2020年の日本開催も現実味を帯びてきているWRC世界ラリー選手権。今回は国内でも人気が再燃しつつあるラリーを2001年からフォローし、2008~16年にはWRC見たさにイギリス・ロンドンで居を構えていたラリー好き『CHOCOサイダー』さんが、生粋のラリー好きならではの目線で現地の雰囲気をお届けします。
今回はソーセージとワインの街、ドイツ・ボスタルジーで行われたWRC第10戦ドイツの現場から。ごゆるりとお楽しみください。
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みなさま、グーテンターク! CHOCOサイダーと申します。2019年の開催が危ぶまれていたラリー・ドイチェランド、今年も無事にカレンダー入りを果たし、開催を迎えました。
こちらはサービスパークが設置されるボスタルジーの湖。束の間のドイツの夏を満喫する方々が訪れます。
ドイツと言えばソーセージ。サービスパークに来ると無視できません。
バンズはソーセージを掴むためだけのツールとして扱っていいのでしょうか。なんとも黄金比を無視した絶妙なバランスです。
2019年のラリー・ドイチェランド、注目のひとつは今大会でWRC最上位クラスデビューする勝田貴元選手。まずは完走が目標とのこと。ここまで着々とステップアップしてきております。
さて、サービスパークをさまよっていると、セバスチャン・ローブ選手が2003年に操ったシトロエン・クサラのレプリカ(?)が! 思わず「クサラーーー」と声に出してしまいました。
この当時のローブさまは、グラベル(未舗装路)ではさほど速くなく、ターマック(舗装路)スペシャリストと呼ばれ、ターマックイベントのラリー・ドイチェランドでは向かうところ敵なし!
めっちゃくちゃ速かったんだよなぁ……と、ペター・ソルベルグ世代の私は過去に思いを馳せながら宿に向かいました。
ラリー・ドイチェランドと言えば美しいブドウ畑をかっ飛ぶ、ちょっと“イカれた”非現実的ラリー。何度訪れても、モーゼル川を下に見るこの景色は、他のラリーにはない唯一無二の存在です。
ラリーカーを待つ間、私はひとりブドウたちに熱視線を送ります。「もう1カ月ほど、すくすく育って、美味しいワインになってね」と念をこめて。
マーシャルのおじさん、というかおじいちゃん? ご高齢の方々も現場で多数活躍されています。こういったボランティアの方々による支えで、無事に大会が運営されているのです。
今回のゼロカー(コースの安全を最終確認する車両)はスバル・インプレッサ。やはりハッチバックよりセダンの方が迫力があってカッコいいですね。
そしてバックショットを撮影した後に気づきました。コリン・マクレー選手を背中に走っているではありませんか! まさか、伝説のスコットランド人ドライバーを、このドイツでフィーチャーしてくるとは思いもしませんでした。
初日からトップ争いを繰り広げるオット・タナク選手とティエリー・ヌービル選手に食らいつこうとするセバスチャン・オジエ選手。
ラリー・ドイチェランドで強かったはずの彼が、“ガチンコ”ターマックでふたりに追いつけないなんて、数年前は考えられません。
タナク選手とヌービル選手が速くなったのか、はたまたオジエ選手が遅くなってしまったのか。なんとなく強さが徐々に失われていく姿を見るのはなんとも切ないです。
はてさて、ここはモーゼル、ワインの産地ということで、ラリーの他にも楽しみがございます。
ステージとなっているブドウ畑の麓にはワイナリーが星の数ほど点在しており、一見営業していないように見えても、インターホンを押せば家主が出てきてワインが買えてしまうのです。
ただ有名どころではないかぎり、ほとんどのワイナリーはドイツ語しか喋れませんので、コミュニケーションに悪戦苦闘しますが、それもまた楽しかったりします。
ドイツで代表的なワインはリーズリングワインですが、個人的にはライン川などのリーズリングよりもモーゼルリーズリングの方が安くて美味しいと思っています。
リーズリングの中でも、アウスレーゼやらシュペートレーゼやらトロッケンやらと、味の種類も豊富ですので、ドイツを訪れる機会がありましたら、ぜひ何種類か試していただきたいところ。
ワイナリーでの購入場所はこういった倉庫内の場合が多く、まるで自分が業者になったかのような気分が味わえます。
友人からお使いを頼まれたこともあり、4件ほど巡り歩いて、気づけば手元にはワインが10本。1本3.5ユーロ(約410円)から10ユーロ(約1200円)まで、すべてフランクフルトの友人宅まで無事に持ち帰りました。
この日のごちそうは、もちろんソーセージ。ドイツ語力が乏しい私が適当にメニューから頼むと、何故か毎回コレが出てきてしまいます。
もはや縁でしょうか……。それともドイツ人の方は、私がソーセージを食べるべきだと判断しているのでしょうか。ハーブがきいていて、とても美味しいので文句はありませんけどね。
そして、こちらもラリー・ドイチェランドを代表する名物コースのひとつ。軍用地内のバウムホルダーです。
これまでは午前と午後に1ステージずつ組み込まれていましたが、今回は午後に2ステージという変化球。おかげでたっぷり睡眠を取れましたが、逆光で写真は撮りづらい……。
まだスタートまで数時間あるのに、こちらのお父さま方はできあがっております。いったい何杯ビールを飲んだんですか? と思わず聞いてしまったほど。いくつになっても仲間と集って楽しめるのは素敵です。
今回は日本人ファンも多く見かけました。トヨタの活躍もあって、ラリーに興味を持つ方が増えたのでしょうか。WRC初観戦という方もいらっしゃいましたが、みなさん最後まで楽しく過ごせたでしょうか。ぜひまた、WRCの会場でお会いしたい!
