ツインリンクもてぎで大きなイベントが開催されるとき、取材者を含む大部分の関係者は宇都宮と水戸に別れて宿泊します。ちょうどツインリンク茂木を挟んで東西逆方向にある位置関係になります。距離的には、ツインリンク茂木から水戸までは40km弱50分強、宇都宮までは30km強40分強とどちらも決して近くはありません。
茂木町内にも小さな旅館や民宿はありますが数は限られています。穴場としては、サーキットの近くに流れている那珂川の支流である逆川は鮎釣りの名所で、道沿いには小さな食堂や売店があって釣り宿として宿泊できたりもするのですが、やはり収容数は限られています。
というわけで結局は宇都宮か水戸です。どちらかというと宇都宮の方がホテルがたくさんあって、しかも近年は新しい道ができてアクセスも便利、夜の街も大きくて奥深いんですが、ツインリンクもてぎ開業時からぼくはなぜか水戸に泊まることが多くて慣れてしまったこともあって、今回全日本スーパーフォーミュラ選手権を取材する時も水戸に泊まりました。
水戸はJRの駅を挟んで北が古くからの盛り場を含む旧市街、南が新市街となっていて、昔は新市街は寂しかったんだけど最近はお店も増えてどちらの夜もなかなか楽しいんですよね。しかも新市街側には千波湖という湖があって、約3kmの周回ランニングコースがあるんです。
これが陸連公認という素晴らしいコースで、前夜呑みすぎて寝坊さえしなければ早朝サーキットへ出かける前にここでランニングするのも、ぼくの楽しみのひとつなんです。
今回の金曜日は、昔から通わせていただいているシェリー酒とスペイン料理のお店「ガンチョ」へ出かけました。ここは確か15年ほど前、当時定宿にしていたホテルの近くで開業したときに「おや?新しいお店?」と見つけて飛び込んで以来通っています。
店主は、偶然にも東京でときどき伺うお店のオーナーの弟子的ポジションにあるらしく、東京のシェリーバーで呑んでいるとき「ガンチョ」の名前が聞こえてきて初めてその関係を知ったときには、その偶然にビックリしたものです。
開業当初は週末、フラメンコのライブがあったりして楽しかったんだけど、騒音問題があったとかで何年も経たずに定期的なライブ開催はなくなり、今は店内にステージだけ残っています。
ところがライブはなくなった一方、いつしかツインリンクもてぎの2輪レースに来日したヨーロッパチームが食事場所として目をつけたらしく、店主も2輪好きだったこともあって仲良くなって、今や御用達となったチームが置いていったという2輪レース用カウリングやらチームユニフォームだとかが店内所狭しと飾られ、そっちの方で楽しい店になっています。
店主も店主で平日からいつもチームウェアを着て接客するものだからまるでモータースポーツバーみたいですが、味は本格派。だからこそ本場のチームが出入りするようになったんですね。4輪でも、2017年の全日本F3選手権に参戦したアレックス・パロウが「美味しい」と太鼓判を押しておりました。
このお店では数々の小皿料理いわゆるタパスをいろいろ注文して楽しむのがいいんだけど、なかでもオススメは生ハムです。カウンターにはハモン・セラーノとハモン・イベリコ・ベジョータの原木があってそこから店主が自分の手で切り出して供してくれるんですが、ここまではちょっとしたお店なら珍しくもない話。
ところがこの店の店主、後谷高光さんはタダ者ではありません。ソムリエ資格、ベネンシアドール(シェリーの専門職)資格を持つばかりか、ハモンをカットする専門職であるコルタドールとしてコンテストに参加、日本チャンピオンになって昨年はマドリードで開催された世界大会に日本代表として進出、世界6位になった職人中の職人なのです。
コルタドールと言ったって生ハムを切り出すだけだろと思ったら大間違い。店主によれば切り方によって味わいはまったく違うものになると言います。確かにここで食べるハモンは……違う。たぶん、違う。味音痴のぼくですら違う……ように感じます。これはぜひ実際に切り出すところを見て味わっていただきたい一品です。手の空いているときなら店主は快くそのあたりの話を聞かせてくれるはずです。
もちろんシェリーもオススメ。シェリーについて何も知らなくても店主は親切にいろいろ教えてくれながらお酒を見繕ってくれます。場合によっては、例の長い柄杓を使って小さなグラスへシェリーを注ぐベネンシアドールならではの芸当を目撃できるかも。水戸、ホントに良い街なんですよ。