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桜井日奈子、さユり、LiSA…女性ボーカルから求められるMY FIRST STORY Shoのブレない作家性

2019年08月30日 10:41  リアルサウンド

リアルサウンド

桜井日奈子『花と毒薬』

 女優の桜井日奈子が8月16日、「花と毒薬」で歌手デビューした。「花と毒薬」は桜井が主演を務めるドラマ『ヤヌスの鏡』(FOD)の主題歌。厳格な家庭で育てられたおとなしい性格の優等生・ヒロミが、ある日何にも動じない性格の不良少女・ユミに変身し――という同ドラマの物語のなかで、桜井は初めて二重人格を持つ人物を演じている。


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 美少女グランプリ出身で、“岡山の奇跡”という呼び名とともにデビューした桜井は、これまではヒロミのような役どころが多く、ユミを演じるのは新境地だと彼女自身も認めている(参照:リアルサウンド映画部)。そんななか、「花と毒薬」はユミの恐れ知らずな性格を体現したハードロックとなっており、桜井のボーカルにも凛とした佇まい。端的に言うと “透明度の高い美少女”という従来のイメージを覆すような曲だった。


 「花と毒薬」の作曲・サウンドプロデュースを担当したのはMY FIRST STORYのSho(Gt)だ。Shoは現在MY FIRST STORYとしての活動を休止中だが、バンドの楽曲制作や、他アーティストへの楽曲提供は積極的に行っている。


 例えば、さユり×MY FIRST STORYの「レイメイ」は、作詞をさユりとHiro(Vo)、作曲をさユりとSho、アレンジをMY FIRST STORYが担当している。同曲は基本的に、さユりが曲の原型を作り、そこにマイファスのメンバーがバンド的なエッセンスを注入する、というやり方で制作されたそう(参照:音楽ナタリー)。そのなかでさユりは自身の制作した曲ではめったにないポエトリーリーディングに挑戦。疾走感抜群なHiro(Vo)とのツインボーカルで以って、望むものを手に入れるため、何度でも立ち上がる人の姿を表現した。


 SCANDALを輩出したキャレスボーカル&ダンススクール大阪校のメンバーによるガールズバンド・GIRLFRIENDの「キセキラッシュ」は、編曲をShoが手掛けており、作曲はGIRLFRIENDとShoの共同名義になっている。リリース当時のインタビューによると、バンドとしては「夏が似合う、すごく爽快感があってテンポの速い曲を作りたい」「SHOさん(※原文ママ)と一緒に楽曲を作る以上、私たちだけじゃ生まれない表情はもちろん、他のガールズバンドには表現出来ない一面を出したい」という狙いがあったとのことだ。(参照:Music Voice)その結果、例えばMINA(Ba)がそれまでやってこなかったピック弾きに挑戦するなど、「キセキラッシュ」は演奏面におけるトライアルの多い内容に。いい意味でこなれ感のない演奏は泥臭く情熱的で、ポップで爽やかなアーティストイメージとは異なる印象をリスナーに与えた。


 以上3曲には2つの大きな共通点がある。ひとつは、Shoを制作者として迎えるにあたり、曲を提供される側が、普段とは毛色の違うアプローチに臨んでいること。もうひとつは、曲のなかの主人公がいずれも強い意思を持ち、悩んだり挫けそうになったりしながらも、前を向いて突き進むような人物であること。逆に言うと、そういう人物像がShoの得意とするハードロック系のサウンドと相性が良いということだろう。


 それを踏まえて考えると、LiSAの「罪人」はやや特殊であり興味深い例だ。「罪人」は作詞がLiSAで、作曲・編曲がSho。LiSAは先述のようなSho制作曲の特徴について「夢や希望に向かう葛藤を歌うのにとても似合う楽曲」と言及。そのうえで「せっかくなら普段MY FIRST STORYさんが歌わないようなLiSAが歌う言葉をのせたい」とし、狂気と紙一重の愛情を女性目線で歌詞に書いた(参照:LiSAオフィシャルブログ)。どうやら彼女は“LiSAというボーカリストをShoの色に染める”というよりはむしろ、“Shoから提供された曲をLiSAの色に染める”という意識で臨んでいるよう。それはおそらく、LiSAが桜井日奈子やさユり、GIRLFRIENDと比べて、他アーティストから提供された曲をこれまでたくさん歌ってきたボーカリストだから――言い換えると、“キャリアのどのタイミングでShoから提供された曲を歌ったか”が前出の3組と違っているから、であろう。これまでのキャリアを通じて、名だたる作家陣による多種多様な曲を歌ってきたLiSAは、表現者として、曲が最も面白くなるようなアプローチを発明しようというフェーズに差し掛かっている。


 バンドのソングライターが外部アーティストに曲を提供するとき、それを課外活動的に捉え、所属バンドとは異なる作風にする人もいるが、Shoの場合はバンドのやり方をそのまま輸出しているような印象。アーティスト性の拡張を狙い、新たな表現の獲得を目指す女性ボーカリストがShoによるハードロックを求めるのは、そのブレない作家性によるところが大きいのかもしれない。(蜂須賀ちなみ)