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多くの波乱呼んだ2019年の鈴鹿8耐。FIMに聞く原因と対策

2019年09月06日 17:11  AUTOSPORT web

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#10 Kawasaki Racing Team Suzuka 8H
カワサキのファクトリーチーム、Kawasaki Racing Team Suzuka 8H(ジョナサン・レイ/レオン・ハスラム/トプラク・ラズガットリオグル)が優勝し、26年ぶりのカワサキ優勝で幕を下ろした2019年の鈴鹿8時間耐久ロードレース。しかし、当日はカワサキの勝利が決まるまで紆余曲折があった。赤旗終了のタイミングなど、レースディレクションの対応は正しかったのか。国際モーターサイクリズム連盟(FIM)のポール・デュパルク氏に聞いた。

 2019年の鈴鹿8耐決勝は、チェッカーまで残り2分を切った19時28分に、トップを走っていたレイがS字コーナーで転倒。この転倒により赤旗が掲示され、そのままレースは終了となった。

 Kawasaki Racing Team Suzuka 8Hは、赤旗によるレース終了から5分以内にフィニッシュラインを通過できなかったため、FIM世界耐久選手権(EWC)のレギュレーション『FIM ENDURANCE WORLD CHAMPIONSHIP AND CUP REGULATIONS』の1.22.5に基づき、決勝レースの順位認定から除外された。

 そのため、暫定結果ではレイの転倒前に2番手を走行していたYAMAHA FACTORY RACING TEAM(中須賀克行/アレックス・ロウズ/マイケル・ファン・デル・マーク)が優勝と発表され、暫定表彰式も執り行われた。

 その表彰式終了後、暫定結果に対しKawasaki Racing Team Suzuka 8Hが抗議。レースディレクションがこれを受理し、審議の結果、EWC競技規則の1.23.1に定められていた赤旗中断時の規則「レースリザルトについては、赤旗掲示前にラップリーダーならびにラップリーダーと同一周回のライダーがフルラップをこなした時点のものを採用する」という条項が適用されることになった。これにより暫定結果はKawasaki Racing Team Suzuka 8Hの暫定優勝に変わった。

 その後、決勝翌日の7月29日に行われたレース後車検の終了をもって正式結果が発表され、Kawasaki Racing Team Suzuka 8Hの鈴鹿8耐優勝が確定。1993年のスコット・ラッセル/アーロン・スライト組の優勝以来26年ぶり優勝の悲願を達成した。

 この一連の出来事のなかで、もっとも物議を醸しだしたのは、赤旗提示のタイミングだ。なぜなら、レイが転倒する約5分前にSuzuki Endurance Racing Team(以下、S.E.R.T.)のマシンがエンジンブローを起こしていたからだ。

 S.E.R.T.のマシンは2コーナーからコース外を走行したが、白煙を上げたまま再びコース上を走行。S字コーナーでマシンを止めた。この時、オイルが噴出していたことはほぼ間違いない状況で、弱い雨も降りだしていたこともあり、路面は極めて滑りやすい状況になっていたと思われる。

■アクシデント発生時「3つの選択肢があった」とFIM
 このアクシデントの発生時にレースディレクションはオイルフラッグを提示していたが、赤旗やセーフティカー出動という選択もあったのではないか。当時の状況についてデュパルク氏に聞くと「レース終了から8分前、S.E.R.T.にエンジントラブルが発生した時点で、レースディレクターには3つの選択肢があった」という。

「ひとつ目は、オイルがコース上に出ていると想定して、即座に赤旗を出すことだ。ただし、この選択をした場合、レースが赤旗終了となることで、EWCチャンピオンがエンジントラブルのあったS.E.R.T.に渡るという残念な事態が想定された。レースディレクションは、これはアンフェアなものであると判断し、赤旗を出すという選択はしなかった」

