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実施日のズレ悪用、模試の解答売買 「ズルして高得点」「学費免除」は犯罪?

2019年09月06日 10:51  弁護士ドットコム

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全国で40万人の高校生が受ける「進研模試」。参加校で実施日にズレがあることを悪用し、解答が試験前にネットなどで出回っているという。8月14日、西日本新聞が一面で報じた。


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同紙によると、問題や解答・解説が売買されることもあるそうだ。実施するベネッセコーポレーション側が掲示板やSNSをチェックし、削除依頼を出しているものの限界があるという。



進研模試に限らず、こうした模試の「ネタバレ」は少なくとも10年以上前から、2ちゃんねる(当時)などで出回り、問題視されてきた。



答えの分かっている試験を受けて、なんのメリットがあるのかと思うかもしれないが、西日本新聞の記事によると、学校のクラス分けや内部進学で有利になりえるのだそうだ。



このほかにも、模試の成績が良ければ、「特待生」として予備校の費用が安くなることが考えられる。もしもズルをして、予備校の授業料が免除などされていたら、詐欺などにはならないのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。



●ズルして試験がそもそも犯罪になる可能性も

ーー事前に解答を知って高得点を取ること自体に法的な問題はあるんでしょうか?



「偽計業務妨害罪(刑法233条)の成立の可能性があります。





模擬試験は、学力の進度や受験者自身の学力等を確認するために実施されるものです。事前に問題や解答を把握した上で受験されることは、当然のことながら想定されていません。



答えを知った上で受験されてしまうと、正確な受験者の実力や順位等も把握できなくなってしまうため、模擬試験を実施するという『業務』が妨害されてしまうものと考えられます。



主催者の望まない行為であることは明白であることから、主催者を欺いて受験しているものと評価できますので、『偽計を用いて』に該当すると考えられます。



したがって、主催者の模擬試験を実施するという業務を妨害しているものとして偽計業務妨害罪が成立する可能性があるように考えられます」



●予備校がタダになったら詐欺か?

ーーズルしてとった高得点を理由に予備校の費用が免除されていたら、詐欺などにはなりませんか?



「このような不正受験をした上で、なんらかの恩恵を受けていた場合、詐欺罪が成立してしまう可能性も十分にあるように考えられます。



すなわち、事前に答えを知っている受験生であるとすれば、主催者は受験自体をさせないものと考えられることから、主催者に対する欺罔行為(だますこと)に該当します。





そして、その結果、良い成績を獲得することで、予備校の授業料が免除されるなどの財産上の利益を取得したものとすれば、刑法246条2項の詐欺罪が成立する可能性があると思われます」



●「実力に見合わない場所にいると苦労する」

ーー学校のクラス分けで上位クラスになるなどの恩恵を受けた場合はどうでしょう?



「学校のクラス分けや内部進学で有利になる等の扱いを受けた場合においては、未だ財産上の利益を受けたとまでは評価できないものと考えられ、詐欺罪が成立する可能性は低いものと考えられます(私見)。



事前に問題等を入手するのは、いわゆるカンニング行為と同視できるものと考えられます。カンニング行為によって詐欺罪や詐欺未遂罪の罪責を問われたという話は基本的に耳にしたことはないことからも実務上の考えとしては、かかる結論は妥当であるように思われます。



不正受験の事実が発覚した場合、当該受験生の信用は失墜することになるものと考えられますし、不正受験で得た地位も当然に失うこととなるものと思われます。



そして何よりも、実力に見合わない場所にいると、長年にわたって苦労することにもなりかねませんので、このような不正受験は絶対に辞めるべきであるように思います」




【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。
事務所名:佐野総合法律事務所
事務所URL:http://www.sanosogo.com/