競技3日目、土曜日の走行が始まると、トップ争いをしていたヌービル選手がパンクで90秒ロス。母国ベルギーの隣国ということもあり、たくさんの応援団がいるなかで手痛いトラブルです。
そして気づけばオジエ選手に競り勝っているクリス・ミーク選手とヤリ-マティ・ラトバラ選手。トヨタさん、あっという間にワン・ツー・スリー体制です。
まだ最終日の日曜日がありますし、(第8戦イタリア)サルディーニャでは最終ステージでタナクにトラブルが起きた場面を覚えているので、何が起こるか最後までわかりません。
ここからはドライバーたちのプレッシャーに打ち勝つメンタルコントール術が問われるわけです。
トヨタテントとトヨタ応援団を背に駆けるラトバラ。ひさしぶりにラトバラ選手がいい光を浴びている気がしました。
ちなみに、こちらのバウムホルダーで行われるステージは“Panzerplatte(パンツァープラッテ)”という名前が付いております。聞くところによると、日本語で胸部用の鎧という意味なんだとか。
現地で販売されていたオフィシャルグッズには、パンツァープラッテの文言を使ったアイテムがあり、部分的に迷彩柄が採用されていたりと、あまりオシャレなイメージがないドイツラウンドにしては、なかなか素敵なセンス。
思わずキャップを購入してしまいそうになりました。こういったグッズは一期一会ですので、非常に悩ましいです。
さてさて。サービスパークに戻ると勝田選手がファンおひとりおひとりにファンサービスしておりました。このファンサービスは本当に大切で、これをきっかけにファンが増えていくのです。かく言う私もそのひとり。
海外のWRCファンからは「タカモト、タカモト!」と呼ばれていて、すでに親しまれているように思えます。WRCオフィシャルサイトでも勝田選手を紹介する動画が公開されていました。
金曜日から土曜日まで、トップで戦い続けているタナク選手。貫禄さえ感じます。ラリー・メキシコで池ポチャ、“タイタナック”していたころとは、まったく違う表情をしています。
さて最終日。今日も今日とてブドウ畑を歩いて、ジャンプポイントへ。道中、前を歩いているおじさんたちは勝手にブドウをむしり取って食べていました。けしからん!
あまりの酸っぱさにすぐ吐き出すかと思っていたら、構わず食べ続けるので呆れてしまいました……。くれぐれも真似しないように。
そんなブドウたちを背にカメラを構えるみなさま。ここは地面の傾斜がキツく、うっかりすると滑り落ちてしまうので、体勢を整えながらの撮影です。
このジャンプポイントで、一番キレイにカッコよく飛んでいたのは、前日トラブルで泣いた(かどうかはしりませんが)ヌービル選手。トップ3を独占するトヨタ勢は抑えた走りを徹底しているのか、3台ともまったく飛ばず。
結果を出すためにリスクを避ける戦略なのは理解できますが、早起きしてテクテク歩いて待ち構えている観客としては、やはり派手なジャンプをみせてくれるほうがうれしいものです。
完走することを目標に、と語っていた勝田選手。WRC最上位クラスデビュー戦で見事に総合10位完走でポイント獲得! 本当に今後が楽しみなドライバーです。
ひと足早めにサービスパークへ戻り、最終パワーステージを中継で視聴。固唾を飲んで走行を見守るTOYOTA GAZOO Racing WRTのスタッフも、3台そろってポジションを守りフィニッシュすると、歓喜と歓声に包まれました。
本当にポディウムを独占してしまったなぁ。なにかすごいものを見せつけられた気がします。昔々シトロエンがラリー・ドイチェランドでポディウムを独占した光景を目の当たりにしましたが、日本メーカーが同じことを成し遂げるとは……。
本人としてもやり遂げた感触があったのか、特にラトバラ選手の表情が印象的でした。ドライバーの努力もさることながら、エンジニアさんやメカニックさん達の労苦が結果に繋がったのでしょう、おめでとうございます! このポディウム独占が2020年ラリー・ジャパン招致に向けたブーストになったでしょうか。
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■CHOCOサイダー
愛知県出身。フリーランス・グラフィックデザイナー。
2001年、兄がスバル・インプレッサWRX STIを購入したことがきっかけでWRCの存在を知り、WRCレビュー放送のヘビー視聴者に。初WRC観戦の2004年ラリー・ジャパンをきっかけに英会話の習得を開始。
2008年春、本場のWRC観戦を目的に渡英。ロンドンを拠点に年間4~8戦ヨーロッパラウンドを中心に観戦。2016年の帰国後も一年の半分近くをヨーロッパで過ごしながら、小型ミラーレスカメラSONY α6000とNEX-5Rを片手に年間4~5戦を奔走中。