「ふたつ目は、セーフティカーを出動させ、レースを終了するのでなく中断させることだ。ライダーはセーフティカーに先導される形で、8時間を迎え、その間にオーバーテイクは許されない。この方法は鈴鹿8耐のフィニッシュとしては悲しいものになるし、もしコース上にオイルが漏れていたら、この手法で転倒を回避することはできない。レースディレクションとして、この選択肢も取るべきではないと判断した」

「3つ目は、全ライダーに対し、グリップレベルが変化している可能性があるとインフォメーションを出した上で、レースを続行するという選択だ。第1セクターにある全ポストで(コース上がオイルで滑りやすくなっていることを意味する)オイルフラッグを掲示する。これにより、全ライダーが2周はクラッシュせずに走行していた」

「ただ、残念ながらS.E.R.T.のエンジントラブルから3周目、ラップリーダーのジョナサン・レイがクラッシュしてしまった。この不運な状況を受けて、レースディレクションはただちに赤旗を掲示する選択をした」

 レースディレクションは、3つ目の選択肢であるオイルフラッグの提示で対応し、結果、レイの転倒というアクシデントがあり、その後の混乱を招いてしまった。では、この対処は正しかったのだろうか。デュパルク氏に聞くと以下のように回答した。

「レースディレクションとして、あの時点でオイル漏れがあったのか確信を持つことができなかった。しかし、ラップリーダーのジョナサン・レイがクラッシュした直後に、赤旗を出すことにした。現時点でも、ジョナサン・レイの転倒がオイルによるものだという確証はない。なぜなら、彼はそれまでの3周、他のライダーより3秒も速く走っていたからだ」

 その後、レギュレーション解釈の違いにより暫定優勝の変更が発生する。その争点となったのが“5分ルール”だ。

 MotoGP規則書やスーパーバイク世界選手権(SBK)規則書には、赤旗終了後の規則で5分以内にマシンに乗ってピットレーンに戻らない場合非完走扱いとする旨が記載されている。

■MotoGP規則書 1.25.1の記載
・赤旗掲示から5分以内にマシンに乗ってピットレーンに入らず、指定された計測ポイントを通過しなかったライダーは、非完走扱いとなる。

■SBK規則書 1.27.4の記載
・赤旗掲示後に再スタートの資格を得るには、掲示から5分以内にライダーはバイクに乗るか押すかしてピットレーンに戻らなければならない。

 しかし、EWC規則書には赤旗終了時の内容に5分以内にピットレーンに戻らなければいけないという記載はなく、「リザルトは、トップを走行するライダーとこのライダーと同周回にいるすべてのライダーが、赤旗の掲示を受けずにフルラップを完了した時点での結果とする」と定められていた。

 レースディレクションはまず、EWC規則書の1.22.5に記載される「優勝者がコース上のフィニッシュライン(ピットレーンではない)を通過してから 5分以内にフィニッシュラインを通過しなければならない。ライダーは、マシンとともになければならない」に基づきYAMAHA FACTORY RACING TEAMの優勝と判断し、その後、Kawasaki Racing Team Suzuka 8Hの抗議で前述したEWC規則書の1.23.1の記載を適用したため、勝者がカワサキに変わったわけだ。

 今回の件を受け、EWCの赤旗に関するレギュレーションもMotoGPやSBKに合わせていくのかとデュパルク氏に聞くと「FIMの理念である継続性を踏まえた上で、MotoGPやSBKと似たものになるようルールが変更される」と回答。その回答通り、2019-2020シーズンのEWC規則書 1.23.1には以下の記載が追加されていた。

・レース結果に含まれるには、赤旗掲示から5分以内にピットレーン、またはパルクフェルメにたどり着かなくてはならない。

・レースが中断された後、再開されないと判断され、結果が公式なものとなる際、当該クラスの優勝者が重ねた周回数の75%を完走していなければ最終結果に含まれない。

 このレギュレーション変更で2019年大会で起きたような混乱は起こらなくなるはずだ。2020年大会ではチェッカー目前までバトルが繰り広げられる“夏の風物詩”にふさわしいレースを期待したい。