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YouTuberの動画時間、なぜ年々長くなる? 人気チャンネル5組の動画より考察

2019年09月02日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「YouTuberの動画」と聞いて、みなさんはどんなものを思い浮かべるだろうか。かつて流行した「メントスコーラ」や「スライム風呂」など、企画やビジュアル自体にインパクトがあり、5分前後で気軽に視聴できるものを想像する人も少なくないだろう。しかし最近では、人気YouTuberでも10分を超え、場合によっては30分、1時間という長い動画を投稿するケースが目立っている。


(参考:UUUM代表取締役・鎌田和樹氏が宮藤官九郎に「YouTuber」を解説 「テレビとYouTubeは敵/味方じゃない」


 それはなぜなのか。まずはこの素朴な疑問を解決するため、日本におけるマルチジャンルのトップYouTuberを対象として、その動画時間の変遷を追う調査を行った。


 対象として、2019年8月現在、チャンネル登録者数の多いクリエイターで、かつ長期的に活動し、動画投稿本数も多い、「はじめしゃちょー」「HIKAKIN TV」「Fischer’s-フィッシャーズ-」「東海オンエア」「水溜りボンド」の5組を選出。各クリエイターの年間再生数上位50件の動画から、各年の動画時間における平均値を算出し、2015年以降の数値をデータ化した。なお、2019年は1月1日から8月28日までの動画を対象とし、長時間の生放送アーカイブなど、イレギュラーな動画は除外して計算を行なっている。調査結果は、以下の通りだった。(※本記事ではグラフを画像にて掲載)


 2015年から2016年の間ではどのクリエイターも動画時間はほぼ横ばいとなっているが、2017年に向けて動画時間が長くなり、それ以降、現在に至るまで伸び続けていることがわかった。次に、同じデータを用いて年間再生回数上位50件中、10分以上の動画は何本あるかを調査した。(※本記事ではグラフを画像にて掲載)


 すると、2016年まではどのクリエイターも再生時間が10分を超える人気動画は一桁台だったが、2017年になると特にヒカキンとフィッシャーズが激増。水溜りボンド、東海オンエアも2018年に急増していることがわかった。特にヒカキン、東海オンエアにおいては、2019年は人気動画の大半が10分を超えるものだった。長時間の動画は、視聴者にも受け入れられていると言えそうだ。


 これには、年を経るごとに各クリエイターに固定のファンが増えたことも大きく影響しているだろう。つまり、初見でもストレスなく楽しむことができ、拡散されやすい短時間の動画ではなく、ファンがじっくりと見られる動画の需要が増え、高い再生数が期待できるようになったことも大きいはずだ。また、YouTubeというプラットフォームのアルゴリズムとして、長時間の動画が「おすすめ動画」としてレコメンドされやすく、結果として拡散しやすいという議論もあり、こちらを意識しているクリエイターも少なくないかもしれない。


 一方で、2016年から2017年にかけて動画時間が大きく伸び始めた、という調査結果を見るに、この期間にYouTubeの動画広告として「バンパー広告」が導入されたことも少なからず影響していると思われる。バンパー広告とは、ユーザー側でスキップすることはできないが、最長で6秒と時間を短く設定することにより広告をストレスなく最後まで視聴させるもの。ユーザーは視聴する動画に対して表示される広告の割合が大きくなるほど煩わしさを感じるもので、スキップできない動画広告を複数回挿入して収益を上げるには、「長時間の動画とバンパー広告を組み合わせる」というのは理に適っている。


 また2017年には、「トップYouTuberは毎日投稿が当たり前」という風潮と、それによりクリエイターに過剰な負担がかかっている状況に一石を投じる形で、ヒカキン、はじめしゃちょー、フィッシャーズ・シルクロードの3人が、『ぼくたち、休みます』と題したコラボ動画を公開したことが大きな話題になった。現在では700万再生を超えているこの動画により、無理な毎日投稿を避け、きちんと休息を取るべきだ、という機運が高まり、量より質を意識した動画作りが行われるようになった結果として、動画時間が伸びてきたという側面もあるかもしれない。


ぼくたち、休みます


 もっとも、上記のようなクリエイター側の都合だけではなく、視聴者側の変化にも要因はあると考えられる。総務省『平成29年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』によると、「10代及び20代の若年層では、テレビ系動画の平均利用時間は平日休日ともに減少傾向が継続している一方で、ネット系動画の平均利用時間は概ね増加傾向にある」とあり、今後もこの傾向は強くなることが予想されている。特に若年層において、YouTubeの動画は「空き時間にサクッと見る」ものから、場合によってはかつてのテレビ番組を代替するエンターテイメントとして受容されるようになっており、「長時間の動画に短い広告が挟まる」という、“ながら見”にも適したスタイルが受け入れられやすくなっていると考えられる。


 YouTubeというプラットフォームの仕様変更や、視聴者の意向を細やかに汲み取り、日々の動画制作に反映するフットワークの軽さは、YouTuberの強みだと言えるだろう。昨今話題になることが増えた“規制強化”も含めて「動画のあるべき形」が日々変わっていくなかで、YouTuberが生き残ることができるかどうかは、その観察眼と実行力にかかっているのではないか。


(堀田愛美)