トップへ

『ルパンの娘』のラブストーリーとしての巧妙さ 2人の“ズレ”が後半戦盛り上がりの起爆剤に!?

2019年08月29日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ルパンの娘』(c)フジテレビ

 主人公を演じる深キョンのボディコンシャスな衣装と、いきなり歌って踊り出すミュージカル要素でも話題になっている『ルパンの娘』(フジテレビ系)。


 この作品が視聴者を魅了するのには2つの理由が挙げられるだろう。


 1つ目がまさに“現代版ロミオとジュリエット”とも言える「立場や境遇が正反対の者同士の交わり」。物語をよりおもしろく盛り上げ、共感を呼ぶための設定として鉄板ではあるが、その大枠に則りながらもこの作品が型にはまっているようではまっていないのは、「片方がその違いを本当の意味では理解していない」状況で物語前半が進んだところにあるだろう。


 桜庭和馬(瀬戸康史)は、両親から恋人・三雲華(深田恭子)との結婚を反対されているものの、当初あくまでそれは「華の一族が警察関係者ではないから」という理由だった。実際は、華は憎むべき泥棒一族の娘な訳だが、そうとは知らずに、男性側は真実よりも随分ライトな「警察関係者かどうか」という違いに苦悩し、全てを知っている女性側が自分の身の振り方についてさらに深く葛藤するという構図をとっていた。


 和馬は表層的な問題に対峙し「それでも一緒に乗り越えよう」と意気込み、健気で一生懸命だ。華にとってそれが嬉しくもあるが、ただ問題はもっと根深い「そもそも」の相容れない部分にあり、彼の努力は全くの見当違いでその努力も虚しく終わるということまでわかっていた。それでも、「自分のため」「2人のこれからのため」に試練に立ち向かってくれていることには変わりなく、その必死さに華は揺れ動く。


 一般的によく「女性は婚約後マリッジブルーに陥り、男性は婚約をするまでの間にマリッジブルーになる」と言われているが、本作でもその男女差が如実に現れていた。華の正体がわかった後、やはり結ばれない運命だと嘆いていた和馬だが、それでも自分が選んだ相手だと腹を括った瞬間、彼の中での「守るべきもの」「信じるもの」が一気に明確になり、迷いが振り払われたのが見て取れた。これまでは上司の操作命令や両親の何気ない一言を気にかけて「警察一族に生まれた自分」、「警官としての自分」などそれぞれの「自身の顔」と矛盾を抱えていた和馬が、それらの顔を全て統合させて「運命共同体の華を守る」ことに突き進んでいく。


 本作がコメディ一辺倒に見せつつも、この特異なシチュエーション下において一般的な男女の感情の機微や恋愛模様をきちんと描き切っているところに新鮮味を覚える。


 このドラマが描く恋愛は「どんなあなたも好き」「どんな君もありのまま受け入れる」という、恋愛の1番のジレンマであり痛みを伴う苦悩でもありながら、同時に果てしない喜びにもなり得る、究極の“愛の超越性”がわかりやすく映し出されている。男女双方が自身の出自、家系という逆らえないルーツをも凌駕して、2人で一緒にいることを選ぼうとする。職業的には犬猿の仲であるはずの華と和馬がそうしようとする時、互いの仕事の上でも助け合えてしまうことで、立場は正反対ながら共通目的を持っている彼らの関係性が実は表裏一体であることに気づかされる。


 2つ目は誰もが持つ「変身願望」を深キョンのあの抜群のルックスで体現してくれているところにあるだろう。泥棒一家に生まれたことに反発しながら、図書館司書として勤務する「お昼の顔」と、血には抗えず盗みの才能が疼いてしまう「夜の顔」という、本来持ち合わせ得ない2大ギャップを1人の人間の中に内包させ、その両方で1人の男性のことを全力で愛していのだ。


 和馬が知っているお昼の顔と、裏稼業の夜の顔という2面性。あるいは家族が自身に求める役割と、2人が共にいることで裏切ってしまう家族の存在・想いという相容れない二項対立。その狭間で、華と和馬は、「引き裂かれそうになりながら」その折衷案を見出そうとする。その姿は、たとえここまで現実離れした状況と矛盾を孕まずとも、実生活において様々な顔を持たざるを得なくなっている、こと現代女性の心を捉えるのであろう。


 和馬は華が嘘をついているその裏側まで見極めて一緒にいることを選んだ。そこで、和馬は最初から身元を明かし自分を偽ることなく振る舞えていた自分自身の方が余程楽で、苦し紛れに嘘をつき続け、理由も告げずに別れようとしなければならなかった華の方が辛かったのだと気づくことができたのは、2人の関係を描く上では重要なプロセスだっただろう。


 「嘘」をつくということは、何かを隠し通してでも絶対に守らなければならないものや貫きたい意志があるということでもある。その点ではなかなか真実を告げられなかった華は、決して優柔不断ということではなく、彼女が大切に思い、今まで様々な“普通”を諦めながらも、それでも手を伸ばそうとしたものが和馬だったということだ。


 果たしてそんな2人は無事結ばれるのか。交わるはずのなかった2人が運命に逆らおうとする時、どんなことが起こり、周囲もそれに巻き込まれていくのか、後半戦も目が離せない。(文=楳田 佳香)