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『ノーサイド・ゲーム』元日本代表・廣瀬俊朗演じる浜畑は陰の主人公? ドラマと現実がシンクロ

2019年09月02日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』第8話が9月1日に放送された。


 8月29日に、ラグビーワールドカップ日本大会に向けた日本代表メンバーが発表された。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチに率いられた過去最高との呼び声も高いチームに期待が寄せられている。


参考:新進俳優・眞栄田郷敦が語る、『ノーサイド・ゲーム』挑戦の裏側 「最終的には23kg」


 一方、『ノーサイド・ゲーム』において、里村(佳久創)の抜けたアストロズは、レギュラー争奪戦の部内マッチに向けて競争が加速していた。前のシーズンで、予算の少ないチームの強化方針として外国人選手を放出したが、今回も主力の移籍がチーム内の競争を活性化し、選手一人ひとりのポテンシャルを引き出す結果となった。


 司令塔であるスタンドオフのポジションを賭けて、 浜畑(廣瀬俊朗)に挑戦するのは新人の七尾(眞栄田郷敦)。しかし、かつて膝の怪我でラグビーをあきらめかけた七尾は、古傷の不安に加えて、80分間を走りきるスタミナがないという課題があった。そんな七尾に同じポジションのライバルである浜畑は知り合いの鍼灸師を紹介する。「ベストの状態のお前を叩きのめさないと意味がない」、「わかったら全力でかかってこい」と言う浜畑。無骨な男の胸に秘めた優しさに触れた瞬間だった。


 いろいろな意味で、第8話は浜畑の回だった。レギュラーを賭けて臨んだ部内マッチの結果を受けて、浜畑が七尾にかけた言葉に思わず目頭が熱くなったのは、筆者だけではないだろう。『ノーサイド・ゲーム』が伝えようとするラグビースピリットを体現する浜畑は、今作の隠れた主人公といえる。すでに各所で報道されているが、浜畑を演じる廣瀬俊朗は元日本代表キャプテン。2015年のワールドカップでは開幕前にキャプテンを解任されたが、チームに帯同して対戦相手の分析や関係者のエールが収録されたVTRを制作するなど、日本代表躍進の陰の立役者として知られている。


 『ノーサイド・ゲーム』に登場する浜畑は元日本代表という設定だ。第7話でも、サイクロンズ監督の津田(渡辺裕之)の「前回のワールドカップでベンチ入り」云々という話や、「日本代表に返り咲きたくないのか」というセリフがあったが、ドラマの浜畑と現実の廣瀬がシンクロするシーンは今作の注目ポイントでもあり、制作陣の粋な計らいを感じさせる部分だ。


 第8話で、フェアプレーに徹する浜畑の姿に心を打たれた人物がもう一人いた。これまでの放送でも小出しに登場していたが、カザマ商事が開発を進めるゴルフ場「府中グリーンカントリークラブ」の社員・青野(濱津隆之)である。燃料商社のカザマ商事が関わる、ある重大な疑惑を巡るキーパーソンが青野だった。常務の滝川(上川隆也)主導のもと、カザマ商事の買収を進めるトキワ自動車だったが、その矢先、過去に起きたタンカー座礁事故の原因が、カザマ商事のバンカーオイルにあるという情報を君嶋(大泉洋)はつかむ。関係者から事情を聞き出す中で次々と新事実が明らかになっていく。


 事故調査とゴルフ場建設への反対運動、亡き妻との思い出、そして、怪我を負ってラグビーをあきらめた過去。点と点がつながり、急転直下、君嶋はトキワ自動車を守るために動き出す。予告映像で流れた「懸命に戦っている彼らから未来を奪わないでほしい」という君嶋のセリフが誰に向けられたものだったか明らかにされ、ドラマ終盤に向けて伏線が回収された。


 「ただ勝つだけでなく、正々堂々と戦って勝つ。それがアストロズのラグビーなんです」(君嶋)。なんという愚直さかと驚くが、今作を見ると、ひとつくらい、そんな世界があってもいいんじゃないかとも思う。誇りを持って生きることの意味を問いかける『ノーサイド・ゲーム』。はたして、アストロズと君嶋は未来を手繰り寄せることができるのだろうか?


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。