NTTインディカー・シリーズ第15戦ゲートウェイでラップダウンから逆転優勝した佐藤琢磨。ポコノ戦のアクシデントの一件から甦り大きなドラマを見せ、終盤の3連戦のラストとなるポートランドへと向かった。
昨年のポートランドのウイナーでもあることから琢磨の注目度は高く、ポートランドでは地元TV、ラジオ局の出演が目白押しで大忙しの現地入りとなった。ゲートウェイに続いて2連勝、そして昨年に続いてポートランド2連勝なるか?と大きな期待を寄せられていた。
プラクティスが始まると最初のプラクティスでは10番手に甘んじたものの、「他のマシンはおそらく半分か少ない燃料で走っていたと思うのですけど、僕たちは燃料を満タンで走り始めてライバルとほぼ同じタイムで走れていたので、ペースとしては悪くないと思います」と明るい見通しを語っていた。
やはり昨年の勝利がチームのモチベーションを高めているのか、もしくは良いデータが手元に残っていることがプログラムを順調に進めているのだろう。
だがその流れを変えたのが予選だった。1周がわずか1分足らずでラップするポートランドでは、ライバルとの差も僅差。わずかな失敗や判断ミスが致命的となる。
琢磨はグループ1での予選となったが、ブラックタイヤで順調にタイムを出したが、レッドタイヤに履き替えて57秒9668をマークするが、9番手でQ1通過ならず。通過した6番手のザック・ビーチとの差はわずか0.025秒だった。他にもジョゼフ・ニューガーデンやシモン・パジェノーなどトップコンテンダーもQ1通過を果たしておらず、波乱の予選となった。
しかし昨年20番手からのスタートで優勝したことを思えば、レース展開次第では上位入賞もチャンスがないわけではない。もちろんフルコースコーションが何回が必要となるが、ここ数戦追い上げるレース展開となっている琢磨にしてみれば望むところだ。
このポートランドはターン1がシケインとなっているのだが、過去11回のスタートで8度イエローコーションとなっているこのサーキットの鬼門。そして今年も例に漏れることなくアクシデントが起きた。
ポールポジションを獲ったルーキー、コルトン・ハータ、そしてそれを追うスコット・ディクソンはきれいにクリアしたが、後続はカオス状態。インに飛び込んだグラハム・レイホールがザック・ビーチに追突! さらにジェイムズ・ヒンチクリフ、コナー・デイリーらを巻き込んだクラッシュとなった。
レイホールに押し出されるように動いたデイリーは、避けて通ろうとした琢磨の右リヤに接触した。
一見大きな接触には見えなかったが、琢磨のマシンはリヤサスペンションとサイドポンツーンにダメージを追いピットイン。ピットで曲がったロッドの交換を行ってコースに戻ったが、すでにトップから2周遅れの19番手だった。
「前で何が起きているかわからず左に避けたんだけど、誰かがドン!と当たった」と振り返る。
上位入賞には程遠い順位となってしまったが、琢磨はマシンを労わりながら走行を続けた。ライアン・ハンター-レイとジャック・ハーベイの接触で出たイエローコーションの後には、ステファノ・フェルッチとエド・ジョーンズの2台を自力でオーバーテイク。ポジションを上げ続けた。
手負いのマシンとなったマシンながら、上位とほぼ同タイムで走行を続けており、接触さえなければと悔やまれる。
「マシンにダメージがあって、ディクソンにバックストレッチであっさり行かれてしまったので、多分エアロダイナミクスにも影響あったんだと思います。最後のスティントはレッドタイヤにすれば、もっと良いペースだったかもしれないけど、もう前の車には追いつけなかったし、ラグナセカのためにブラックを履いてタイヤの様子を学んでおきたかったので、ブラックで行きました……」。
前のフェルッチがマシントラブルでリタイアしてからは、もう大きなジャンプアップも望めず、15位で順位は固まった。
トップのウィル・パワーがチェッカーを受けた後、琢磨も無事に走り切ってピットに戻ってきた。マシンは満身創痍で痛々しい。
「今日はスタートのアクシデントがすべて。厳しいレースになりました。最後のラグナセカの前にはシミュレーターにも乗りますし、今年最後のレースですから、出来る限りの準備をして最終戦に向かいたいと思います」
今季2勝、ポールポジション2回と言う好成績ながらランキングは6位。このままならインディ参戦10周年目の今年は過去最高の順位で終えることになるが、今まで数々のドラマを生んできたラグナセカで、琢磨がどんなレースを見せるのだろうか。