山本尚貴とF1の関わりが、何やらざわついている。
昨年の最終戦アブダビGPに姿を現した山本は、今年に入って7月末のドイツGP、そして今週末のベルギーGPにも訪れる予定だという。
じつは昨年のアブダビ時点で、本人のF1に対する意思は100パーセント固まっていなかった。その理由は31歳という年齢や海外経験の少なさからくる不安、F1を目指して欧州で戦っている後輩たちへの配慮などが挙げられた。
しかし、あれから半年以上が経ち、いま山本本人はF1への挑戦を決意している。その意思が先日のホッケンハイム、そしてスパ・フランコルシャンといったグランプリ現場の訪問というかたちになって表われているのだ。
海外の報道も含めて見渡してみると、実際のところ山本は「日本GP金曜日FP1の走行」と「トロロッソのサードドライバー」を目指してさまざまな交渉を行なっていると考えられる。
ちなみに、FP1を走るためには、スーパーライセンスポイント「25点以上」を獲得していることと、型落ちF1マシンによる「300km以上」の走行実績が必要で、また、サードドライバーとなるためには、スーパーライセンスを保有していること=スーパーライセンスポイントが直近3年で「40点」を超えている必要がある。
これらの条件確認や資格獲得については、事務的な手続きも含めて継続的に行なわれていると思われる。その交渉相手はFIAやチームであり、詳細な交渉結果は正式なアナウンスを待つしかない。
この山本のF1挑戦については、国内外からさまざまな意見が聞こえてくる。F1の現状をよく知る人々のなかには「世界はそんなに甘くない」「いまから挑んでも手遅れだ」などネガティブな考えを展開する人もいる。
また「日本のレース界はこれまでの歴史から何を学んだのか? かつては日本で経験と実績を積んでから挑んでいたが『それでは通用しない』ことを学んだからこそ、『若いうちから欧州で戦う』方法に行き着いたのではないか」と声を荒げる人もいる。
たしかにそれらは正論だ。実際に海外のレース現場に足を運ぶと、F1を夢見て世界中から若いドライバーが集まっている現状を目にすることができる。彼らは若いうちから欧州チームの仕事の進め方を学び、路面やタイヤへの理解を深め、さらにFIA-F2/FIA-F3など“F1直下のレース”を戦うことで、グランプリ独特の雰囲気にも慣れ親しんでいる。
もしも、山本のF1挑戦が実現したら、これらすべてを飛び越しての挑戦となるわけで、それゆえに日本国内で経験を重ね、実績を積んだ山本のチャレンジに懐疑的な考えを示す人がいる。
では、山本が31歳という年齢で「日本からF1に挑む」ことは本当に無意味なのだろうか? いまや日本でトップの強さを誇る山本が、果たして世界でどれだけ戦えるのか、多くの国内レースファンにとって純粋な興味は尽きない。そして、その思いは国内のレース関係者も同様だ。
「僕は31歳という年齢がマイナスだとは思わない」(中嶋一貴)
「本当に日本で一番のヤツが行くべきだと思っている。だからこそ山本には(F1に)乗ってほしい」(星野一義監督)
関係者の声も、おおむね山本の挑戦を後押しする方向だ。
では、仮に山本のF1参戦が実現したとして、残念ながら太刀打ちできなかったらどうだろう。じつは、それでも日本のレース界にとって大きな意味があるはずだ。
なぜならならば、ハイブリッド時代の現代F1で戦うために求められる能力を山本が身をもって知ることで、将来、その経験は後進の育成に大きく役立つことが見込めるためだ。また、HRD Sakuraにあるシミュレータも、山本の実走行での経験を落とし込むことで、精度がいっそう向上することは間違いない。
現在発売中のオートスポーツ最新号(No.1514)では、こうした山本のF1挑戦について国内レース関係者、F1ジャーナリスト、海外からの視点、そして山本尚貴本人の言葉(独占インタビュー)を多角的に知ることができる。