トップへ

スペイン人ライターのF1便り:わずか半年でレッドブル昇格を果たしたアルボン、フェルスタッペンより早く躍進を遂げられるか

2019年08月27日 13:51  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

2019年F1第13戦ベルギーGPからレッドブル・ホンダのマシンを駆るアレクサンダー・アルボン
スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。今回はレッドブル・ホンダに昇格したアレクサンダー・アルボンについて語る。

---------------------------------

 F1に劇的な情勢の変化があった。各チームがサマーブレイクに入ったその日、レッドブルは第13戦ベルギーGPからアレクサンダー・アルボンとピエール・ガスリーを入れ替えると発表したのだ。

 つまりガスリーは、新人のドライバーと入れ替えられ、かつてレッドブルから降格された経験を持つダニール・クビアトとペアを組むことになる。

 一方のマックス・フェルスタッペンは、レッドブル/トロロッソのプログラムから降格も放出もされることなくトップドライバーとしての地位を築くことができた。これは間違いなく非常にドラマチックなことだ。

 今回トロロッソからレッドブルに昇格したアルボンだが、正直なところこれまでの走りに大きな感銘を受けている。私は常にアルボンを高く評価していたが、2019年シーズンのアルボンは私を驚かせ続けている。

 前回のコラムで、私はアルボンがフェラーリのシャルル・ルクレールから、いかに称賛されていたかについて書いた。ルクレールは、F1に昇格する前のジュニアシリーズにおいて、アルボンが最強のライバルであったことを指摘していたのだ。

 それは2016年のGP3のことだった。アルボンとルクレールは、ARTグランプリのチームメイト(福住仁嶺と現在FIA-F2首位のニック・デ・フリースも同じチームに在籍していた)だったが、最後のレースまでサイド・バイ・サイドの戦いをしていた。ルクレールに敗北を喫した翌年、アルボンは着実な、だがあまり見栄えのしないF2デビューイヤーを迎えたが、最近亡くなったDAMSのチーム代表ジャン・ポール・ドリオットは彼をチームに残留させることを決めた。そして2018年のアルボンは、FIA-F2でドライバーズランキング3位となったのだ。

 これはドリオットの天才的な最後の選択だっただろう。その数年前にレッドブルの支援を失ったドライバーのキャリアを救ったのだ。

 その後のアルボンは2018/19年に向けフォーミュラEのニッサン・e.DAMSと3年契約を結んでいたが、この若い才能に目を付けたレッドブルが引き抜く形でトロロッソのF1ドライバーになった。FIA-F2でアルボンを支援してきたDAMSとしては、不満が残る結末となっただろうが、突如やってきたF1への誘惑を断ることはできないだろう。

 ミサノで2019年型トロロッソSTR14をシェイクダウンするまで、アルボンはF1マシンで1周も走ったことがなかった。しかし、アルボンはすぐさま適応し、オフシーズンテストと最初の数戦でルーキーらしいミスを何度か犯したものの、確固とした結果を次々と出すようになった。

 もちろんクビアトの方がもう少し安定しているが、アルボンがF1ドライバーとして文字通りたった半年の経験しか持ち合わせていないことを考慮する必要がある。なんと素晴らしいことだろう!

 数字はすべてを物語ってはいないが、たとえば波乱の展開となった第11戦ドイツGPを見てみれば、クビアトが3位表彰台(12ポイント)、アルボンが6位(8ポイント)を獲得している。

 クビアトが3位表彰台という結果を手に入れたことを考慮に入れても、まだアルボンには特筆すべきことがある。それはドイツGPの朝まで、彼はF1マシンをウエットコンディションで走らせたことがなかったのだ。

 それでも彼はレースで6位につけ、2019年シーズン前半戦で最高の結果を出したのだ。同じルーキードライバーであるマクラーレンのランド・ノリスも優れた走行で競争力を発揮しているため、アルボンが今年のベストルーキーとまではいえないかもしれないが……。

 ガスリーを降格させたことは正しいことだったのだろうか?アルボンをガスリーのシートに据えることは最良の選択肢だったのか?実は、F1のパドック内ではガスリー交代についての話は数戦前から出ていた……。しかし多くの記者たちは、それは悪い冗談であり、どれだけガスリーが苦戦し、レッドブルが外部からどれだけ厳しく見られているのかを表しているだけだと語っていた。

 どれだけ多くの記者が、ガスリーがレッドブルで今シーズンを終えることはないと本当に考えていたのか、私には分からない。個人的には、ハンガリーGPの結果を見てガスリーがレッドブルRB15をベルギーGPでドライブすることはないと確信していた。この数戦におけるフェルスタッペンとガスリーとの差はあまりにも大きかった。

 レッドブル・ホンダが、今ではメルセデスに次ぐ2番目に優れたF1マシンを有していることを忘れてはいけない。今チームはコンストラクターズランキング3位にあるが、それは彼らのセカンドドライバーであるガスリーが先頭集団で何かが起こらない限りは、基本的に6位より上の順位で戦うことができていないからだ。そしてガスリーの結果はそれを下回ることもある。

 チームとしては1台のマシンが優勝を争う一方で、もう1台のマシンがトップ6位以下で苦戦している状況は受け入れられないのだ。最近の数戦ではガスリーはフェルスタッペンに対し1周遅れになることもあった。この事態はどのチームにとっても受け入れがたいことだろう。

 私はガスリーが素晴らしいドライバーであることに疑いを持っていない。2018年のガスリーはトロロッソ・ホンダで何度か非常に目覚ましい走行を見せた。またガスリーは2016年のGP2チャンピオンであり、2017年に参戦したスーパーフォーミュラではタイトル獲得まで0.5ポイントのところまで迫っていた。

 間違いだったのは、トロロッソで1年目を終えた直後のガスリーを、レッドブルへ昇格させたことではないだろうか。クビアトについてもまさに同様の問題があった。それにしても、レッドブルはなぜシーズン前半戦を終えた段階でアルボンをレッドブルに昇格させるのだろう?

 クビアトがより適任である可能性もあるだろう。しかしクビアトを追い出した後で、次はレッドブルに昇格させるということをすると、チームのイメージが非常に悪く見えるかもしれない。そして理論的には、若いドライバーは成長するポテンシャルがより高い。

 アルボンの昇格は、デビューしてからメインチームへ到達した他のレッドブルドライバーの誰と比べても文字通り最も早いものとなった。例外として2005年のビタントニオ・リウッツィの件があるが、当時トロロッソは存在しておらず、レッドブルはレースで勝てるマシンではなかった。

 マクラーレンでキャリアを始めたルイス・ハミルトン以来、より少ないレース経験しか持たないアルボンが優勝できるマシンを手に入れたという事実は非常に興味深いだろう。

 私はアルボンがトップチームの重圧に苦しまなければ、今シーズン終わりまでに少なくとも1回は表彰台に上がると予想している。アルボンはレッドブルに表彰台を獲得できる実力を証明するためにもそうしなければならないし、チームは彼の走りに大きな関心を持っている。

 優勝はどうだろうか?その可能性は低いだろう。2台のメルセデスとフェラーリ、そしてフェルスタッペンがいるのだから。だが不可能ではない。

 ところで、ドライバーのレーシングナンバーについて面白い偶然があることに気づいているだろうか?もし33番を選び、そこから10を引くと、答えは23だ。別の言い方をすれば、フェルスタッペン(No.33)からガスリー(No.10)を引くと、アルボン(No.23)になるのだ。なんと奇妙なことだろう!