スウェーデンで長年の伝統を誇るツーリングカー選手権、STCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権こと現TCRスカンジナビアの第5戦が8月17~18日にカールスクーガで開催され、初戦でホンダ・レーシング・スウェーデンby MA:GPのマティアス・アンダーソン(ホンダ・シビック・タイプR TCR)がTCR規定シリーズ化後の初優勝を達成。続くレース2はアウディ勢のトビアス・ブリンク(アウディRS3 LMS)が勝利し、王者PWRレーシングは選手権首位陥落の苦しい週末となった。
スウェーデン国内でもっとも歴史と伝統あるトラックとして知られるカールスクーガのゲラーローゼン・アリーナは、予選を前にまとまった雨量が観測され、ポールポジション争いはフルウエットでの勝負に。
その高難度のセッションで速さを披露したのは、2017年にTCR規定導入初年度のドライバーズタイトルを獲得しているPWRレーシングのエース、ロバート・ダールグレン(セアト・クプラTCR)だった。2019年はパープルのカラーリングをまとったPWRセアト・ディーラーチームのマシンを操るエースが、今季3度目のポールを手にした。
しかし、この新興トップチームの戦績によりSTCC独自のウエイト搭載が課されているセアトは、レース1スタートでもその苦しさを露呈し、フロントロウに並んだマティアス・アンダーソンのFK2型シビック・タイプRに軽々と先行されると、その後もドライとなったトラックでポジションを挽回するようなペースが見せられない。
そのダールグレンの背後では、軽さを武器にマシンを左右に振って揺さぶりをかけてくるアンドレアス・アールベルグのフォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRがテール・トゥ・ノーズでプレッシャーを掛けてくる。
PWRエースドライバーの窮地に対し、なんとか援軍をとオープニングの攻防でポジションを上げたミカエラ・アーリン-コチュリンスキー(セアト・クプラTCR)は、4番手からフォルクスワーゲンを追撃。STCC史上初の女性ウイナーとして歴史に名を刻んでいるコチュリンスキーは、今季も開幕戦勝利のあとコンスタントに表彰台争いに絡む好調さを維持し、アールベルグを3番手争いに引き止める好アシストを披露する。
しかしダールグレンのクプラに前を行くシビックを追走するパフォーマンスは残されておらず、17周のレースはアンダーソンがトップチェッカー。1.939秒差の2位にダールグレン、6.563秒差の3位にアールベルグの表彰台。以下、コチュリンスキー、アンドレアス・ウェルナーソン(アウディRS3 LMS)の続くトップ5となった。
この上位勢のポジショニングが大きく影響したトップ6リバースのレース2は、6位フィニッシュだったブリンク・モータースポーツのトビアス・ブリンク(アウディRS3 LMS)が、選手権でのポイント争いを優位にする好走を披露し、そのままリバースポールからライト・トゥ・フラッグで今季2勝目を獲得。
一方、ポイントスタンディングで首位に立つダールグレンは、5番グリッドから1コーナーへ向かうと、ここで悲劇に見舞われる。
4番グリッドのゴルフに乗るアールベルグに続き、6番グリッドのシビックを操るアンダーソン、そして8番手から躍進してきたトーマス・エングストロム(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)が相次いでダールグレンをかわして1コーナーへ飛び込むと、エングストロムを挟んでリバースグリッド組のふたりとスリーワイドのバトルに発展。
するとマシン右サイドをバリアに擦り付けたアンダーソンのシビックが中央のエングストロムにヒットし、彼はトラックを横切る形でスピンモードに。その際、VWゴルフのノーズが脇をすり抜けようとしたダールグレンのクプラに激しくヒットし、ラジエーターがダメージを受けストップ。そのまま両車ともにリタイヤとなってしまう。
これでタイトル争いのライバルが消えたブリンクは悠々のトップチェッカー。2位はオープニングの攻防を生き延びたアールベルグ、3位にコチュリンスキーのポディウムとなった。
「すべては一瞬で起こった。避けられないアクシデントだったよ」と、肩を落としたダールグレン。
「僕も素晴らしいスタートを切っていたんだが、後ろから相次いで先行された。それでギヤを2速に入れたときに前のエングストロムが誰かにタップされて、僕の方へ飛んできたんだ。横向きに飛んできたマシンに対して、できることはそれほどない。1000回同じ場面に出くわしても、同じ操作をしたと思うよ」と、アクシデントを振り返ったダールグレン。
これでドライバーズスタンディングでも176点で首位のダールグレンに対し、2位ブリンクが161点と15点差まで詰め寄り、僚友のウェルナーソンも18点差のランク3位に。3週間後の9月7~8日開催、シリーズ唯一の海外戦となるデンマーク・レセンブロ、ユランリングでの第6戦を前に、PWRレーシングは19点差でブリンク・モータースポーツにチームスタンディング首位を明け渡す苦しい展開となっている。