督に聞いた。
「もうあとがないので残り3戦、1戦1戦背水の陣で戦うだけですね。オートポリスはGT-Rにとって得意なはずだったんですけど、昨年の予選を見ると(GT-R陣営の最高位が11番手、MOTUL AUTECH GT-Rは14番手)そんなこと言えないですよね。去年は前のレースでタイヤが苦しかったこともあってコンサバな選択になってしまったのが要因ではあります。今年は開幕戦からずっとタイヤは機能していますし、去年の悪かった部分をしっかりカバーしてそれなりのポテンシャルを出してきているので、去年のようなことはないと思っています。ただ、クルマとしてはここはホンダさんが予選の一発は速いのではないかと予想しています」と今週末の抱負を話す鈴木監督。
GT-R陣営はホンダ、レクサスに1戦遅れてこの第6戦オートポリスからシーズン2基目となるスペック2エンジンをカルソニックを除く3台に投入する(12号車は第3戦鈴鹿の接触によるラジエタートラブルでエンジンを交換済み)。鈴木監督は多くは語らなかったが、エンジン特性としてトルクカーブの全体的な向上を狙って開発されたエンジンのようだ。
「これだけポイント差が開くと逆転でのタイトル獲得は厳しいとは思いますが残り3戦、まずはGT-Rが表彰台に挙がらないといけない。希に見る厳しいタイトル争いですが、最後まで望みをつなぎたいです」と改めて今週末への期待を勝った。
レクサス陣営、そしてニッサン陣営ともにこのオートポリスでの速さが軽快されているホンダNSX勢。ホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌弘エンジニアも、昨年との状況の違いとともに、今週末への手応えを話す。
「今年のオートポリスのホンダ陣営としてはランキングが下位に沈んでいるマシン多い。他の多くのチームがウエイトが重たくなっているので、ハンデ戦ということを考えるとこのオートポリスと次のSUGOでしっかり上位に入って最終戦につなげていかないといけないと思っています」と佐伯エンジニア。
「ハンデのことを考えるとウチは有利な状況だと思っています。去年まではオートポリスではそれなりにウエイトハンデを積んでいる状態だったので、なんとか凌ぐような展開だったのですが今年はまったく逆で、ウエイトハンデの軽いクルマが揃っているので十分、トップを狙えるのではないかと考えています」
ホンダNSXとしては苦手としていた夏の暑さもピークを過ぎ、涼しくなってくると春先に見せたエンジンパワーを発揮しやすいしやすい状況となる。昨年のオートポリスでは予選Q2に5台すべてのNSXが進出し、グリッドのトップ3を制したことからも予選での速さは間違いなさそう。
その一方、昨年のホンダ陣営はレースではタイヤのピックアップ(表面のタイヤかすがとれずに自分のタイヤの表面に付着してグリップダウンを引き起こす現象)などでロングランのペースに悩まされ、逆にレクサス陣営にトップ4独占を許してしまった。予選と決勝で勢力図がガラリと変わった一戦となったが、今年のオートポリス戦は不安定な天候の予報もあり、ひと筋縄ではいかなさそうな雰囲気だ。