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鈴鹿10時間:“負けず嫌い”の兄を引き出した弟。脇阪兄弟が駆ったLMcorsaのポルシェが表彰台に

2019年08月27日 19:41  AUTOSPORT web

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鈴鹿10時間:薫一から寿一へドライバー交代を行う印象的なシーン。
2019第48回サマーエンデュランス『BHオークション SMBC 鈴鹿10時間耐久レース』は8月25日、決勝レースが行われた。トップグループの激しい戦いに注目が集まるなか、シルバークラス、そしてプロ-アマクラスでは日本チームが表彰台を獲得している。特にプロ-アマクラスでは、参戦へ大きな話題を集めた脇阪寿一/脇阪薫一/中西慧組LMcorsaの60号車ポルシェ911 GT3 Rが3位表彰台を獲得している。

■ひさびさのGTカーレースを楽しんだ寿一
 2015年限りでスーパーGT GT500クラスのシートを下り、その後はTOYOTA GAZOO Racingのアンバサダーを務めるとともに、LEXUS TEAM LeMans WAKO'Sの監督を務めてきた寿一。TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceを戦いレーシングドライバーとしては戦い続けてきたが、弟である脇阪薫一が中西慧とブランパンGTシリーズ・アジアの2戦、そして鈴鹿10時間に参戦するにあたり「僕はいつも兄のうしろを追いかけてきたので、非日常的なスピードで、ギリギリな状態で走っているのが似合うと思っていた」と鈴鹿10時間の第3ドライバーとして白羽の矢を立てたのが兄の寿一だった。

 ひさびさのGTカーでのレース。しかも、2000年前後のGT500なみのスピードで走らなければいけないGT3カーでのトップクラスの戦いに挑んだ寿一。LM corsaの60号車ポルシェのルーフには『Juichi is Back』の文字が貼られた。ポルシェを走らせることについては、「深く知ることで『もっといいクルマづくり』の役に立てば」とTOYOTA GAZOO Racingアンバサダーとしての役割も担っていた。

 そんなLM corsaの60号車は、予選27番手から決勝を戦った。途中、接触によりリヤのインナーフェンダーが破損。タイヤと干渉する状態があったが、これをそのまま外すことでレースを戦い続け、最終的に総合24位/プロ-アマクラス3位という成績を残した。かつてスープラを駆った寿一が飯田章、そして薫一とともに飾ったような総合優勝という成績ではないが、見事表彰台に立ってみせた。

「このチームで表彰台に登れたのは良かったと思いますし、ポルシェというクルマでブランパンGTシリーズ・アジアは2戦出場していますが、まだ分かっていない部分があるなかで、こういう成績を出せたのは良かったです」とレース後寿一は語った。

「今回、レースを充分楽しむことができたと思います。トラブルもあったり、アクシデントでインナーフェンダーを外して空力がおかしくなったりしたなかで、しっかり完走までもっていくことができた。ポルシェはそれでも完走までもっていけるクルマなのにも驚きましたね」

 長年スーパーGTを主戦場としていた寿一にとっては、GT3を使うSRO規定のレースを戦うことも新鮮だったという。

「このスピード領域で、ジェントルマンも楽しめるこのカテゴリー、このクルマはすごいと思いますし、カテゴリーの未来を感じることができた。そのクルマを使うオーナーたちに対しても、メーカーがステータスを与えている。それもすごいですよね」

「プロクラスを観ていても、アンダーカットしたりというのもありますが、ピットイン~アウトの時間も決まっていて、コースに戻れば同じ場所にいる。おもしろいですよね。性能調整の部分もありますが、これはこれでおもしろかったです。でも、もう少しピレリタイヤを知らないといけないですね」

■“負けず嫌いの脇阪寿一”が出てきた。目的達成に満足の薫一
 ひさびさのビッグレースを戦った寿一は、レース以外にもトークショーに出演したり、ファンサービスを行ったりとまさに多忙なレースウイークを戦った。そして、そんな寿一のもとには、「呼ばれていないけど呼ばれた感じ(笑)」という横溝直輝や密山祥吾といった、脇阪兄弟の仲間たちが集い、まさにファミリーのような雰囲気でチームを助けた。

 そんなチームをまとめていたのは薫一だが、レース後に話を聞くと、開口一番で兄についての思いが出てきたのが印象的だった。

「脇阪寿一はお祭り男ですね。やっぱり目立つと思いました」と薫一。

「若い頃は兄についていくばかりでしたが、いま、僕は僕の考え方がある。昔、鈴鹿1000kmに出たときは、ただついていった感じでしたが、今回はこうして違う立場で兄を誘いました。レース中、何度か兄弟ゲンカしそうにはなりましたが(笑)、やはり兄から学ぶことはすごく多かったです」

 そして今回の鈴鹿10時間参戦へ向けて、薫一が求めた寿一への思いは実ったようだった。

「良かったと思うのは、最初はカッコつけて引き気味で『レースを楽しみます!』なんて戦っていたのが、レースが進んでいったら、僕が若い頃から知っている、“負けず嫌いの脇阪寿一”という部分が出てきたこと」と薫一は言う。

 TGRアンバサダーとして、監督として、レースを伝え、戦っている寿一だが、「最近まわりから『寿一さん!』と慕われているような脇阪寿一は、脇阪寿一じゃないと思うんです」というのが弟としての思いだった。

「僕がやりたかったのは、負けず嫌いで、エゴイストな脇阪寿一を引き出して、兄の気持ちに火を点けたいということだったんです。僕はそんな兄についていってレースをやっていましたし、火を点けることよって、兄が今やっているアンバサダーや、監督という仕事がひとつレベルが高いものになると思っていたんです」

 GT3という肉体的にも負担が大きい速いレーシングカーを走らせ、かつてともに戦った仲間やライバル、そして世界の強豪と戦うことによって、ふたたび“レーシングドライバー脇阪寿一”を引き出す。薫一は、自らの思いが実現したことに満足している様子だった。

「僕の狙いは良かったと思いますし、これもGTカーのレース。スーパーGTは引退したドライバーですが、何度でも火を点けようと思ったら点くんだな、と思いました。ファンの皆さんにとっても良かったのではないでしょうか」と薫一。

「表彰台という結果はそれはそれでいいことですが、兄を誘った理由としてはいろいろな要素があったので、それは狙いどおりだったと思います。それに今回、チームの皆さんもそうですし、横溝とか密山とか、若手では菅波冬悟とかも手伝ってくれましたし、マー(柳田真孝)や吉田(広樹)もピットに来てくれた。そういう雰囲気を作れたので、皆さんに僕たち兄弟は感謝しています」

 ひさびさにトップクラスのレースを戦い、その雰囲気を楽しんだ元F1ワールドチャンピオンのミカ・ハッキネンもそうだが、こうしてトップドライバーがふたたびレースを戦うことができるのも、GT3カー、そして真夏の祭典である鈴鹿10時間のひとつの魅力だろう。そして、そんなレースで表彰台を獲得したのは、薫一が語るとおり「お祭り男」の寿一ならではか。

「ひさしぶりに兄弟でレースをしましたが、このプロジェクトは薫一がやりたいことをやっているチームで、そこに呼ばれて必要最低限のことはできたのかな」と振り返った寿一。ファンとしては、また近い将来に“火が点いた寿一”を観たいところだ。